活動25周年を迎えた森高千里、アーティスト像 確立までの生き様を振り返る
モリタカチサト、もりたかちさと、Moritaka Chisato…いや、なんでもいいんだけど、「森」「高」「千」「里」という音を聞くと、いまだ高まってしまう。森高千里のシングル全部入り、デビュー25周年記念企画CD「ザ・シングルス」が8月8日にリリースされることが発表された。全45曲をレーベルの垣根を越えて初めてコンプリートしたもので、<2012年最新デジタル・リマスター>と謳われている。また、You Tubeには森高のオフィシャルチャンネルがオープンした。PVをはじめ、なんと一年がかりで200曲セルフカバー映像やコメントなどが随時アップされていくという。
森高と最初に出会ったのは80年代の終わり、東京・目黒区は自由が丘のスーパーの家電売り場だった。当時、写真や文章の仕事でメシが食えなかった20代後半の私は、夜になるとクラブで働いていた。ある日の夕方、食材と電池を買いにスーパーへ出かけると、鼻にかかったような独特の歌声が流れてきた。何かわからないが、クセになりそうなものを感じて、歌声をたどって行ったら、家電売り場のテレビにたどり着いた。その画面の中で、さまざまなミニスカ衣装に身をつつんだスレンダー美女が、激しいタテノリで長い髪を振り乱しながら、延々と同じフレーズを繰り返し歌っていた。「夜の煙突」。衝撃が走った。何か懐かしくて記憶をたぐり寄せようとするのだけれど、けっして思いだすことのできない、本当はそれまで見たことのないヴィジュアル、聴いたことのない楽曲。時間を忘れてつい見入ってしまい、遅れて店に戻ったら厨房で先輩にブン殴られた。
それが、南沙織の往年の青春ソング「17才」をカバーしている森高千里という歌手であることを後日知るに至り、再び衝撃を受けた。ナイトクラブのショーガールみたいな衣装、コミカルな振り付け…「夜の煙突」と同じアルバム「非実力派宣言」の収録曲ながらも「なんなんだ、このふり幅!」と、あ然とした。「夜の煙突」で森高がかもし出すものと「17才」の間には、ミニスカ衣装の光沢感以外に何の脈絡も感じられず、そのギャップがなんなのか考えようとしても答えは出ず、ただ気がついたら森高の世界観に身を委ねていた。