【LONGMAN インタビュー】
希望の中の絶望、絶望の中の希望、
それをアルバムの中で表したかった

L→R ほりほり(Dr)、さわ(Ba&Vo)、ひらい(Gu&Vo)

愛媛出身の男女ツインヴォーカルパンクバンド、LONGMANが結成から10年を経て、ついに上京した。そのきっかけは最新シングル「spiral」と3年半振りにリリースするメジャー2ndフルアルバム『10/4』が自信作になったことだった。ポップパンクという核は変わらずに持ちながら、本作ではパンクにとどまらない挑戦が目いっぱいに詰まっている。そのアルバムについて訊くべく、メンバー全員を直撃した!

ワクワクしながら
曲作りができるようになった

LONGMAN主催の『2MANLIVE 「寿司 2023」』の東京公演を観させてもらいました。ライヴバンドとしてひと皮剥けた印象がありましたが、ご自身ではどんな手応えがありましたか?

ひらい

新型コロナウイルス感染防止対策の制限なしで、みんなでわちゃわちゃとなれる光景を3年間ずっと夢見ていたので、やっとスタート地点に立てた気がしました。なので、これからはイベントもどんどんとやっていきたいですね。

演奏に関しては?

ひらい

精進しなきゃいけないところはあるけれども、気持ち良く演奏させてもらいました(笑)。

ほりほり

僕は右足骨折の手術後、しばらくギブスをしていたことで足の筋力が少し落ちてしまったんです。でも、それがバスドラムのキックの踏み方を見つめ直す機会になって。キックを思っている以上に強く踏むと、リズムが安定することに気づいたんですよね。それを理解してから最初のライヴが『寿司 2023』の東京公演だったので、多少なりとも成長した姿を見せられたんじゃないかと思います。

さわさんはいかがでしたか?

さわ

私は最近ベースを変えまして。

MCでもおっしゃっていましたね。

さわ

何本か前のライヴで使い始めたんですけど、東京公演のライヴは音作りもしっかりできて、前のベースよりも迫力のある音を出せたと思います。新しいベースはピックアップを使い分けることでプレシジョンベースタイプとジャズベースタイプ、両方の音が出せるんですけど、手元のスイッチで切り替えが簡単にできるようにしたので、曲ごとに音色を使い分けています。それもすごくハマったという手応えがありました。ここからまた試行錯誤していったら、もっといい感じになりそうな予感があるので、その意味でもいいスタートラインに立てたと思えるライヴでした。

ライヴを観ながらベースの鳴りがすごくいいと思いました。

ひらい

前日もゲネプロに入って、PAさんと音作りをしていたもんね。

そして、先日の『2MANLIVE 「寿司 2023」振替公演』の東京公演で、ひらいさんが“結成から10年を経て、上京して勝負をかける”とおっしゃっていました。その気迫がライヴにも表れていたんじゃないかと思うのですが、上京しようと考えた理由や決意を改めて聞かせてください。

ひらい

シングル「spiral」(2023年8月発表)と今回のフルアルバム『10/4』が、ほんまにいいものができたと思ったんです。それをどうやって広めるかを考えた時に、これまでと違うことをしたいと。ターニングポイントになるようなものにするひとつの切り札として、上京というのはありなんじゃないかと考えました。そのタイミングでBLUE ENCOUNTの高村佳秀さんから電話がかかってきたんです。その時に高村さんが“新曲の「spiral」、めちゃめちゃ可能性を感じるからしっかり売るべきだ。東京に来て、勝負をかけるべきだ”と言ってくださったんです。それってめちゃめちゃすごいことだと思いませんか? “東京に来い”って、かなりの熱量がないと言えないと思うんですよ。その時、“1週間だけ本気で考えろ”と言われたんですけど、早いほうが面白いと思って8分後に“行きます!”って伝えました(笑)。なので、高村さんが最後に背中を押してくれたんです。

さわ

東京で『DAIENKAI 2023』に出演した帰りの車の中だったんです。高村さんからの電話を切ったあと、ひらいさんに“東京に行く?”って訊かれて。ほりほりと即答で“行こう!”って答えましたね。

ほりほり

タイミングがめっちゃ良かったんですよね。今回のアルバムのレコーディングが忙しすぎたのもありましたし、さわちゃんの移動時間がすごくて。

ひらい

僕ら3人は愛媛に住んでいましたけど、さわちゃんは愛媛でも遠いところに住んでいて。レコーディングのたびに車で1時間かけて松山市のスタジオに来ていたんです。

ほりほり

それで“ひとり暮らしがしたい”って言っていたんだよね。

さわ

そうそう。松山市で部屋を探している最中だったんです。

ひらい

その時にはアルバムのかたちもほぼほぼ出来上がっていたので、僕も気持ちにも余裕がありまして。作っている最中に“東京に来い”って言われていたら、考えられなかったかもしれない。だから、ほんまにいろいろなタイミングが良かったと思います。

一番大きかったのは、今回、とてもいいアルバムが作れたことだったんですよね?

ひらい

それが一番です! 自信作になりました。

その『10/4』ですが、とても聴き応えがありました。今回は大きなテーマが3つあるんですよね? “確実にライヴにつなげたい”ということ、“新しい要素を加えながら唯一無二の音楽を作る”こと、そして“10月4日のいろいろな人の日記”というコンセプトで歌詞を書くこと。その中でも“新しい要素を加えながら”というテーマが、『10/4』の一番の聴きどころにつながっていると思いました。きっと「ライラ」(2022年5月発表のシングル)を作った時にはすでに考えていましたよね?

