【ライブレポート】THE YELLOW MONKEY、第二期へ向かう為の<メカラ ウロコ・29 -FINAL->
▲Photo by 有賀幹夫
平成という時代がまもなく終わる年の瀬に、平成元年に産声をあげたTHE YELLOW MONKEYが、12月28日(金)に日本武道館にて<THE YELLOW MONKEY SUPER メカラ ウロコ・29 -FINAL->を開催した。
<メカラ ウロコ>とは、THE YELLOW MONKEYがバンド結成日である12月28日に不定期で開催してきたスペシャル公演で、各同時期・同年に開催されるツアーやライブとは一線を画し、主にバンドのコアな楽曲群が披露されてきた。ファンの間では伝説となっている旧日本青年館公演(1993年)での「MORALITY SLAVE」の再現演出で始まった1996年公演のオープニングをはじめ、吉井和哉が指揮したオーケストラとの感動的な「真珠色の革命時代~Pearl Light Of Revolution~」、もう見ることもないだろうと思っていたジャガーの恋人、マリーが歌った渾身の「MERRY X'MAS」など、蘇る名シーンが数多くあるイベントであり、THE YELLOW MONKEYの第一期最後のライブとなった2001年1月8日の東京ドーム公演も含まれる。
再集結後も、2016年は日本武道館にて、2017年は福岡ヤフオク!ドームにて開催されたバンドのバースデー・ライブ。2018年、そのファイナルを迎えるのに最も相応しい場所、日本武道館にて開催された約3時間に及んだショーの模様をレポートする。
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大きくせり出したステージ。開場中、360°解放されたステージの上では20人のストリングスで形成されたメカラウロコ楽団がクラシカルな音楽を奏でていた。“FINAL”と銘打たれた<メカラ ウロコ>、しかも2018年のライブはこの日のみ。その言葉が醸す不安と期待とが交錯する中、日本武道館には第九の「歓喜の歌」が鳴り響き、ほんの少し希望の側へと気持ちが傾いた。そして楽団の音が止んだ。静寂の暗闇の中、ピンクのライトが怪しく武道館の天井を染め、始まったのは「ジュディ」だった。
▲Photo by キセキミチコ
遡ること約18年前、2001年1月8日に開催された<メカラ ウロコ・8>。あの日のライブが第一期THE YELLOW MONKEYの解散前最後のライブであり、その幕を開けたのがこの曲だったことを思い出す。続く「サイキックNo.9」の流れもまさに当時を思い出させるもので、一気にフルボルテージへと加速していく躍動感ある勢いを体で感じているのとは裏腹に、頭の中には無機質で空虚感が漂っていた東京ドーム公演の記憶が蘇ってくる。まさか、あの<メカラ ウロコ・8>の再現をするのだろうかと眉をひそめたところで、吉井の「Let's go」の声で「A HENな飴玉」に突入し、思わず胸をなで下ろした。
曲が終わり、「元気でしたか? 記念すべきTHE YELLOW MONKEYのバースデーです。心の汚れは今年のうちに、心の大掃除を一緒にしてください」と語りかける吉井の言葉で、客席に張り詰めていた空気がようやくほぐされると、ANNIE(菊地英二)の軽快なドラミングによって「Oh! Golden Boys」へ。初期の人気ナンバーのアッパーさと懐かしさでバンドもオーディエンスもようやく緊張が解けた様子だった。
そこからの「STONE BUTTERFLY」、「DEAR FEELING」、「GIRLIE」ではヘヴィな楽曲群が連なる展開。待ち焦がれていた!と言わんばかりのオーディエンスの熱気に、演奏力・表現力に秀でたバンド・サウンドがたまらなくしっくり来る。そこへ、重厚なストリングスがドラマティックな音を何層にも重ねていく。なんてゴージャスなんだろう。
続くMCでは、これが今年初めとなるライブであること、そして、<メカラ ウロコ>のファイナルを迎えるにあたり、<メカラ ウロコ・8>の頃のバンドが不穏だった時代の楽曲や、日の目を浴びない作品群を演奏するという説明によって、アルバム『8』や初期作品からの選曲が多いこと、さらにはオープニングに込められた意図を知ることになった。
続くセクションは、柔らかな照明に包まれた「This Is For You」では多幸感が溢れ、アレンジによりスケール感がより広がった「DONNA」が演奏されると、今も昔も変わらない独特の世界観を持つ「仮面劇」でTHE YELLOW MONKEYならではの側面を見せつけた。
▲Photo by キセキミチコ
2016年に再集結して3年経ち、「一筋縄ではいかないこともある」と話した吉井は、<メカラ ウロコ>について「ファンとの忘年会みたいなもの」と言った。ここではライブとは無関係な土偶や埴輪などの話や、「ポンのコーナー」と称した特効の銀テープ遊びに興じる姿を見せ、バンドがとてもよい状態にあることを垣間見せた後、「イエローモンキーのコアな部分を聴いて欲しい」と言い、「遙かな世界」が始まった。
歌とギターで始まる『jaguar hard pain 1944-1994』(3rdアルバム)時代の強力なこのナンバーで、それまでの緩みきった会場の空気を一変させ、バンドの核とも言える世界へオーディエンスを一人残らず引き込んだ。あの頃のTHE YELLOW MONKEYは最もギラギラしていて、常に攻めの姿勢だった。戦争も絡めたコンセプト・アルバムだったので、戦時下における極限の恋愛をイメージしてしまい、聴いているこちらまで身が引き締まる。その世界観のまま「月の歌」が歌われ、静かで強く、激しい楽曲が続いた後は、「薬局へ行こうよ」、「I CAN BE SHIT, MAMA」へと流れた。
そして、赤色の照明がMVを彷彿とさせる世界観のなか放たれたのは、この日初披露となった新曲「天道虫」だった。
この日のライブを振り返って、ずば抜けて圧倒的で際立っていたこの楽曲では、進化が止まらないバンドとしての攻めの姿勢がありありと見られた。2018年が終わると共にこれまで続けてきた<メカラ ウロコ>にも終止符を打ち、再集結後初となるアルバムを完成させた今、日の丸の下に立つ彼らの存在感は半端なく大きなもので、歳を重ねたロックバンドとしての風格がひしひしと感じられた。まさに、新たな幕開けを予感させる軽快で重厚で王道なロックナンバーに超満員の武道館が揺れて痺れた瞬間だった。
圧巻の「天道虫」の余韻を裁ち切るような「甘い経験」では、レインボーカラーの照明がポップさを増大させ、外せない代表曲「SUCK OF LIFE」でたたみかけた。そして、吉井が口を開いた。
THE YELLOW MONKEYという名で日の目を浴びたこと、これから先を歩むために<メカラ ウロコ>という名をやめてみること、そして「再集結して楽しいことばかりだけど、冬と向かい合う日」であることを告げる。「113本必ずやりました」と付け加え、本編最後の曲「離れるな」が始まった。
1998年4月から1999年3月、バンド史上最多の113本ものライブを決行した<PUNCH DRUNKARD TOUR>。このとき、バンドに歪みが生じていたというのは再集結後に知ることとなるわけだが、見えない何かと闘っているような、ひどく辛そうなメンバーの姿を悶々としながら観ていた当時の自分の心境もフラッシュバックし、心臓に痛みを覚えた。
過去を受け入れ、現実を見つめなければ先の未来を見ることはできない。それができて初めて人は前に進むことができるというのが定説だが、それがバンドとなると、過去をうまく受け入れられなかったり現実を見誤ったりして自滅することだってある。しかし、THE YELLOW MONKEYは違った。