【新春インタビュー】ニコ生連動「Y
OSHIKIと平成とミュージシャン」
通常インタビュー原稿というものは、本人が伝えたかった/喋りたかった要点を適切に読者へ伝えるために、多くの編集の手を入れる。口語体を文語体に変換するという基本もさることながら、散らかった文言を整理整頓することで、初めて真意が伝わる文章となるからである。
そういう意味では、このインタビュー記事は非常にレアで貴重なものとなるだろう。読まれることを前提としたインタビュー記事ではなく、2019年新春にYOSHIKIが何を思い・何を考え・どこに進もうとしているのか、YOSHIKIが語った言葉を生々しく記した、いわばドキュメンタリー記録である。
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也
YOSHIKI:大丈夫です(笑)。
──「YOSHIKIと平成とミュージシャン」というテーマでお話を聞きたいと思っています。平成と言っても30年ですから、すなわちX/X JAPANの活動そのものと重なるわけですが。
YOSHIKI:Xは平成元年の4月に『BLUE BLOOD』でデビューしているんですよ。
──ちょうど元年ですか。X JAPANは何かと世の中の節目に大きな出来事を起こしますよね。X JAPANが解散した年にレコード産業はピークを迎え、その後衰退の一途をたどっていったり…とか。
YOSHIKI:なぜか時代とシンクするんです。ちょうど当時、ソニーで最後のアナログ盤をリリースしたのがXなんです。完全にCDに切り替わるところだったんですけど、僕らとしてはアナログ(ヴァイナル)にこだわったので「出してほしい」と。だからXがソニーの最後のアナログアルバムになったんです。
YOSHIKI:そういうところにとても敏感なんですよ。アルバムを何年も出していないんで外から見ると冬眠しているように思われますけど、でも何かが起こるとなると、その寸前に急に冬眠から出てくるわけです。で、地上で「わー」と騒いでまた冬眠する、みたいな。時代の節目節目になにか感じるんです。
──アルバムは完成していますが、さてリリースは?
YOSHIKI:アルバムを「出す意味」と「出すタイミング」ってあると思うんです。確かに現存してくれているファンの皆さんからは「早く出してよ」と言われる。それは嬉しいことですよね。時にはヒートアップして「いい加減出せよ」と脅迫じみた文も来るんですが(笑)。
──それだけ待たせていますから(笑)。
──ええ。
YOSHIKI:まず、音楽って芸術ですよね。それってビジネスである必要があるんですか?
──そこ、ですね。原盤ビジネスが崩壊している現在、原点から考える必要がありそうです。
YOSHIKI:もちろんCDにバリエーションがあって握手券の代わりになるようなものを否定するつもりはないんです。ビジネスという側面では、優秀な方たちがいろんな考えてきたんだなと思います。ただ、お金を稼ぐことを考えるのであれば、もっと違う職業っていっぱいあると思うんです。
──何も音楽じゃなくても。
YOSHIKI:「音楽」が「ビジネス」じゃなくていいじゃないかと思い始めてしまった瞬間が何度もあるんです。逆に、「なぜみなさんはアルバムを1年~2年に1枚作れるんだろう」「本当につくりたいのか?」「作らなくちゃいけないのか?」と思うわけです。3年間で3枚とか7年間で何枚とかという契約の話が持ち上がった時から、僕はショット契約(1枚ごとの単発契約)がいいと思った。時代がどんどん変わっていく中で、現在の360契約も30年前のレーベル契約をマイナーチェンジしてきただけのものなんです。車で言えばマイナーチェンジを繰り返しているだけ。クラシックカーを改造しまくっているようなもの。
──今でも走れるように改造でしのいでいる状況、だと。
YOSHIKI:僕はいま電気自動車にはまっていますし、自分で電気自動車の会社を持っていたこともある。エレクトリックカーが来るとなれば発想が変わってしまいますよね。自宅で充電できますし、「車って、自分で運転するもの?」という時代でもある。今乗っているのはテスラのモデルXで「YOSHIKIさんはXなんだから“X”買いませんか?」と言われて買ってしまった車ですけど(笑)、高速では全自動運転なんですよ。アクセルも踏まないし何もしない。勝手に目的地に進んでいくんです。遅れているのは法整備で、もう自宅から目的地まで何もしないでも行ける時代なんです。車って「運転するもの」というものから「移動手段」に変わってきている。
──凄い進化ですね。
YOSHIKI:この例えがいいかわからないけど、そこまで時代は変わってきている。平成元年にデビューして、その時にヴァイナルからCDに切り替わり、その後にはMDもありながらダウンロードになって今ではストリーミング。アメリカでは僕の周りにCDを持っている人って皆無です。誰もいない。ダウンロードする人さえいない。今は完全にクラウド化している。そんな中で僕は何をすべきか。
──ええ。
──そうですね。芸術である作品を全て同じ単価で計算していますし。
YOSHIKI:アーティストによっては「レーベルではなく自分で直接契約したい」という。レーベルってなんのためにあるんだろうって思います。レーベルってプロモーション/マーケティング機能をもっている存在になっていくのか?と。もともとはアドバンス(契約の手付前払い金)を出してレコードを作ったわけですけど、今ではレコーディング自体も自宅でできてしまう時代ですから、「レーベルのあり方」「流通のあり方」「音楽制作のあり方」といった全てをまっさらにして考えて、ぶっ壊して解体して考えないと。
──ええ。
YOSHIKI:特に日本は一時期「CDの売上が世界1位になった」って騒がれましたけど、それって最悪のことだったんですね。全世界が違う方へシフトしている中で、日本はCDに固執してしまった。いいか悪いかも含めて一回整理して、2019年から2020年というのは、音楽業界にとって激動の年になると思いますよ。
──ほお。
YOSHIKI:自分のプロジェクトもそうですし、自分がプロデュースしているアーティスト、もちろんX JAPANも含めて、いろんなオファーを頂いていますが、それはレーベル以外のところからです。
──情報ポロリ、大丈夫ですか?
