愛と祈りのオーガニック・ソウルMAR
TER。20余年の音楽の旅を辿る

すべてを赦すようなオーガニックな音色だ。誰をも拒まない慈しみ深い音、MARTER(マーテル)による5作目のアルバム『By The Ocean』にはそんな温かさがある。14歳の時にLAへ移住して以来、彼は様々な土地に訪れ自身の音楽を育ててきたが、本作の特徴は何と言ってもこれまでで最もアコギがフューチャーされている点であろう。AORやサーフの気分も感じさせるソウルへと帰着しており、Mac AyresやNick Hakimにも通じる音楽を、実に優しい音色で届けている。そして彼は、変わらずスピリチュアルなメッセージを忍ばせて音楽を生み出している。何故MARTERは愛と光を綴るのか。20余年のキャリアを辿りながら、じっくりと語ってもらった。

海の風景から生まれる癒しの音

ー今は湘南に住まわれているんですよね?
うん。ずっと行ったり来たりしていたんですけど、去年の9月から住み始めました。
ー初期の頃は森林の中にいるようなジャケットのアルバムをいくつか出されていましたが、ここ最近は創作のモチーフが海になってきているように思います。
そうですね。それまでは山で書くようなことが多かったんですけど、山から海へ、違う癒しを求めるようになったのかな。アコギを始めてから、鎌倉在住のコスガツヨシ(
)くんと一緒に遊ぶようになって。よくふたりでアコギを弾くようなライヴもやっているんですけど、その中でだんだん海際で曲を書くようになっていきました。海の浄化の癒しが今は心地いいです。
ー土地移ったことが、音楽に影響を与えていますか?
やっぱり遊びも多いし、海際の人達って明るいんですよね。波に乗る人もいるし、夏は賑わうし、自然とトロピカルな音楽を鳴らしたくなるというか。湘南での明るい人々との暮らしの中で、楽観的に人生をそのまま受け入れるようになった感じです。
ー元々、そういう環境に身を置いて創作していきたいっていう願望がありましたか?
そうですね。やっぱり一カ所にいると飽きちゃうので(笑)。新しい刺激っていうのは常に欲しいなって思います。今はそれが海っていう感じです。
ー森にしても海にしても、MARTERさんの音楽には常に自然というものが要素としてありますよね。自然に惹かれるのはなんでなんですか?
ーその当時はどんな音楽を聴かれていたんですか。
テレビで何言っているのかもわからないからMTVばっかり見てて、まだ
とか
の時代だったから、わかりやすいロックを聴いていました。
今回のアルバムもちょっとだけエレキギターが入っているのは、なんとなくその感じが出たのかな。高校3年くらいの時にまずロックから始めたんですけど、ジミヘンを弾くバンドをやったり、パーティで演奏するようなロックバンドをやっていたので、その時の初期衝動みたいなものを思い出したいなってう気持ちはありました。原点を見直している感覚があります。
ー今原体験とか、音楽の原風景を思い出しているのはなんでですか?
ひと回りしたという感じです。ベースをやって、鍵盤をやって、アコギを40代くらいから始めて、最近はまたエレキも弾いているんですけど。一番初めに始めたのはエレキギターだったから、いろんな楽器に触ってきてひと回りしてそこに戻ってきたのかなと思います。新しい場所に行くことと同じように、楽器も新しいものをやってみると刺激があるから、曲を作るっていう意味でも凄くいいんですよね。ギターで曲を作るだけでも発見もあるし、特にアコギはリズムも出せてどこでも弾けるのが凄くいいですよね。

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