SUGARSOUL17年ぶり新曲を聴くべき理
由とは。「今すぐ欲しい」からメジャ
ー20thまでを紐解く
1997年から1999年にかけて日本ではR&Bをベースにした女性シンガーが数多くメジャー・デビューを果たした。97年にSAKURAがデビューし、98年にはMISIA、宇多田ヒカル、DOUBLE、SILVA、SUGARSOUL、嶋野百恵がデビュー。99年にはbird、Tina、Crystal Kayがデビューした。自分はいま名前を挙げた全員に複数回インタビューしているが、このなかでデビュー当時最もヒップホップに寄ったアプローチをし、言いたいことはハッキリ言って生身の自分をそのまま音楽に結び付けた表現をしていたのがSUGARSOULだったという印象を持っている。
メジャー・デビュー・シングルは98年9月の「悲しみの花に」だが、FLAVA RECORDSからリミックスを含む5曲入りEP『Those Days』でインディーズ・デビューしたのは97年1月。そこに収録された「今すぐ欲しい」がクラブから火がつき、それは彼女の代名詞的な1曲となった(因みにこの当時のSUGARSOULは、Aico、DJ HASEBE、カワベの3人ユニットとして活動)。“女にも欲しい夜があるって。わかるでしょ、そう、たまらないときがあるってことを…”。セックスに対する女性の本心をこのように直截に歌った曲はそれまで日本のポップにはそうそうなく、よって「今すぐ欲しい」はとりわけ女性たちから熱く支持された。DJ HASEBEのビートに柔らかく乗っていくAicoのヴォーカル、そこに絡むZEEBRAのラップ。それらが有機的に結びついた完璧と言えるこの曲は当時クラブで本当によくかかっていた。2006年に倖田來未がカヴァーしたのも、倖田がこの楽曲に特別な思い入れを持っていたからだ。因みにAicoが生まれて初めて作詞をしたのが、まさにこの曲。98年に初めてインタビューした際、「自分のなかの本当の気持ちや自分がそれまで培ってきたものをどれだけ純粋に出していけるか。曝け出せるか。歌詞を書くときも歌うときもそれだけを考えるようにしているし、それができれば必ずひとにも伝わると思っている。自分に正直になることが、イコール、ひとに対しても正直になることで、そうじゃなかったら音楽をやる意味なんてないんですよ」と彼女は話していたが、その言葉は「今すぐ欲しい」はもちろん、彼女の全ての楽曲の創意に繋がるものだったといま改めて思う。
デビューから少し経つと、Aicoは民族楽器やトライバルな響きの入ったサウンドに惹かれるようにもなり、大地を思わせるビートも力強い4thシングル「ナミビア」あたりから徐々にそうした表現に向かうように。99年2月リリースの1stアルバム『on』はそういった方向性がよく見える曲もありつつ、しかしポップさも否定することなく、朝本浩文、大沢伸一、浅田祐介といったプロデューサーの手を借りながら多様な表現を見せていたものだった。
「ヘンに自分で自分を縛ることなく、湧きおこってくるいろんな表現方法に素直になりたい」。そうした開かれた気持ちと挑戦心がこの頃の彼女には強くあり、そんななかから生まれたのが降谷建志をラップで迎えた99年のシングル「Garden」。これは90万枚を超えるビッグヒットとなったので、この曲で彼女を知ったという人も多かったことだろう。続くZEEBRAを迎えた6thシングル「Siva 1999」ではまた攻めのモードに入り、それらを収録した2000年5月リリースの2ndアルバム『うず』ではさらに表現の幅を拡大。しかしビッグヒットが呼び入れるのは必ずしもいい空気・いいヴァイブスばかりじゃなく、人間関係は複雑化し、また真面目になんでも突き詰めて考える性格であるゆえ自身の表現と商業ベースに乗せるための表現の間で苦悩することに。やがて音楽を続けることすら厳しい精神状態に陥り、2001年の9thシングル「SOUL MATE」のリリースを最後に彼女は音楽活動をストップさせた。
