【布袋寅泰 インタビュー】
ロックにはファンタジーと
リアリティーを結合させる
マジックがある
布袋寅泰
2021年6月30日、布袋寅泰が記念すべきアーティスト活動40周年イヤーの第一弾として、ふたつの重要アイテムをリリースした。4曲入りEP『Pegasus』と、今年1月30日と31日の2日間にわたって日本武道館で開催された40周年記念ライヴの全曲を収録した映像作品『40th ANNIVERSARY Live "Message from Budokan"』だ。
ギターにしか出せない
疾走感や高揚感は普遍的なもの
アーティスト活動40周年イヤーの第一弾リリースとなるEP『Pegasus』。表題作「Pegasus」はイントロから印象的なギターリフが鳴り、それが歌のサビメロにもなっていくという、如何にもギタリストが作ったナンバー即ち…布袋さんらしいロックチューンになりましたね。やはり“リフもの”であることは改めて意識されたのでしょうか?
布袋寅泰40周年の新曲がいきなりギターのないラップというのも変でしょう?(笑) とはいえ、どこをとっても“布袋節”の曲を作るのは簡単なことではないですから。懐かしさと新しさを同居させるという意味でもね。イントロからギターのリフが鳴って、長いギターソロがある曲なんて、今はほとんどないですよね? ギターロックは言わばオールドスタイルだと思うんです。しかし、ギターにしか出せない疾走感や高揚感は普遍的なものですよ。「Pegasus」は長年のファンにとってはBOØWYの「MARIONETTE」や「BEAT SWEET」あたりを連想するリフでしょう。ギタリストならすぐコピーしたくなるけど、いざ弾くと簡単ではない。そんなリフを40年も作り続けてきたんだから、我ながら偉いな、と思います。
カッコ良いだけでなく、どこか憂いも秘めつつ、どっしりとした安定感もある…個人的にはそんな印象を受けたギターリフでもあります。
ペガサスは神話の中の生き物だし、歌詞は現代のダークな部分に光を見出すというテーマで描かれているので、憂いとそこから飛び立つ決意のような強さが同居しているからでしょうね。まさにペガサスが翼を広げるイメージです。リフとサビが同じメロディーなのも僕ならではの手法だし、エンディングではリフはそのままでコード進行だけがドラマチックに変わるというトリックも効いていると思います。
その旋律に乗る「Pegasus」の歌詞は《終わりなき夢 限界の向こうに放て/ありきたりじゃない物語を描け がんじがらめの 常識という呪縛捨てて》と、前向きさをアグレッシブに促すような内容ですね。これはまさに布袋さんご自身の信条でもあるように思います。
僕は40年間、常にリスナーに向かって“どんな時も諦めず、自分らしさを忘れずに夢を追い続けてほしい”というポジティブなメッセージを送り続けてきましたし、これからもそれは変わりません。僕の音楽を聴いてくれる人の俯いた気持ちを立ち上がらせたい。諦めた時が夢の終わりですから。現代人は多くのものに縛られて生きているように感じるのは僕だけではないはずですしね。《常識という呪縛捨てて》というくだりは別に“ルールを破ってでも好き勝手に生きろ”と言っているのではなく、自分の気持ちを知らぬうちに縛りつけている自己観念を解くことが大事だと言いたいのです。スティーブ・ジョブスの“Stay hungry. Stay foolish(ハングリーであれ。愚か者であれ)”という言葉には誰もが勇気づけられたと思いますが、“愚か者であれ”とは“常識に縛られるな”ということ。そうは言っても、日常をいきなり変えることはできないのが現実だとしたら、せめてこの曲を聴いている時は、誰もが持っている心の翼を大きく広げて、全てから解放された自由を味わってほしい。ロックには、そんなファンタジーとリアリティーを結合させるマジックがあると思いますからね。
ポジティブなメッセージの一方で、《顔も名前もない声が 正義をかざして/世界から自由を奪ってゆく》などはSNSを彷彿させますし、《解けない暗号のように 張り巡らされた/甘い罠 底無しの罪と罰》などは現代社会の暗部を感じるところです。その辺で布袋さんは2021年の世界を覆う空気感をどんなふうに捉えているのでしょうか?
嫌な時代ですよね。自由を履き違えた無責任な発言や主張や情報が、ネガティブな思考を連鎖させ増幅し世界を覆っていく。遮断したくてもAI主体の生活文化では回避しようがない。さらにコロナ禍によって人々の不安やストレスも重なり、やさしさや寛大な気持ちが薄れがちな毎日です。“今”を描く時に、どうしてもその闇を無視するわけにはいかず、かと言って、ただただ現代を憂うだけの歌なんてもっと憂鬱ですよ。“そんなネガティブ思考を断ち切ろう、そして“Be yourself、Trust yourself”…あなたらしく自分を信じて生きてほしい”というメッセージを込めて書いた詩で。
《もっと真っ直ぐに生きていい/人の顔色うかがうのはやめて》《もっと正直に生きていい/自分のこと偽るのはやめて》とありますが、布袋さんから世の中を見ていて、人の顔色をうかがったり、自分自身を偽ったりする人が多い気はしていますか?
今って世の論調に合わせないと生きづらい部分ってあるじゃないですか? みんなが“NO”と言っているのに自分だけ“YES”とは言いづらい、みたいな。しかし、あれもダメ、これもダメと“NO”ばかりの世の中でもいけません。“YES”と“NO”がフェアに語れる世界にしたいですよね。どんな意見や主張も受け止める寛容さを持つべきだと思います。引用ばかりで申し訳ないですが、ビル・ゲイツが言った“自分のことを、この世の誰とも比べてはいけない。それは自分自身を侮辱する行為だ”という言葉も力強いですよね。人種差別、LGBTQ、紛争、環境問題など、多くの事柄を語り合うべき時代でもあります。“自分に正直に生きる”には、まず自分の本当の気持ちを確かめる必要があると思います。自分と向き合うべき時が来たということなのでしょうね。
特に日本人は、人の顔色をうかがったりすることが多いのかなと個人的には思います。
もちろん、これは日本に限ったことではなく、世界的な動きだと思います。でも、他人の目を必要以上に気にするのは日本人独特の気質かもしれませんね。
アーティスト
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