Royal Scandal、新境地へと到達した
事実と“新章”の始まりを見せた全国
ツアー・Zepp DiverCity(TOKYO)公
演をレポート

Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-

2022.12.28 Zepp DiverCity(TOKYO)
夢と現実の狭間で描かれる、めくるめくようなお伽話の世界へようこそ。ファーストアルバム『Q&A Queen&Alice』以来となる、3年ぶりのセカンドアルバムにして“新章”の始まりを告げる作品ともなった『777 -Three Seven-』を2022年12月に発表したRoyal Scandalが、このたび行ったのは全6都市での計“7”公演にわたる『Royal Scandal WONDER TOUR 2022 RED&BLACK』と題した全国ツアーで、これまたアルバム同様に3年ぶりのものとなったのだった。
ちなみに、そもそも論にはなるがRoyal Scandalとはヴォーカリスト・luzと、歌うボカロP・奏音69、そしてイラストレーションを担うRAHWIAによるクリエイターユニット。(注・ライブの場におけるRAHWIAはヌイグルミ形態にて奏音69の弾くキーボード脇に鎮座するのが定例)
また、今回のツアーについてはアルバム『777 -Three Seven-』の中で展開されていた物語をライブの場で具現化していくような形になっていて、筆者が観覧したZepp DiverCity(TOKYO)公演・夜の部においてもオープニングからエンディングに至るまで、随所にはおなじみの大御所声優・大塚明夫によるナレーションが贅沢に挟み込まれていくことになり、観衆は単なる音楽ライブの域をはるかに超えた、Royal Scandalのおりなす超級エンタテインメントを久々にその場で体感することになったと言っていい。
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
《むかしむかしあるところに、しあわせの国がありました》
この普遍的で定石的な口上から始まるストーリーは、魔女の祝いが詰まった黒い箱のおかげでしあわせに暮らすことができていた人間たちが、ある時もっと幸せになりたいと欲張りだし、魔女にギャンブルを挑むという場面を経て、イカサマを使っての勝利を得た人間が魔女から赤い箱をとりあげる愚行に出るところがひとつのポイント。赤と黒の両方の箱があればもっと幸せになれるに違いないと邪な期待で人間が蓋を開けてみると、中から溢れ出したのは……楽しいという気持ちを人から奪ってしまう恐ろしい魔女の呪いでした、というのがあらすじだ。しかも、溢れ出した呪いは人から人へと伝染し、3年もの間にわたって家族や友人と会うことも、大声で笑うことも、みんなで歌うことさえできなくなってしまったという設定は、言わずもがな昨今のコロナ禍をオーバーラップさせたものであったと思われる。
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
なお、余談にはなるが呪いと祝いという言葉の相関関係は実際に漢字の成り立ちともつながる話であるらしく、呪と祝に共通するつくりの「兄」は祭壇の前で祈りを捧げる神職者を意味し、祝いの示(しめすへん)が表すのは神そのもの、一方で呪いの口(くちへん)は人の口から発せられる祝詞のことを指すのだそう。ただ、この祝詞は敵に打ち勝つためにとなえられることもあったせいか、やがて悪い祈りとしとしての「呪」の意味で使われることが多くなっていたのだとか。つまり、呪いと祝いは一卵性双生児のような関係性にあると考えることができるようなのだ。魔女の黒い箱と赤い箱の話は、そうした背景をふまえるとより興味深いものとして解釈することが出来るのかもしれない。
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
《呪いに苦しむ人々たちの前で魔女はこう言いました。憐れな人間よ。わたしは知っている。どんな世の中も一瞬で元に戻せる唯一の魔法を。さぁ、今度こそ本当の賭けをしよう。4つの勝負の物語でわたしを楽しませてくれたなら、その魔法をくれてやる。その勝負に応えたのは3人の魔法使い。そう、Royal Scandalの3人でした》
こうしてお膳立てが整えられたところから、アルバム『777 -Three Seven-』でも冒頭を飾っていた「チェシャーゲーム」から今宵の宴は開幕することに。ゴージャスで華やかなサウンドと、luzの伸びやかな歌声と華麗な立ち振る舞いが場内を一気に席捲していくと、観客たちは曲にあわせてクラップをしたり飛び跳ねたりすることで、3年ぶりに彼らのライブに接せられた喜びを全身から発しているようにうかがえたのである。

Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-

《Royal Scandalは1枚目のカードをめくりました。そこで語られる勝負の物語は……》
人魚姫をモチーフとしたファンタジックな空気感やノスタルジーが香る「マーメイドシアター」が演奏される前には、ここでの主な登場人物が海辺の村に住む少女・ニナと、彼女が恋する隣国の王子・アルベールのふたりであることがナレーションによって告げられ、ニナは恥ずかしがりやの自分を変えて王子に想いを伝えるべく、たった一夜の舞踏会に賭けることになるという筋書きも語られた。
かと思うと、アラビアンな風情が音に滲む「マジックリングナイト」が演奏される前には、2枚目のカードにまつわる話として砂漠の町をわたる貧しい商人・アランが、城から脱け出してきた貴族の令嬢・オリビアとの身分違いな恋を成就させようと、不思議な指輪の魔力に賭けるというエピソードがもたらされるという一幕も。
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
3枚目のカードの話の前には別途キャスリンという奇術師の話が挿入され、ここでは奏音69のソロ曲「ミリオンダラードリーマー」が派手にパフォーマンスされることになったのだが、方向性としてはこれもギャンブルをテーマにしたものなので本筋に対するスピンオフとして楽しむことができたところがなんとも興味深かった。音楽的な面からみると、そこからの凄腕バンドメンバーらのインプロヴィゼイションを存分に活かしながら演奏されたRoyal Scandalとしての楽曲「Casinojack」へと続いていく流れも秀逸で、ライブ構成の在り方が非常に素晴らしく感じられた次第だ。
その後、3枚目のカードのくだりではRoyal Scandalが作ってきた物語にこれまでも登場してきたキャラクターである歌姫・ロゼッタと孤独な技術士・スヴェンの繰り広げる、シリアスで刹那的な賭けの光景がひとつの佳境を迎え、ここではluzがダイナミックにライヴ映えするロックチューン「BULLET」と、歌詞面での関連楽曲「REVOLVER」をアグレッシヴに体現していくことで観客たちの心を激しく揺さぶることになった。
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
4枚目のカードとして切られたのはRoyal Scandalのファンならば知らぬ人はいない歌姫・チェルシーとバーテンダー・ルイスの恋模様。チェルシーがひとつの決着をつけるためその歌声に賭けてみせる局面が、RAHWIAの制作した高情報量MVとあわせて「ワンダーランドインアリス」が実演されていくことにより、この場に居合わせた人々はその辛辣にして無慈悲な顛末を突きつけられることになってしまう。ただ、この一筋縄ではいかない複雑にして不条理な領域にまで踏み込むことが出来るのは、Royal Scandalというクリエイターユニットの擁する圧倒的な強みだと言えよう。
《Royal Scandalが勝負の物語を4つ語り終えた時、人々はいつのまにか楽しいという気持ちを取り戻していました。(中略)こうして本当の魔法を手に入れたしあわせの国は、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし》
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
ある種の願望を含んだかのような、お伽話。それを通してRoyal Scandalが我々へと伝えてくれたのは、多分どんな時でも希望を忘れてはいけないということだったのではないだろうか。ここでluzが丁寧に歌いあげた「魔法」には彼らからの真心が託されているように感じられてならなかったうえ、なんとも切実な〈いつか世界があの日のように戻るなら、ここでまた会おうよ。こんな運命に魔法をかけて、大声で笑って、歌える日が来ますように。〉というメッセージをはじめとして、侵略戦争やパンデミックに翻弄される現実世界とリンクする説得力に満ちた歌詞たちは、夢と現実の狭間で描かれるお伽話の範疇(はんちゅう)を良い意味で逸脱していたように思う。すなわち、これはRoyal Scandalが新境地へと到達した事実と“新章”の始まりをあらためて我々へと知らしめてくれた重要分岐点であった、と考えていいだろう。
もっとも、アンコールに関しては本編とはまた一味違ったラフなモードのRoyal Scandalを堪能することができ、アルバム『777 -Three Seven-』に収録されているluzと奏音69による待望の初デュエット曲「PLAY」が披露され、センターに揃ったふたりの姿と重なる歌声に客席フロアがいっそうの盛り上がりぶりをみせたことは言うまでもない。そればかりか、このあとには25分近くにもわたってluzと奏音69がワチャつきながらのトークで微笑ましい姿を見せつけてくれたことで、集った人々がそれぞれに募らせてきたのであろう“ここまで3年分のライブで会いたかった気持ち”を、しっかりと満たしてくれることにもなっていたようだ。
Royal Scandal WONDER TOUR 2022 -RED & BLACK-
「いやはや、楽しい時間はむちゃくちゃあっという間です。次の曲がラストになっちゃいますね。(中略)今日はほんとに素敵な日だったからこそ、最後はみんなに「マジで良かったわ」って言わせるくらい楽しく終わりたいんですよ。派手にいってもイイですか! あなたの心臓を捧げてください! 最高の日をありがとう!!」(luz)
実は、この日のライブについては規制緩和により「ある程度の声なら発声可能」という状態になっていたため、特にこのアンコールを締めくくった「クイーンオブハート」ではサビをluzが観客にそれとなく歌わせるという胸熱なはからいも。今は呪いが解けて間も無いだけに……現段階では誰もが全開で発声するまでには至っていないものの、ここでのアクションは必ずや次のステップへ繋がっていくかと!
そう。夢と現実の狭間で描かれる、めくるめくようなお伽話の“新章”はまだ始まったばかりなのだ。ここはRoyal Scandalの打つ次の一手を今から心待ちにするとしよう。

文=杉江由紀 撮影=加藤千絵