──なるほど。
YOSHIKI:そんな激動の年を迎えるにあたって、「やっと今、新しい子供を世に出して旅をさせたい。どの楽曲も可愛くて仕方がない」というとき、「この血と汗と涙の結晶を、どのように旅させることができるのか」…そこは考えたいですよね。平成元年に出た『BLUE BLOOD』もどんどん浸透してくれてツアーも同時にやって、レコードからCDという時期にきっと凄い旅をしたんですよ。
──ビジネスという観点で言えば、音楽の価格が均一で横並びになっていることはおかしくないですか?
YOSHIKI:絵画だと何百億円という価格が付きますよね。でも絵画は完全なコピーができないからですよ。ピカソの絵は一点しかない。もしそれが何万点にもなったら、そうはならなくなりますよね。
──アーティストが勝手に価格を決めてもいいと思いますが。「俺の作品は10万円だ」とか。
YOSHIKI:レディオヘッドが『IN RAINBOWS』のダウンロードで「お客さんに値段を決めてくれ」というのをやりましたよね。無料で買った人もいますし、大金を払った人もいる。んー、それいいなあ(笑)。
──アーティストが自由に価格を決める、あるいはオーディエンスが価値を決める…そのほうが健全な気もするんですが。
YOSHIKI:確かに絵画というのは需要で値段が決まっていますよね。どんなに素晴らしくても「1万人が100円でしか買いたくない」といえば100円以上にはならない。けど、2人以上が1000万円と言えば、それは1000万円の価値がついてしまう。でも音楽って、僕らは音楽だけじゃなくてアーティスト活動を総括的にしているわけです。例えば、日本の音楽が解禁されていなかった頃の韓国でX JAPANの作品が海賊版で爆発的に広がったけど、違法だから天文学的な数字の権利収入も入ってこない。でもおかげでライブに行ったら1万人の会場が埋まってしまうわけです。凄いなと。同じような現象が東南アジアでもある。つまり、作った音楽だけで価値を判断すべきなのか?と。
──わかります。
YOSHIKI:逆にいうと、昔はCDを売るためにコンサートを演っていた。アルバムをチャートに上げるためにツアーをし、レコード会社が協賛金を出していた。今は逆になりつつあるんですよ。コンサートビジネスのほうが盛んでね。
──ええ。
YOSHIKI:例えばフェスで言えば、X JAPANは<コーチェラ・フェスティバル>に出ましたけど、世界3本指に入るフェスですから強力なプロモーションになるんです。その分先方も強気ですし、日本からも海外からもスタッフが大勢動きますので、我々側は例えば2億円の赤字を出したりします。もちろん、それでもメンバー含めスタッフにはギャラを払っています。でも、どこで回収するんだ?となりますが、でもそれってひとつのブランディングですよね。だから、そこだけを切り取ったら「何やってんの?」ってなりますけど、でもそこに出れたことで新たなお話を頂いたり、それによって新たなコンサートが開けていく。今の話はコンサートに関してですけど、そこに音源や映像の権利の話も加わってくる。つまり総合的なIP(知的財産)に関する価値観を考えるわけです。IPの資産価値、ブランディング価値を全て総合してプラスになるのであればOK、というのが僕の考え方です。
──わかりやすい。
YOSHIKI:音楽を作る時にエンジニアに払うギャランティも、米国での大御所になると、昔はCDの売上から一定割合のギャラを払うロイヤリティ契約が主流だったんですが、今は売れないからそれも崩れつつあるんです。でも同じような対価が違う形で支払われればいい。例えば、どこかの国の王様が「YOSHIKIの曲は素晴らしい、100億円で国歌を作ってくれ」という話があったとしてね。
──マジでありそうなんですけど。
YOSHIKI:その1億円で曲を作って、残り99億円は「X JAPANのアルバムでもなんでも好きに使って演ってくれ」「コンサートでも盛大にやってくれ」と、そういう発想だってあり得るわけじゃないですか。
──あるかも。
YOSHIKI:そう考えたら、僕はもう無敵になるわけです。悪い意味でも無敵かもしれない。つまり永遠にレコーディングできますから。
──無敵。
YOSHIKI:コンサートに関しても通常では成り立たないレーザーや特効を全部使う。ちなみに、X JAPANでコンサートをやる時、まず交渉するのは「特効は何発使えますか?」ということで、消防法の限界まで使います。だからX JAPANのコンサートというのはすごく派手なんです。
──だから会場の人に怒られるんですよ。
──日本のミュージシャンでもそういう方が増えてきましたね。
YOSHIKI:だからね、ここまで語ってきて言いたいのは「だからまだアルバムを出す必要がない」ということ(笑)?
