【いきものがかり ライヴレポート】
『いきものがかり結成20周年・
BSフジ開局20周年記念
BSいきものがかり
DIGITAL FES 2020
結成20周年だよ!!
〜リモートでモット
お祝いしまSHOW!!!〜』
2020年9月19日 at デジタルフェス
2020年9月19日 at デジタルフェス(いきものがかり)
この日のゲスト陣の立ち居振る舞いと、いきものがかりのそれとを比較すると、それはてき面に分かる。今年メジャー第一弾のフルアルバムを発表したニューカマーの緑黄色社会や、“我々が呼んでいただけるとは思ってなかった”というCreepy Nutsのような、“初めまして”的な初々しい佇まいは、もちろん彼女ら3人にはない。かと言って、どぶろっくやMr.シャチホコのような立て板に水とばかりにしゃべるわけでもないし──まぁ、彼女らは芸人ではないのだからそれは当然としても、森山直太朗に比べて場を回す老獪さも薄かったと言わざると得ないし、彼のようなウイットに富んだ台詞回しがあるわけでもない。それが悪いと言うわけではない。ホストとしてはそれが正しい立ち位置だったのかもしれない。だが、アーティストの先輩、後輩をゲストに迎えたことで、いきものがかりのナチュラルさが余計に際立ったとは思う。良い意味で飾り気のない──“あの感じ”としか言いようがない空気感がその場を支配していた。
ところが…である。歌、演奏が始まると、その牧歌的とも言える雰囲気が一変。狼の姿が頭をもたげてくる。森山直太朗のフェイズで吉岡聖恵が彼とともに歌った「さくら」はとにかく強烈だった。原曲が“独唱”なら森山&吉岡のそれはまさしく“二重唱”。どちらかがメインでどちらかがサブというわけではなく、ともに主役のダブルキャストが競り合うようなスタイルだ。“デュエットしてみました”なんて可愛い代物ではなく、ヴォーカリスト同士がプライドをかけてぶつかり合っているようなシリアストーンである。ピリッとしたスリリングな空気がモニター越しにも伝わってくる。己の代表曲に客演を招き入れる森山も貫禄たっぷりなら、臆することなく独自の歌唱を見事に歌い上げた吉岡も天晴れである。オフステージでのやんわりとした佇まいに慣れてこちらがやや弛緩しているところに、狼が牙をむいた…というとかなり大袈裟だが、“やられた…”と思わず膝を打った瞬間ではあった。
本編と言うべき、いきものがかりのフェイズにおいて、今度は逆に森山を呼び込んで全員で演奏した「帰りたくなったよ」でも再び吉岡のヴォーカリゼーションが目立つかたちになったが、ここでは森山が彼女たちのナンバーを歌うことで、いきものがかり楽曲の優れた面が際立ったようにも感じられた。メロディーの懐が深いと言ったらいいだろうか。誰が歌っても「帰りたくなったよ」は「帰りたくなったよ」であることをまざまざと見せつけられたのようであった。そこで森山直太朗が彼にしかできないハーモニーを響かせるのはさすがではあったし、それこそが彼のヴォーカリストとしての凄みであり、確かな歌唱力の表れだったと言えるが、逆に言えば、この楽曲の主旋律は揺るがしようがないことが示されたのだとも言える。
そう思って本編を振り返ると、熱心にいきものがかりを聴いてきたとは言えない自分のような者でも、当日演奏されたナンバーはほぼ全曲、耳馴染みがあって、何ならサビは歌詞を含めて口ずさめるくらいであることに改めて気づいた。もっとも、だからこそ彼女たちはトップアーティストなわけだし、こうして結成20周年を賑々しく迎えることができたのだろうけれど、客観的に観たらこれは相当にすごいことだ。メジャーデビューからおおよそ15年の間で、熱心に聴いてこなかった者でも歌えるほどの楽曲を量産してきたという事実は紛うことなき偉業である。この日、演奏された楽曲以外にも、「ありがとう」「風が吹いている」「歩いていこう」など、いきものがかりのヒットチューンはまだまだある。彼女たちは日本屈指の極めて優秀な音楽制作集団なのである。
それなのに──こう申し上げるのも大変失礼な話かもしれないが、その事実が先に立つ印象がない。それが冒頭で述べた“羊の皮を被った狼”にもつながっているのだが、彼女たちが優れた楽曲を数多く生み出してきたアーティストであることは疑いようもないのだけど、それだけが先立つことは少ないように思うし、彼女たちのキャラクターが楽曲より前に出る機会もほとんどないように思う。おそらくそうした楽曲優先とも言うべきスタンスが彼女たちの基本姿勢なのであろう。図らずも、長い間、世代を超えて愛され続けるポップアーティストの秘訣のようなものを、この日のいきものがかりから教わった気がした。セットリストにもそうした“いきものがかりらしさ”ははっきりと表れていただろう。「笑ってたいんだ」「キミがいる」で始まり、「ブルーバード」を経て、「YELL」で締め括るという本編の構成は、楽曲はアーティストのものではなく、受け取るリスナー、オーディエンスのものであってほしいという気持ちそのものでのようであった。それは現在のコロナ禍において、同じ空の下にいる人たちが想いをともにする祈りとなったように思う。
取材:帆苅智之
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