【amazarashi】『amazarashi LIVE 3
60°「虚無病」』2016年10月15日 at
幕張メッセ イベントホール

撮影: 山添雄彦 、木村篤史/取材:田山雄士

 新作ミニアルバムとその初回生産限定盤に付く小説、さらにライヴをリンクさせる。この大規模なプロジェクト“虚無病”に着手し始めたのは、なんと幕張公演が決まった後のことだという。にもかかわらず、朗読する物語にミニアルバム『虚無病』のナンバーだけでなく、今までの楽曲をも鮮やかに溶け合わせ、amazarashiとしてのひとつの集大成すら見せてしまう。過去の歌詞や作品全てに一貫性があると証明した、とも言い換えられるステージだった。才気爆発の秋田ひろむ(Vo&Gu)。改めて、凄まじい表現者だと実感せざるを得ない。

 タイトル通りの全方位ライヴは、数曲ごとに小説の朗読を挟みつつ、そのたびにステージが回転。秋田と豊川真奈美(Key)をはじめ、演奏メンバーの向きが変わる仕組みで進む。ステージを囲む4面メッシュLEDモニターから壁、天井までをフルに使い、レーザーにタイポグラフィー、アニメーションによる映像演出も盛りだくさんな中、オーディエンスはただただジッと見つめて受け止める。虚無の犠牲者が抱く絶望を、未来への不安を。自分が生きる世界と重ね合わせながら。実際、冒頭で秋田が読む虚無症候群の観察報告書では、“厚生労働大臣が緊急会見を開き、非常事態状況下にはないと明言した”などと、現代社会への皮肉や怒りを込めた文面が出てきたりもする。

 悲しみを帯びたアニメーションキャラクターの舞踏とともに埋葬シーンで演奏された「穴を掘っている」、《こんな時代に生き延びるだけでも 容易くはない》《僕らの日々は流れに摩耗して 明るいニュースを探している》のフレーズが360°を射貫いた「性善説」、緊迫する脱走劇の最中でやさしく響いた「逃避行」、クライマックスで物語をグッと昇華させた「つじつま合わせに生まれた僕等」、今回でより光り輝く希望の歌になった「僕が死のうと思ったのは」。やっぱり、どれもこの日のために書かれた曲のよう。《最後の最後に 笑えたらそれでいいんだよ》と歌う「ジュブナイル」では、観客の表情がリアルタイムでモニターに映るという、すばらしいプロジェクション演出もあった。

 映画のようにエンドロールが流れた後、“僕らはここに居ちゃ駄目だ”の文字から“ありがとうございます、幕張メッセ。最後の曲です。夜の向こうに答えはあるのか”と秋田が切り出し、万感の「スターライト」へ。夜明けを目指してあてもなく走る車窓の映像に乗せて、目映い光と叫びで会場全体が照らされ、安いメディアミックスとは一線を画す総合芸術「虚無病」は幕を閉じた。なお、終演後にはアナザーストーリーを描いたピクチャーブック『kyomubyo another story picture book -nothingness-』の制作・販売も発表! こちらもぜひチェックしてみてほしい。

セットリスト

  1. 虚無病
  2. 季節は次々死んでいく
  3. タクシードライバー
  4. 光、再考
  5. 穴を掘っている
  6. 吐きそうだ
  7. ジュブナイル
  8. ヨクト
  9. アノミー
  10. 性善説
  11. 冷凍睡眠
  12. カルマ
  13. 逃避行
  14. 多数決
  15. 夜の歌
  16. つじつま合わせに生まれた僕等
  17. 僕が死のうと思ったのは
  18. スターライト
amazarashi プロフィール

アマザラシ: 青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出がないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界が口コミで広まり、瞬く間にリリースされたアルバム全てがロングセールスを続けている。ライヴではステージの前にスクリーンが貼られタイポグラフィーなどを使用した映像が投影されて行なわれるスタイルで独自の世界観を演出し、3DCGアニメーションを使ったMVは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。amazarashi オフィシャルHP

OKMusic編集部

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