ひらい

そうですね。新しいことをやりたいと思いながら、どうすればいいか分からない状態が続いていたんですけど、「ライラ」で江口 亮さんに編曲に入ってもらったこともあって、“こういうアプローチができるんだ”とか、“こういうコードを入れたら曲が面白くなる”とか、“同期もこういう入れ方ができるのか!?”とか、いろいろと勉強になったことで“パンクでもまだまだやりようはあるんだな”という可能性が見えてきたんです。そこからはワクワクしながら曲作りができるようになりましたね。

その「ライラ」をライヴで聴いた時、サビのハーモニーワークは音源とはまた違うカッコ良さがあると思いましたが、今回のアルバムは「ライラ」以降に作った曲が入っているわけですか?

ひらい

そうです。コロナ禍で身動きが取りづらい間も曲作りだけはやっていたので、そこから収録する曲を選びました。悲観的になっていたわけではないんですけど、コロナ禍の3年間で僕らは崖っぷちに立たされたという実感があったんです。ほんまにこのアルバムは後悔がないように、いい曲を揃えてから出そうという気持ちで曲は選んでいきました。

新しい要素という意味では、7月に配信リリースされたシングル「spiral」がまず一番に挙がると思うのですが、制作のバックグラウンドやプロセスを聞かせてください。同曲はTVアニメ『無職転生II 〜異世界行ったら本気だす〜』のOPテーマですよね。

ひらい

主人公のルーデウス・グレイラットは、アニメの第1期で落ちに落ちたんですけど、そこからの再出発ということをテーマにして書いていきました。曲調についてはアニメの制作側から細かくリクエストをいただいたので、曲のイメージがしやすかったです。そのイメージをどう膨らませるかを楽しみながら作ることができましたね。ツアー中でそんなに時間もなかったんですけど、あまり焦ることもなく、のびのびと6曲ほど候補曲を作って、一番いいものを選んでいただきました。

さわ

移動の車の中でもずっと作っていて、ひらいさんが曲作りを頑張ってくれているから私は運転を頑張りました(笑)。

イントロではアコーステイックギターの爪弾きに同期のシンセサイザーを重ねたり、曲の途中ではピアノも鳴らしたりと、バンドサウンドにこだわらないアレンジが加えられているのが印象的でした。

ひらい

バンドサウンド以外のアレンジは基本的に編曲に加わってもらったNaoki Itaiさんにお願いしました。ただ、アコギの爪弾きにはモチーフがあったので、そのイメージをお伝えすることで、さりげなくパンクの要素を入れさせてもらいました(笑)。

Itaiさんとの作業はいかがでしたか?

ひらい

Itaiさんには、僕がワンコーラスだけ作ったデモにバンドサウンド以外のアレンジを加えてもらって、それをもとに僕がフル尺のデモを作り、そこにItaiさんがさらに音を加えていくという作り方でした。Itaiさんも『無職転生』を第1期から観ていたらしく、そのおかげで曲の雰囲気も作品に寄り添えるものになったと思います。“こんなことができるんだ!?”とめっちゃ勉強になりましたね。

さわ

イントロに入っている水の音がめっちゃ『無職転生』に合うと思いました。たぶん、私たちだけだったら、あのアイディアは出てきていないです。

ひらい

確かに、水の音は入れへんな。あの同期の入れ方だったり、曲の自由度の幅広さだったりは今回のアルバムにかなり活きていますね。『10/4』でも同期をいっぱい入れたんです。

ほりほり

Itaiさんとは「Hello Youth」(2021年5月発表のミニアルバム『This is Youth』収録曲)や「Replay」(2020年2月発表のアルバム『Just A Boy』収録曲)、今回のアルバムにも収録されている「愛を信じたいんだ」でも一緒に制作をしていて。

ひらい

かなりお世話になっているんです。

なるほど。ItaiさんはLONGMANがどんなアレンジを求めているか熟知していたわけですね。さわさんとほりほりさんは「spiral」を最初に聴いた時、どんな印象がありましたか?

ほりほり

“行ける!”って思いました(笑)。

ひらい

ありがとうやけど、コメントとしては薄いな(笑)。

ほりほり

僕がLONGMANで一番好きな曲は、ずっと「Weakly」(2013年発表のミニアルバム『Stay Hungry,Stay Foolish』収録曲)だったんです。

ひらい

僕らが一番最初に作った曲です。

ほりほり

僕はそれを聴いて、LONGMANに入ろうと思ったんですけど、10年目にして、それを更新する曲が生まれました(笑)。

ひらい

どんだけやねん! めっちゃ複雑やわ(笑)。

ほりほり

いや、感性の問題だから。それくらい僕としては大きな曲になりました。

さわ

私はここまでアニメの主人公に寄り添った歌詞をひらいさんは書けるんだなと改めて思いました。

ひらい

僕は自分の経験からしか歌詞を書いたことがなかったので、他の人の目線になって歌詞を書くという新たな扉を開いてもらえましたね。

さわ

「ライラ」もそうだったんですけど、ひらいさんの楽曲制作がより一層研ぎ澄まされたと思います。「spiral」もほんとにいい曲です。

ひらい

ありがとうございます(笑)。

「spiral」の歌詞を書いた経験が今回の10月4日のいろいろな人の日記というコンセプトにつながったのですか?

ひらい

それもめちゃくちゃ活きましたね。しかも、自分のことを書くわけじゃないから照れも少ないというか(笑)。自分のことやったら、ラブソングなんかは照れちゃうんですけど、架空の人のことだから、照れることもなく小説を書くみたいに書けて楽しかったです。

でも、架空の主人公の気持ちを書きながらも、それぞれの曲でところどころにひらいさん、およびLONGMANの気持ちも表れていますよね?

ひらい

あははは! 結局は僕の中にあるものしか出ないと思うので、自分と重ねながら書いたところはあります。

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