──えー、そういうオチなの?新春から凄いわ(笑)。でも2019年もとんでもない年になりそうだということは、皆さんにもよく伝わったのではないかと。
YOSHIKI:だからね、それは「アルバムを出す意味」の話ですけど、今度は「アルバムを出すタイミング」の話です。
──おー。
YOSHIKI:先ほど僕は「アルバムという子どもに凄い旅をさせたい」と言いましたけど、そのタイミングを今作ってます。
──この辺で爆弾発言しておきますか?
YOSHIKI:いやいやいや、いいタイミングをね…あの、僕、地雷をいっぱい持っているから、なるべく踏まないようにしているんですけど。自分が地雷だったりしてね(笑)。
──そろそろお話止めますか。
YOSHIKI:話せばキリがないんですけど、僕が持っている壮大な構想というか、もともと僕はBig Pictureの人なんです。
──Big Picture(全体像)?
YOSHIKI:要するに全体から見ていくんです。細かいところから見ていったって大きなところはわからない。林の中にいてこの木を切ったり装飾していても、自分がその林の中のどこにいるのか、それがどれだけでかいのかまずその位置確認をしたいタイプなんですよね。そこで一生懸命やっていても自分のポジションがわからないと、全体を変えたいという時にどこから行けばいいかわからない。僕は必ずそのBig Pictureから始まるんです。
──わかりました。てか、わからないけど。
YOSHIKI:自分もあと何年音楽業界にいれるかわからないですけど、それぞれ人って生まれてきた意味/使命があると思うんですね。僕は芸術家として何かを残すために生きてきた。みなさんもそれぞれにいろいろな職業があって、それぞれに使命があるわけで、僕はその使命を達成して死にたいと思っている。その使命って何なのか、「自分は一体何のために生きてきているのか」と、まだ見つけられない方もいると思う。でもこの世の中に存在しているというのは絶対に意味があるんです。生まれてきたという意味を見つけて、それを見つけたからにはどうやってその使命を全うするか。
──ええ。
YOSHIKI:50年築かれた音楽ビジネスの中で「お金を稼ぎました」「何億円稼いだ」「いい家に住んだ」…それでね、死ぬ前に芸術家として人生を振り返った時に「それが俺の目標だったのか」って、それは違うでしょ。きっと「100年200年聴かれる曲を1曲でもいいから残せた」ということでしょう?きっとそのために芸術家は生まれてきたんだと思うんですよね。
──ミュージシャンにとって支えになる話です。時に目的が変わってしまうことってあるでしょう?地位とか名声とか富とかが目的になってしまうと、幸せを失っていく。
YOSHIKI:お金なんて、もともと物々交換を潤滑にするための媒体でしかないんですから。例えばワインで言えば、非常に高価なものでも、飲んだらなくなってしまいますよね。でも、その体験にこそが何にも変えられない価値なんです。X JAPANのラストライブを観た方もいらっしゃると思いますけど、あれを観たというのはもうお金には変えられない。人生の中で記憶に残る体験、この瞬間というのに価値を見出してもいいじゃないかと思うんです。だから、X JAPANのアルバムはまだ出ていないけど、この待っている間も体験なんですよ。
──同感です。ライブだって「行こうかな」と思った瞬間からストーリーは始まっているんですから。
──X JAPANなんて「解散」という振り出しに戻ったわけですし。
YOSHIKI:X JAPANの人生ゲームなんて、ひっくり返っているし燃えちゃっているし。僕らが経験した悲しみは決して肯定はできないにしても、紆余曲折という言葉がどれだけ大事なのか。それがあるから人生なわけで、全て順調に行きましたっていったら「何のために生きていたの?」ってなります。悲しみ、喜び、苦しみ含めて人生なんだと思う。
──全くそのとおりだと思います。
YOSHIKI:そういう意味も含めて、みなさんが「これからどうなっていくんだろう」「X JAPANのアルバムは出るんだろうか」と思う中で、ここまで制作したんだから出さないわけはないですよ。ただ、皆さんに聞いてもらうためにその時点で考えられる最善の流通と最善のタイミングは考えさせてもらいたいです。でもそんなに遠い将来ではないとだけ、言っておきたいです。
──楽しみにしています。新春早々貴重なお話をありがとうございました。
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