『HARENOVA Vol.03』ライブレポート 「音楽シーンの今日と明日、表と裏を一晩で見渡せる」
リアルサウンドでは前回に続き、イベントにゲストウォッチャーとしても参加した音楽ジャーナリストの宇野維正氏によるライブレポートを掲載する。「HARENOVA」の趣旨についてはこちら。(リアルサウンド編集部)
・出演アーティスト
スライディングが普通の歩き方
ORIE
被写体X
NeruQooNelu
BOYS END SWING GIRL
オワリカラ(ゲストアクト)
・ゲストウォッチャー
原田公一(ソニー・ミュージックアーティスツ)
豊島直己(ビクターエンタテインメント)
川崎みるく(ソニー・ミュージックレーベルズ/キューンミュージック制作部)
小倉昭彦(ソニー・ミュージックアーティスツ)
宇野維正(音楽ジャーナリスト)
・スライディングが普通の歩き方
最初のアクトは、2010年に結成された自称「B級ヒップホップ集団」、スライディングが普通の歩き方。いわゆる生音ヒップホップバンドで、2MCにギター、ベース、ドラム、さらにシンセ、サンプラー、サックス、コーラスの総勢9人の大所帯。トバしまくるMC2人と、黙々とグルーブを生み出していくバンドの面々、さらにはステージ上では炊飯器を抱えて謎の動きをしているメンバーもいたりするのだが、そんなカオスも含めて、雑然とした佇まいがこのバンドの持ち味。サックスをフィーチャーしたファンキーでオーガニックなサウンドは、ヒップホップの範疇におさまらないこのバンドだけのオリジナリティを誇っていた。
■ゲストウォッチャーコメント
原田公一「ヒップホップをやっているからには、もっとお客さんを巻き込んでいくような、攻撃的な姿勢を見せてほしかった。ステージで照れくさそうにやっているのが気になりましたね」
小倉昭彦「特に1曲目の『Panic Panic』はジェットコースターみたいな曲調でスリリングで面白かったです。ただ、パフォーマンスはもっとガツンとやってほしいな(笑)」
・ORIE
2番目のアクトは、平均年齢19歳、都内のライブハウスを中心に活動しているORIE。男女による掛け合いボーカル(曲によってはベースのわかつきがリードをとって、ギターのマツカワイクトがコーラスを歌う)という最近のバンドにおいては珍しいスタイルで、その特徴を活かしたキャッチーなメロディと清冽なギターサウンドが特徴。また、独特の言語感覚による繰り返しの多い歌詞も印象に残る。結成から間もないこともあって、バンドの統一感、オーディエンスの盛り上げ方などライブパフォーマンスの見せ方においてはまだ課題が残るものの、化ける可能性は大いにアリ!?
■ゲストウォッチャーコメント
豊島直己「すごく雰囲気のあるバンドで、正直『いい!』と思いました。ただ、まだ演奏面の力量が追いついてないところがあって。特に2本のギターのアンサンブルなどに研究する余地があると思いました」
川崎みるく「わかつきさんのボーカルは女の子なのにミドルがしっかりしていて、マツカワさんのボーカルは男の子なのにハイがキレイな声で。二人の声が重なるところはすごく魅力的なんだけど、オイシイところが近い声でもあるので、曲によってはキーを変えるとか、まだまだ工夫のし甲斐があるんじゃないかな」
・被写体X
3番目のアクトは、2010年に都内で前身バンド結成、翌2011年に現在のピアノトリオ編成となった被写体X。女性ボーカルをメインとするいわゆる「聴かせる」タイプのピアノトリオではなく、カオティックなピアノの旋律とタイトなリズム隊が織りなす、予測不可能でスリリングな楽曲構成がインパクトを生んでいる。各メンバーのプレイヤビリティも高く、曲の途中でいきなり激しくなるなど、聴かせ所を押さえた緩急自在な演奏も見事。最もポップで素直なメロディが鳴らされていた4曲目の「メリーさん」からは、このバンドの大きな可能性を垣間見ることができた。
■ゲストウォッチャーコメント
宇野維正「音楽的なスキルの高さとその完成度に驚きました。ただ、意図的にそういう選曲にしたのかもしれませんが、今日はテンポの早い曲ばかりだったので単調さがちょっと気になりました。ゆったり目の曲も是非聴いてみたい」
小倉昭彦「アバンギャルドとポップの間を行き来しているんですけど、アバンギャルドに寄りすぎている曲もあったりして、ちょっと頭でっかちなところを感じました。とてもいいキラキラしたメロディも持っているバンドなので、もっといいバランスがあるんじゃないかな」
・NeruQooNelu
