【ライブレポート】スティーヴン・ウ
ィルソン、心を奪われる音楽的な旅
続いてはポーキュパイン・トゥリー時代の楽曲『In Absentia』から「The Creator Has a Mastertape」。The Creator has a master plan…すなわち「神はマスタープランをお持ちである」というキリスト教的フレーズをもじったタイトルを持つこの曲は、自分の子供たちを拷問しているところを録音し記録していた異常者について。「父は拷問のマスターテープを持っている」ということだ。そんな陰惨な内容にふさわしい、スリリングでヘヴィでメタリックなこの曲では、スティーヴンはエフェクターをいじくりまわし過激なノイズを振りまいていく。再びニュー・アルバムに戻り、「Refuge」。スティーヴンは椅子に座り美しい歌声を聴かせる。バックに美し出される海の映像が、幻想的なエンディングにピッタリで郷愁を誘う。しかし、これは難民キャンプで暮らす家族をテーマとした曲。海が映し出されるのも、小さなボートで母国を脱出してくる難民をイメージしたものだろうか。
15分、というか結局は20分強のブレイクを挟み、第2部がスタート。まずはポーキュパイン・トゥリー時代の「Arriving Somewhere But Not Here」(『Deadwing』収録)。こちらも12分を超える、普通の基準からした超大曲。ハイウェイの速回し映像がオーディエンスの興奮を煽る。プログレッシヴの極地のような曲を演奏したところで、「次は楽しいポップ・ミュージックを演奏する」とスティーヴン。ここからはスティーヴンの独演会。「この反応からすると、君たちはポップ・ファンではないようだね。2018年の今、ポップ・ミュージックとはジャスティン・ビーバーのことだと思っているかもしれない。ポップ・ミュージックはクソだと思っているかもしれない。でも、それは間違いだ。ザ・ビートルズのことをロック・グループだと思うかい?彼らは世界最高のポップスだ。2番はアバ。カーペンターズ、ティアーズ・フォー・フィアーズ、プリンス、ディペッシュ・モード。素晴らしいポップ・ミュージックはたくさん存在する。ジェネシスやキング・クリムゾンのTシャツを着ている人達は仕方がない。コンサートで身体を動かしたことがないだろうからね。それ以外の人は是非立ち上がって、せめて楽しんでるフリくらいはしてくれ」。これに対し「ピンク・フロイドTシャツは?」とオーディエンスも応戦。「ピンク・フロイドも仕方がない。だけど、せめて足でリズムはとってくれ」と、プレイされたのが「Permanating」。DVDでは、ボリウッドのダンサーも登場した極上のポップ・ナンバー。観客も(ほとんど)総立ちで応える。続いてもニュー・アルバムからだが、この「Song of I」は、新譜の中では不気味でヘヴィで実験的な作品。バックのダンス映像も、そこはかとなく怖い。続く「Lazarus」は、ポーキュパイン・ツリー時代の曲ながら、『To the Bone』に収録されていてもおかしくない聴きやすい曲。ところがここで再びアクシデント。アコースティック・ギターに持ち替えたスティーヴンだったが、冒頭の歌詞が出て来ず、今回は演奏をストップ。「3か月ぶりだからさ」などと言い訳しつつ、気を取り直して「テイク2!」の掛け声。今度はきちんと歌えると、オーディエンスからは一際大きな歓声があがる。美しい曲調とバックに映し出される家族写真の数々が見事にマッチ、と言いたいところだが、「死んだ母親が息子を自殺に誘う」という歌詞の内容を考えると、この演出は不気味。再び新譜へと戻り、「Detonation」。こちらは9分を超える大曲であり、ポップ・ナンバーとは言い難いもの。後半へ向けたファンキー・パート、ヘヴィ・パートは圧巻。アダム・ホルツマンのエレピは本当に凄い。マイルス・バンド出身だから当たり前だが。続いては2016年の『4 1/2』から「Vermillioncore」。ディレイを効かせまくったエレピに轟音ギター、そしてドラッギーな映像。強烈なサイケ・インストだ。そしてポーキュパイン・ツリーのナンバー「Sleep Together」。エロチックなタイトルとは対極的なヘヴィなこの曲。ラストに向け、重厚に壮大に盛り上がっていく様は圧巻!第2部ラストを締めるのにふさわしい。
