【THE COLLECTORS インタビュー】
振りきれたアルバムを作りたい、
振りきれた曲を揃えたいと思った
写真上段左より時計回りに、山森“JEFF”正之(Ba)、加藤ひさし(Vo)、古沢“cozi”岳之(Dr)、古市コータロー(Gu)
ドリーミーなアカペラコーラス曲で幕が開き、その先には英国の香り漂うサイケデリックポップ、静と動で構築された反戦歌、自由と祝祭感にあふれたポジティブチューン、ゆったりとした音風景にロマンある希望を描くバラード…etc.。そんなカラフルで、サイケで、粋なアルバム『ジューシーマーマレード』について加藤ひさし(Vo)を直撃した。
誰かのために死ぬのはやめて、
自分のためだけに生きてほしい
今作の制作中、日々の状況を即興で弾き語り、Instagramにアップされていましたよね。“♪曲はあるけど歌詞がないよ~”とか“♪1歩進んで2歩下がるよ~”とか。
相当煮詰まっているね(笑)。
積み重ねてきたキャリアも実力もありますが、それでもやはり煮詰まることも?
同じ物作りなんですけど、俗に言う“ベテラン”って…例えば車のパーツを作る熟練工は経験を積み重ねていく中で、失敗しても経験と技術がうまく反映されて、どんどん巧みになっていく気がするんです。で、ショートカットできる道を見つけたりして。でも、俺たちの場合はそれが通用しないんですよね。なおかつ、培ってきたものが面白くなくなっちゃう…慣れてしまうんですよ。起承転結がはっきりしているものを作り続けていると飽きるじゃないですか。そういうところに突入しちゃって、まだ熟練じゃない未熟なものを欲するんです。だから、わざとずれたいんですよ。それが歳をとればとるほど出てきて、僕の場合は“予定どおりに終わりたくない”っていう、そっち側のハードルが高くなっちゃって、“ベテランだから”っていうのが当てはまらなくなっていて。それゆえに、やればやるほどつらくなる。だから、2歩進んで3歩下がっちゃうんです(笑)。
より鮮度の高いものを求めている?
そう! 自分が飽きないようなものを作るっていうのが、本当に大変で。で、新鮮さを封じ込めることって、熟練工になったからって簡単にできるものではないですし。曲を作るハウツーみたいなものはある程度分かっている気でいるんですけど、そこに自分がワクワクできるものがないと、10曲最後まで仕上げるパワーが湧かないんです。それは歌詞に関しても、メロディーに関しても。リスナーとしての自分の要望も高くなっているのかな? 自分が聴きたいアルバムを作るという。
その加藤さんの想いと私たちが求めているものの合致点が、ものすごく高いところできたというのを今作で感じました。ワクワクが詰まっていて。
それは嬉しいな。とにかく振りきれたアルバムを作りたいとすごく思っていて。振りきれた曲を揃えたいと思って、その観点で曲を書き始めたんです。The Beatlesの「Lovely Rita」みたいな婦警さんに恋する歌や、The Whoの「Pictures of Lily」みたいに眠れずに悶々としていたら親父がヌード写真を部屋に貼って“これを見てマスターベーションして寝ろ!”って言った…それもラブソングなんですけど、こういう歌って日本にないと思って。それで“エロビデオの女優に恋をした歌って最高じゃない?”と閃いて。そのテーマが決まった瞬間に、The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』風で始めようと考えて、「ジューシーマーマレード」を書いたんですよ。そこから今回のアルバムはちょっとサイケデリックな感じにしようと思った…それがスタートですね。
「ジューシーマーマレード」はすごくチャーミングな曲ですよね。コーラスも入っているし、メロディーもサウンドもブリティッシュポップで…
一番いい感じのね。曲中の転調も自然な感じだし。The Beatlesチックな、めちゃくちゃいいメロディーの歌に仕上がりましたね。すごく俺っぽいし、とても気に入っています。
OAリード曲は「ジューシーマーマレード」と「GOD SPOIL」というのが、また非常に象徴的な気がします。
そうですね。やっぱりその年に出したアルバムだって分かるものを作りたくて…それはいつもだけど。前作『別世界旅行~A Trip in Any Other World~』(2020年11月発表)では「香港の雨傘」っていう曲を作ったし、今回はロシアとウクライナの争いを歌わずにはいられなかったんです。僕が「GOD SPOIL」で歌いたかったことは、誰かのために死んでほしくないっていうことです。プーチンがしていることは決して許されないし、祖国を守るという意味でゼレンスキーの言っていることは間違っていないと思うんですけど、プーチンのためにロシア人に死んでほしくないし、ゼレンスキーのためにウクライナ人にも死んでほしくない。ジミ・ヘンドリックスが“愛国心を持つなら地球に持て”と言っていましたが、それくらいシンプルな考えにならないと戦争や紛争はなくならないじゃないですか。絵空事だけど、“誰かのために死ぬのはやめてくれ。自分のためだけに生きてほしい”、それだけを歌いたかったんです。
そういうメッセージを歌う姿勢、そこはTHE COLLECTORSの変わらないところですよね。
THE COLLECTORSを組んで最初に書いた曲が「NICK! NICK! NICK!」(1987年7月発表のアルバム『ようこそお花畑とマッシュルーム王国へ』収録曲)で、あれは反戦歌ですから。THE COLLECTORSはそこから始まっているバンドなので。
先ほど“振り切れたアルバム”とおっしゃっていましたが、全体的にアッパーな曲やポップさが際立つ曲が多めな感じがしました。
アッパーだし、オープンな感じというか。サイケデリックっていうのが、今、自分の中で一番楽しい音楽になっていて。サイケデリックって“精神の解放”みたいなものですからね。
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