長期の音楽活動休止期間。その頃を振り返り、2016年にインタビューメディア「OPINION」に掲載されたインタビューで、Aicoはこんなふうに話している。「活動休止した一番の理由を一言で言うと、自分が潰れてしまったからなんだ。最後は声も出なくて、息もできなくて。歌えなかった。何もかもが、だいぶボロボロになってた」「誰のことも、何もかも、信じられなかった」「もう私は、音楽を奏でることも歌うことも無理だなぁと思っていたかな、怖くて」。やがて彼女は熊本に移り住み、先に触れたようにコミュニティで村づくりに携わりながらオーガニックの概念を取り入れた暮らしをするように。家族や仲間たちに支えられ、自然とも深く繋がりながら自身を癒していった。
自分が久しぶりにAicoと会ったのは2010年の夏前。KAMが始動するときのことだ。KAMは朝本浩文とMC CARDZとAico(このときはアイコsunの名前で参加)の3人で結成されたドラムンベースのバンド。ユニットと伝えるメディアが多かったが、3人はユニットじゃなくバンドであることに強いこだわりを持っていた。結成のきっかけは、朝本とCARDZがやっていたクラブイベントにAicoが飛び入り出演し、この3人でバンドを組みたいと考えた朝本がふたりに声をかけたこと。「私はもうずっと音楽活動をしていなかったんですけど、朝ちん(朝本)からいきなり電話がきて“バンドやりたいよね”って言われたとき、素直に“やりたい!”って思ったんですよ。で、自分でもビックリしたんですけど、その場で“やる!”って言葉が出て。長い眠りから覚めるような感覚だった。ムクムクと私のなかの何かが起きあがったんです」。そのあとAicoの出産があって少しばかり遅れはしたが、KAMは本格始動して2010年7月に「When the Sun Goes Down」でデビュー。2011年にはアルバムを2枚同時リリースし、またライブも積極的に行なって朝霧Jamにも出演したのだった。
KAMで音楽の世界に復帰して以降、Aicoは仲間たちとの繋がりを大事にしながら歌える場所では歌っていくようになり、2014年には加藤ミリヤのアルバム『MUSE』収録曲「Blue Flame」やEGOのアルバム『ISLAND』収録曲「I Have A Dream」などにフィーチャリング・ヴォーカルで参加。2015年にはHAB I SCREAMのアルバム収録曲「I See You」にも参加した。また2016年には熊本地震復興支援を目的にチャリティイベントを企画。それはまさに、彼女がもっとも大事だと考える“繋がりの力”を形にしたものだった。一方で、KAMに誘って彼女の音楽復帰に手を貸した朝本浩文が2014年9月に事故に遭い、そのまま意識が戻ることなく2016年11月に他界するというあまりにも悲しい出来事もあった。当然のことながら彼女の心には穴があいたに違いないが、しかし恐らく朝本氏のためにも音楽を続けていこうという気持ちになったのではないだろうか。2017年には餓鬼レンジャーのアルバム『キンキーキッズ』収録曲「ONE」(熊本大震災を受けて制作されたメッセージソング)にJESSEと共に参加し、ライブ出演の回数も少しずつ増やしていくようになったのだった。
メジャー・デビュー20周年となる今年、こうして新曲が届き、同時に音質が格段によくなったベスト盤でこれまでの軌跡を辿ることもできるようになったのは、やはり偶然ではなくなんらかの必然を感じずにはいられないこと。ここからのさらなる動きに期待したい。
文◎内本順一
◆ ◆ ◆
『sugar soul<Remastered>』
2018年9月26日発売
WPCL-12936 ¥2,500+税
1. 今すぐ欲しい
2. Sauce
3. 悲しみの花に
4. 青い月
5. ナミビア
6. Ho-oh~女神のうた~
7. Gin & Lime
8. Garden
9. Siva 1999
10. respectyourself
11. いいよ
12. SOULMATE
13. いとしさの中で
14. Moonlight Dance ※新曲
【試聴・ダウンロード】
https://WarnerMusicJapan.lnk.to/sugarsoulremastered
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