『ホーム・インヴェイジョン~イン・コンサート・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール』を見終わったあとも、映画を一本見たようなスケールを感じたが、この日のライヴも同様。「ライヴもアルバムと同じで、音楽的な旅として構成している。オーディエンスは心を奪われるだろう」というスティーヴンの言葉通り、終演後しばらく呆然としてしまった。
わずか数日前に51歳の誕生日を迎えたスティーヴン。MCでは「身体は老いたけど、気持ちは若い」と言っていたが、いやいや見た目もとても50代に見えない若々しさ。音楽っていいなと改めて教えられた一晩であった。何から何まで最高でした。
文:川嶋未来 / SIGH
写真:mika kureta
<STEVEN WILSON - LIVE IN TOKYO 2018 -EX THEATER ROPPONGI(2018.11.5)>
Set 1
1.Nowhere Now
2.Pariah
3.Home Invasion
4.Regret #9
5.The Creator Has a Mastertape(Porcupine Tree song)
6.Refuge
7.People Who Eat Darkness
8.Ancestral
Set 2
9.Arriving Somewhere but Not Here(Porcupine Tree song)
10.Permanating
11.Song of I
12.Lazarus(Porcupine Tree song)
13.Detonation
14.Vermillioncore
15.Sleep Together(Porcupine Tree song)
Encore:
16.The Sound of Muzak(Porcupine Tree song)
17.The Raven That Refused to Sing
スティーヴン・ウィルソン『ホーム・インヴェイジョン~イン・コンサート・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール』
【初回限定盤Blu-ray+2枚組CD】 GQXS-90356~8 / ¥8,000+税
【初回限定盤DVD+2枚組CD】 GQBS-90395~7 / ¥7,000+税
【通常盤Blu-ray】 GQXS-90359 / ¥5,500+税
【通常盤DVD】 GQBS-90398 / ¥4,500+税
※日本語解説書封入/日本語字幕付き
Blu-ray(DVD)
1.トゥルース(イントロ)
2.ノーホエア・ナウ
3.パライア
4.ホーム・インヴェイジョン / リグレット・ナンバー・ナイン
5.ザ・クリエイター・ハズ・ア・マスターテープ
6.レフュージ
7.ピープル・フー・イート・ダークネス
8.アンセストラル
9.アライヴィング・サムホエア・バット・ノット・ヒア
10.パーマネイティング
11.ソング・オブ・アイ
12.ラザルス
13.デトネイション
14.ザ・セイム・アサイラム・アズ・ビフォー
15.ソング・オブ・アンボーン
16.ヴァーミリオンコア
17.スリープ・トゥゲザー
18.イーヴン・レス
19.ブランク・テープス
20.サウンド・オブ・ミューザック
21.レイヴンは歌わない
《ボーナス映像》
リハーサル・トラックス
・ルーティン
・ハンド・キャンノット・イレース
・ハートアタック・イン・ア・レイバイ
インタビュー
CD1
1.トゥルース(イントロ)
2.ノーホエア・ナウ
3.パライア
4.ホーム・インヴェイジョン / リグレット・ナンバー・ナイン
5.ザ・クリエイター・ハズ・ア・マスターテープ
6.レフュージ
7.ピープル・フー・イート・ダークネス
8.アンセストラル
9.アライヴィング・サムホエア・バット・ノット・ヒア
CD2
1.パーマネイティング
2.ソング・オブ・アイ
3.ラザルス
4.デトネイション
5.ザ・セイム・アサイラム・アズ・ビフォー
6.ソング・オブ・アンボーン
7.ヴァーミリオンコア
8.スリープ・トゥゲザー
9.イーヴン・レス
10.ブランク・テープス
11.サウンド・オブ・ミューザック
12.レイヴンは歌わない
【メンバー】
スティーヴン・ウィルソン(ヴォーカル、ギター)
ニック・ベッグス(ベース)
クレイグ・ブランデル(ドラムス)
アダム・ホルツマン(キーボード)
アレックス・ハッチングス(ギター)
ニネット・タイブ(ヴォーカル)
アーティスト
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