【Mr.Children】


取材:松浦靖恵

ひとりひとりの生活の中にだって、勝ち負けに関係ない大切なものがある

昨年は2枚のアルバム『HOME』『B-SIDE』を発売し、アリーナツアーとスタジアムツアーを行ない、デビュー15周年というアニバーサリーイヤーを精力的な活動で駆け抜けた、Mr.Children。ツアー終了後に映画『恋空』の主題歌となったシングル「旅立ちの唄」をリリースした後も、彼らはゆっくりとオフを取ることもせず、すぐに次なる新曲を制作するためにスタジオに通う日々を過ごしていたらしい。「旅立ちの唄」以来、約9ヶ月ぶりにリリースするニューシングル「GIFT」は、彼らのそんな日々の中から生まれた曲だ。

タイトルチューン「GIFT」は、もうすぐ開催される『北京オリンピック』のNHK北京オリンピック放送テーマソングになっている。桜井和寿はこの「GIFT」の歌詞の最初に“一番きれいな色ってなんだろう?”“一番光っている色ってなんだろう?”というフレーズを刻み、この歌を聴く人たちにその輝きが何なのかを問いかけている。Mr.Childrenの楽曲で“色”がたくさん登場している歌がある。それはアルバム『HOME』の3曲目に収録されている「彩り」だ。あの歌で桜井和寿が描いたいくつもの色たちは、本当にカラフルだった。なんてことのない毎日や日々繰り返される作業だって、自分の気持ちの持ちようや考え方の角度をちょっと変えるだけで、モノクロの日々が赤や黄色や緑や金色や銀色に変わっていくのかもしれないと、桜井和寿はそんな想いを「彩り」の色たちに注いでいた。では、「GIFT」で彼が問いかけた“一番光っている色”“一番きれいな色”とは何色なのだろう。「GIFT」が『北京オリンピック』のNHK放送テーマソングということを思うと、やっぱり一番輝いていてきれいに光っている色は、“金メダル”の金色だろう。ひとつの競技、種目で、たったひとり(またはたった1チーム)しか手にすることのできない金メダル。頂点に立った者にしか与えられない金メダル。その輝きは本当に素晴らしく、栄誉と価値のあるものだ。けれども桜井和寿はそのメダルの色よりも、もっと光り輝く色があるはずだと思いを巡らせた。勝者のみに与えられるメダルよりも、その勝ち負けだけに注目が集まりがちな評価よりも、もっともっと大切なものがあるはずだ、と。桜井和寿は“勝とうが負けようが、それこそスポーツの世界だけじゃなくてみんなのひとりひとりの生活の中にだって、勝ち負けに関係ない大切なものがあるはずだ”と言う。それは大切な人の存在だったり、何があっても見守っていてくれる人だったり、何気ない友人の言葉だったり…etc。その存在や言葉が自分にとって大事なGIFTになり、それは宝物になっていつも心に残るものになって、どんなに辛くてもまた頑張ることができたり、一生懸命になれたり、笑顔になることができるんだと思う。

ちょっと余談にはなるけれど、4人がスタジオに集まってレコーディングをしている時に、桜井和寿はたまにポロンとできたばかりの曲を弾き語りしてメンバーに聴いてもらうことがあるらしい。いい曲ができたと思っても、自分だけがそう思ってるだけかもしれないし…なんてちょっと不安にもなったりして、彼はドキドキしながら、しかもさり気なく(!?)弾き語っちゃうのだとか。そんな時3人から“この曲、いいね!”“この曲好きだな”なんて反応が返ってくると、“ああ、この曲を作って良かった!!”と、一刻も早くみんなでレコーディングがしたくなるのだという。桜井和寿に贈られたメンバーの言葉は、彼にとっての大切なGIFT。彼らの日常の中にもGIFTはこんなふうに、さり気なくあるのだった。

さて、2曲目「横断歩道を渡る人たち」は、桜井和寿の中にあるフォークとMr.Childrenのバンドサウンドと軽快なホーンセクションが絶妙なバランスで重なり合ったパワフルなナンバー。いつも見ている何気ない光景や風景を、畳掛けるように勢いよく歌にする彼の声は、とても荒々しくて痛快だ。ちなみに「横断歩道~」の歌詞に登場する人物たちは、実際に彼が近所の商店街で見かけた人たちなのだとか。そして、その風景は私たちの側にある日常にもありそうで、この歌を聴いた後には思わず日々の暮らしを見回してみたくなるはずだ。

3曲目「風と星とメビウスの輪(Single Version)」は、ピアノと歌のみで届けられるシンプルな曲。子守り歌のような優しさを持ち、温かな体温を感じる歌は、ゆっくりと心に浸透していくだろう。

今夏は今作『GIFT』のリリースを皮切りに『ap bank fes’08』などの夏フェスへの参加や、ライヴDVD『HOME TOUR 2007~in the field~』のリリースが予定されている。そして、なんと9月には早くも次なるシングル「HANABI」の発売も予定され、08後半のMr.Childrenのアクティブな活動に私たちは目を離すことができないだろう。

Mr.Children

1989年に桜井和寿(Vo&Gu)、田原健一(Gu)、中川敬輔(Ba)、鈴木英哉(Dr)の4人によって結成され、92年に第5のメンバーともいえる小林武史プロデュースによるミニアルバム『Everything』でデビュー。93年頃から徐々に注目を集め、ついにシングル「CROSS ROAD」が120万枚以上のセールスを記録した。以後、日本を代表するロック・バンドとして不動の地位を確立しながら、「innnocent world」(第36回日本レコード大賞受賞)「終わりなき旅」「Sign」(日本レコード大賞・金賞)「GIFT」「HANABI」など数々の大ヒットシングルを発表。オリコンシングルチャートにおいては「innocent world」以降の全シングルが初登場1位を獲得しており、現在も記録を更新中である。壮大なサウンド・アレンジが光るバンド・アンサンブルと、桜井自身の直情ともとれる歌詞——ポップ感あふれるノリのいいナンバーも、アコースティックが冴えわたるバラード調の曲も、真っ向勝負でかます真摯な姿勢には、ロックバンドとしての自信と新境地へ向かう勇気を垣間見ることができる。

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