4番目のアクトはNeruQooNelu。昨年結成されたばかりながら、一朝一夕に身に付くわけがない飛び抜けたセンスを誇る、プロフィールに謎の多いバンド。その音楽性はピクシーズ、あるいは女性ボーカルという意味ではそのメンバーのキム・ディールが結成したブリーダーズを思わせるような90年代USオルタナティブロック。しかも、その最上級のヤツ。「それを今の日本で鳴らす意味は?」なんて疑問も頭をよぎるが、聴いているうちにサウンドのあまりの気持ち良さにどうでもよくなってしまう。ウソかホントか「海外進出も計画している」とのことだが音のクオリティ的にはそれにも頷ける、メンバーのキャラクターもそれぞれ別々のベクトルで濃い、とにかく異色のバンドだった。
■ゲストウォッチャーコメント
豊島直己「グルーブもあって、サイケデリックで、非常に楽しめました。ただ、どこかで聴いたことがあるようなメロディもあったりして、オリジナリティの部分で気になるところはありましたね」
宇野維正「日本のバンドにはなかなかいない自然なサイケデリック感があって、どうしてそれを身につけることができたのか気になりました。音楽マニアにとって『あのバンドいいよね』ってところまでは確実にいけるバンド。ただ、それ以上を目指すには、何かが必要な気がします」
・BOYS END SWING GIRL
5番目のアクトは、千葉の成田からやってきた全員20歳の4人組バンド、BOYS END SWING GIRL。変化球的なバンドが多かったこの日にあって、最も真っ直ぐなギターバンド。コーラスの入り方やギターのアンサンブルも、同時代のロックをよく研究している跡がうかがえて、オリジナリティには欠けるきらいはあるものの非常に高い完成度を持っていた。ステージの上に立った4人の様になっている姿、そして「僕らは音楽の世界で日本代表になりたい」と自分たちの夢を語る熱いMCも印象的。「即戦力」という言葉が頭をよぎった。
■ゲストウォッチャーコメント
川崎みるく「とても真面目に、高いところを目指しているバンドだということが伝わりました。アドバイスをするとしたら、自分たちの悪いところをみつけて反省したりするのではなく、いいところを伸ばしていくことだけを考えた方がいいと思います」
原田公一「ボーカルもいいし、バンドのアンサンブルもいいし、オーディエンスへのアピールの仕方も良かったし、とてもいいバンド。ただ、競合するバンドがとても多い場所にいるので、特に歌詞の面では、わかりやすいだけじゃない深みのようなものがほしい」
この日は、最後にゲストアクトとしてオワリカラが登場。2010年に『ドアたち』でアルバムデビューして以来、その圧倒的なライブパフォーマンスでロックシーンにおいて頭角を現した、日本発の独自のサイケデリックロックを鳴らすバンドだ。「自分はバンドでオーディションを受けたりとかデモテープを送ったりした経験がなくて、こういう場に立っているのが不思議な感じがする。だから、今日はゲストというよりはチャレンジャーのつもりで挑ませてもらっています」と語るフロントマンのタカハシヒョウリ。その言葉の通り、彼らの初期の代表曲「団地」では、彼らにとって初めての試みとなる映像と音をシンクロさせたパフォーマンスを披露。フロアいっぱいのオーディエンスにとって、嬉しいサプライズとなった。
前回のHARENOVA Vol.02に続いて、この日もいわゆる通常のオーディションイベントやショーケースライブとは違って、各バンドの強烈な個性がぶつかりあってステージ上が特別な空気に包まれていたHARENOVA vol.3。オーディエンスも、MC陣(今回は土岐麻子が参加して、その的確かつユーモア溢れるコメントで会場の空気をあたためてくれた)も、そしてゲストウォッチャー陣も、このユニークで刺激に満ちたイベントの楽しみ方をそれぞれが自由に見つけるようになってきた。「想像していた以上に出演バンドがバラエティに富んでいて、本当に楽しめました。4曲、5曲聴けると、バンドの個性がわかりますよね」(豊島直己)。「キュレーターとしての冨永周平さん(HARENOVA制作チーフ)の個性がすごく出ているイベントで、そこがとても興味深かったです。主催者の『このバンドを見せたい!』という気持ちが伝わってくるところが他のイベントと最も違うところですね」(川崎みるく)。「HARENOVAを観るのは2回目ですけど、イベントの性格がよりはっきりしてきましたね。今はメジャーのバンドも『ライブで何ができるのか?』というところでみんな頑張っている時代だから、ライブバンドとしてのポテンシャルを知る上でこういうイベントはとても意味があると思います」(小倉昭彦)。
渋谷clubasiaでの開催は次回の7月16日がラストとなるHARENOVA(8月にはTSUTAYA O-ESTでFINALを開催)。ゲストアクトの住岡梨奈は、堂島孝平率いるバンド編成でのステージを準備をしているとのこと。日本の音楽シーンの今日と明日、表と裏を一晩で見渡すことができるユニークなイベントHARENOVA。あなたも参加してみては?(取材・文=宇野維正)