“ジェンダーと時間を越境する壮大な
ロマン”フランソワ・シェニョー×ニ
ノ・レネ『不確かなロマンスーもう一
人のオーランドー』埼玉・京都・北九
州で上演

フランスから必見といっていい話題の公演がやってくる。フランソワ・シェニョー(振付・出演)✕ニノ・レネ(演出・音楽監督)『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』(2017年初演)が、2020年12月19日(土)埼玉・彩の国さいたま芸術劇場、12月21日(月)ロームシアター京都、12月23日(水)北九州芸術劇場で上演される。アヴィニョン国際演劇祭など世界各地で反響を呼んでいる注目作だ。
【トレイラー動画】フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ『不確かなロマンス―もう一人のオーランドー』

シェニョーはパリ国立高等音楽・舞踊学校出身で、ベースはダンサー・振付家だが、歌を取り入れた創作も積極的に行っている。歴史家としても知られ、クラシック・バレエからストリートダンスまで幅広い踊りの歴史に通じている。2005年よりセシリア・ベンゴレアと組み、Vlovajob Pruを結成して作品発表を行い、『TWERK』『DUB LOVE』などを世界中で公演している。
フランソワ・シェニョー (c) Laurent Poleo Garnier
筆者は2014年、東京・青山で行われた国際ダンスフェスティバル「Dance New Air 2014―ダンスの明日」でシェニョー&ベンゴレアの『TWERK』を見た。ナイトクラブのような空間でDJたちが次々にパンクな音楽をかけ、ドラァグクイーンらがジェンダーの境界をも超えて自由に踊る姿が鮮烈に印象に残っている。また両者がフランスのバレエ・ロレーヌのダンサーたちに振付した『DEVOTED』も2018年の日本公演時に接したがトリッキーで実験精神旺盛な快作だった。21世紀のパフォーミングアーツの世界において稀にみる才人であるのは疑いない。
『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』 (c) Jose Caldeira
『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』は造形作家・映像作家・音楽家であるレネとのコラボレーションで、制作に4年を費やしたという。それまでは主にクラブミュージック系の音楽を用いていたシェニョーだが、ここでは中世・バロック時代から400年にわたるスペイン音楽を使う。しかも自ら歌う。ロマンス(ロマンセ)とは、中世のスペインで吟遊詩人によって歌われていた物語詩。本作はスペインを舞台に「現代にオペラ=バレエを蘇らせたとも言える」(プレスリリース)もので、シェニョーが歌とダンスで「不確かなジェンダーの3人を演じる」(同前)という趣向だ。
ニノ・レネ (c) Magali Pomier
登場する3人とは、 男装の少女戦士、両性具有の聖ミカエル(サン・ミゲル)、アンダルシアのジプシーのラ・タララ。シェニョーは先述の通り歌唱にも秀でており、ここではカストラートのような歌声も披露する。そしてバロックダンスやフラメンコなどを取り入れて自在に踊る。表題にある「もう一人のオーランドー」というのは、青年貴族が女性の身体に変わってしまった様を描くヴァージニア・ウルフの小説「オーランドー」と重なることによるようだ。
『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』 (c) Nino Laisné
『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』 (c) Nino Laisné
音楽はレネがスペイン音楽をアレンジしたもので、スペインに伝わる民族音楽やバロック音楽から、現代のポピュラーな音楽、ピアソラまで幅広い。それをバンドネオンとヴィオラ・ダ・ガンバ、バロックギター、テオルボ、パーカッションを4人の熟練した奏者が披露する。シェニョーの歌唱・ダンスとどのように絡むのか期待が高まる。
『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』 (c) Nino Laisné
『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』  (c) Nino Laisné

惹句は「ジェンダーと時間を越境する壮大なロマン スペイン音楽の400年の歴史が歌とダンスで現代に蘇る」。それに違わぬ刺激的な時間を過ごすことができそうだ。
文=高橋森彦

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