【アルカラ インタビュー】
覚悟と挑戦心を持って生まれた作品
L→R 下上貴弘(Ba)、稲村太佑(Vo&Gu)、疋田武史(Dr)
結成17年を迎えたアルカラが完成させたアルバム『NEW NEW NEW』。レコード会社移籍やメンバーの脱退を経ても、それを窮地と思わず、新しいスタートと受け止めて作り上げた同作について、メンバー全員に話を訊いた。
可能性を見出しながら
新しい発見ができた
今作は10作目のアルバムですね。タイトルも“NEW NEW NEW”ということで、さらなる飛躍や意気込みを感じるものとなっていますが、制作をするにあたってどういった想いがありましたか?
稲村
レコード会社を移籍したということで、受け入れてくれたメーカーの厚意に新しいことで応えたいという気持ちが、僕の中にはありましたね。それに加えて自分が今年40歳になるんで、これが最後のチャンスだと思うところもあって、正直言ってリード曲や軸に関して考えることまで頭が回っていなかったです。だから、「誘惑メヌエット」では今までやっていなかった“曲中でバイオリンをプレイしながら歌う”というアプローチをしてみたり、そういうところからまず挑戦してみようと思ってやってましたね。折角のチャンスなので、今までを凌駕するではないですけど、これからのことをテーマにしてやっていた感じはします。もちろん今までのことにも感謝しながら、新しいチームとここから始めるという意味でも“これが1枚目です”と言える作品になったと思いますね。
下上
僕も新しい1歩目やというのはすごく思っていましたね。何かしようと思って、新しいベースを買いました(笑)。
疋田
この体制になって初めての作品なので、どういうふうになるんかなという気持ちはありましたね。そういう意味では、今までのアルカラを否定するわけではないですけど、さらにもうひと段階新しくなったアルカラを表現できたかなと思います。
曲作りに関して挑んだ試みというのはありましたか?
稲村
メンバーが抜けたことによって、サポートしてくれる人に“こうしてほしい”と明示するためにも、今作は全パートに関して僕が考えさせてもらったんですね。今まではセッションである程度作っていたから、そういうのってメンバー全員で一緒に作っているって感じにならんのじゃないかとも思ったんですけど、逆にそうすることによってふたりに伝わることがあって。作り方を変えたおかげで広がったものはありましたね。今までだったら全員で音を鳴らした瞬間の和音を“カッコ良いからええやん”と言って採用していたものを、ちゃんと自分の中で楽譜にして並べることによって音の置き方や足し算引き算ができたと思います。だから、新しい可能性を見出すことができたタイミングでした。発見も多かったし、今まで見えていなかったことが見えたりした。
下上
そういう作り方になって、単純にめっちゃ難しいと思いました。自分ではそこに至らなかったフレーズばかりでしたし、今までは自分なりに試行錯誤するというストーリーがあった上でフレーズを作っていたんですけど、今回は答えが先にあるので。だから、今はそこへ向かうストーリーを模索している段階ですね。自分だったら行かなかったであろうところに答えがあるというのは新しいし、聴く人もその違いを感じるかもしれませんね。
疋田
ある程度打ちこまれてきたものをどれだけ自分のものにしていくかというところと、今回はメロディーラインや歌詞がほぼできている状態だったからこそ歌の情景が今まで以上に見えやすかったので、そこから自分でどう色付けしていくかを考えるのがすごく面白かったです。ある程度見えているものに対して、自分がどういった理解をして、アプローチをしていけるかというのは、今作の面白味だなと思います。
今作は楽曲の流れがきれいだと思ったのですが、その中でも異彩を放っているのが「くたびれコッコちゃん」で。これは意図して飛び曲的に入れたものですか?
稲村
特に意図はないんですけどね。何でできたんやっけな…これ、幼稚園の時におかんが作ってくれた水色の鶏のぬいぐるみのことなんですよ。何かそれがすげぇかわいくて、なかなか捨てられなくて泣いとったことを思い出して、それを歌にできないかなと思ったんです。きっと男性の方なら経験があると思うんですよ、何となくかわいがっていたぬいぐるみがあるとか。そのことをただ捨てられなくて悲しかったという歌ではなく、捨てられる側の視点で描くことによって“お別れを言うことは大事なんだよ”というのが伝わる歌にして、みんなの気持ちを救えたらいいなと思って書きました。確かに曲の並び的には、意表を突く感じになっていますね。
「夕焼いつか」にも稲村さんの幼い頃の思い出が登場してきますよね。聴きながら目に浮かんでくる夕景と叙情感に、センチメンタルな気持ちになりました。
稲村
何なんでしょう? でもね、昔、細木数子さんが“夕焼けは沈んでいくものだから見たらあかん、朝焼けを見なさい”っていうようなことを言っていたんですよ。
下上
夕焼けを見ずに生きていくってムズすぎるけどな。
稲村
あの夕方の家に帰らんとあかん感じがダメなんやろな。でも、俺らは儚さを感じたらあかんねん。儚さを抱いていかないとあかん。機材車の中から夕焼けを見る度に“太陽はなんておこがましいんだ!?”と思うわけですよ。みんな“太陽が沈んでる”って言うけど、地球が自転しているからそう見えるだけであって、太陽はただ顔を背けているだけやと。とはいえ、夕焼けの時間って人生の終わりに近いと思ってて。終わりの手前というか…昼間をしっかり生きてきた人だからこそ、夕焼けを寂しがれるんだと思います。
下上
あー、確かに。ずっと寝とって起きたら夕方やった時は虚しいもんな。
全員
はははは。
稲村
それもひとつの虚しさやな!(笑)
でも、今作の「夕焼いつか」や前アルバム『KAGEKI』の「ひそひそ話」など、ひとつの“終わり”やその先にある“未来”を想起させる楽曲には、セットで夕景がモチーフとして出てくることが多いように思います。
稲村
「夕焼いつか」に関しては、だからこそ“夕焼けを一緒に見れたらいいな”という意味なんですよね。ともに過ごしてきた昼間の時間を終えて、人生の終わりを一緒に迎えられたらいいという意味にも取れますし。昔から先輩に“最後に希望を入れろ!”って言われていたので、《夜が更けて ついでに朝焼けも見ないか》という歌詞が書けたことに自分でもグっときています。それが来世でも明日でも、夕焼けというタイミングをどういうふうにとらえるかによって歌が変わってくれたらいいなと思いますね。答え合わせの時間、さよならの時間、一生のお別れの時間…そういうふうに思えるんですよ、夕焼けの時間って。昔、おかんが“太陽を見ていたら人生のようやわ。太陽が沈んでいくと最後は真っ赤になってきれいになっていくやろ? そういう人生になりや!”って言ってたんですよ。またおかんの話になりますけど。
下上
すごいな。2曲におかんが出てくるやん!
疋田
ほんまやな。
稲村
せやねん。うちのおかんはそういうこと言うねん。
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今回のアルバムを通して“一日”を感じてもらいたいアーティスト
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