【NakamuraEmi インタビュー】
自分のために嘘のない曲を書きたい
きっとそれが誰かの助けになるから
NakamuraEmi
メジャー3rdアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』は、まさに便利さと引き換えに温かな人間臭さを失った人々への強烈なカウンターパンチ。時に呟くように、時に吐き出すように、歌とフロウの間を行き来する独特のヴォーカルと嘘のない言葉が、貴方の“イタイところ”を抉り出す。
機械やSNSに支えられている時代だからこそ五感を使ったコミュニケーションの温もりを伝えたい。そんな想いから今作は生まれたとのことですが、何かきっかけがあったんでしょうか?
今は二児の母親になっている親友の家に遊びに行った時、玄関にお米とか野菜がいっぱい積んであったんで、“これ、どうしたの?”って訊いたら、“うちでできた野菜を息子に配らせたら、近所の人がお礼で持ってきてくれたんだ”って言われたんです。そういった人間関係って本当に素敵で、私が小さい頃は普通だったけれど、今では珍しいものじゃないですか。近所のおじさんと話すことも難しい時代に生まれ育った若者に、実際に人と触れ合うことで生まれる温もりを伝えられるのって自分たちがギリギリの世代なんじゃないか…そう思ったんですよね。
ネット上で全てが事足りてしまう時代というのは、便利だけれど恐ろしくもありますよね。どんどん便利になるから面倒があふれて、手間から生まれる真心を感じられなくなると歌う「新聞」には、本当にその通りだなと共感しました。
朝日新聞社からタイアップのお話をいただいて書いた曲なんですけど、常日頃から自分の中で気にかけたことを書き留めているノートに新聞のこともあったので、これはササッと書けましたね。TVアニメ『メガロボクス』のエンディングテーマの「かかってこいよ」もアニメがボクシングの話だったので、“生身で闘う”っていうところと、アーティストとして“自分の芯を信じて闘う”っていうところがすごくリンクしたんです。私は引っ叩かれて育ってきたし、生身の痛みを知っているから、例えばSNS上の言葉で困惑しても“所詮はバーチャルなものだから”と割り切ることができる。でも、機械上でのコミュニケーションしか知らない人はそれが全てだから、もっと深刻に悩んでしまうと思うんですよ。そんな人たちにどう伝えればいいんだろう?って、まだちゃんと答えは出てないから、もうとにかく歌っていくしかない。
語りかけるようにやさしく歌うアコースティックな「新聞」に、バンドサウンドで想いを叩き付ける「かかってこいよ」と、まったくサウンドのタイプは違いますが両方タイアップ感ゼロで。きっと先方も“NakamuraEmiの言葉の威力”に惚れ込んでオファーされているんでしょうね。
それ、すごく嬉しいです。いつも自分の感じていることと共通するものがあるお仕事を、スタッフの方々も持ってきてくださって。『笑ゥせぇるすまんNEW』のオープニング曲のお話をいただいた時も、子供の頃から観ていた作品だったので嬉しい反面、最初は“合うのかな?”と不安だったのが、書いてみたらすごく通じるところがあったんですよ。喪黒福造がお仕置きをする欲深い大人たちの気持ちが今になって分かるし、どんどん膨らんでいく欲に対する疑問は自分が曲を書く上でのテーマだったりもするんですよね。
つまり、NakamuraEmiはJ-POP界の喪黒福造かもしれない?
ははは!(笑) 嬉しいけど、おこがましい! でも、そんなふうになれたら…私の歌で“これってヤバいかも”って気付いてもらえたら嬉しいですね。
常に自問自答をして“気付く”ことのできる方ですから大丈夫ですよ。自己中を直そうとした学生時代を描いた「教室」からも、自分の欠点に気付く敏感さは明らかですし。
いや、ほんとに酷かったんですよ! 性格が超悪かったんで仲間外れにされて、単純にその環境がキツかっただけ。それに、今も自己中心的であることは変わらないんですよね。音楽業界には芯を持っている方がたくさんいらっしゃいますし、その中にいると自分の弱さが浮き立ってくるばかりで…誰かをどうにかしてあげたいというよりは、結局、自分のために曲を書いているんです。メジャーデビューして2年が経って、自分が見られていく立場だというのを少しずつ実感して、その中で未だに自分のために曲を書いているというのはすごく矛盾を感じてはいるんですけど、自分のために書くと嘘がないんですよ。そうすると歌詞のひとつ、どこか一部でも、同じように悩んでいる人に伝わるんだと、ライヴに来てくださってるお客様を見ていても感じるんです。ヒップホップに出会って、自分を言葉にする強さだったり、想いを歌詞に込められる手法を知ってからは、とにかく歌詞に自分の想いを叩き込んで、自分の言葉を思い切り嘘なく人に伝えようというスタイルに変わっていったので、何枚出しても自分のために曲を書いていこう!と思っています。
自分のため、つまり自らを力付けるために曲を書くというのは、それこそ「学校」の歌詞にある“負の妄想力”に長けているからでは?
本当にそうですね。今はめちゃネガティブなんで!
ただ、ネガティブだからこそ、それをポジティブに転換しようという「モチベーション」みたいな曲も生まれるわけで。《私次第だった》のリフレインには本当にハッとさせられましたし、生きた経験から生まれた嘘のない言葉だからこそ胸に刺さりました。
そうですね。例えば、誰かムカつく人が目の前に現れて、ムカつく言葉を言ってきてたとしても、この人にこう言わせた何かが私にあるんだなと考えれば、ただムカつくだけではなくなるし。逆に良いことがあって調子に乗りすぎると変なことが起こったり(笑)、ほんとに私次第だなぁって感じたんです。なので、これからもいろんな経験をして、その中で失敗したり、恥をかいたり、凹んだりしながら、でも頑張ろう!っていう精神を忘れずに思ったことを書き続けたい。それが今、自分の生きるテーマなので、とにかくたくさんの挑戦と出会いをしていきたいですね。
取材:清水素子
「かかってこいよ」MV
アーティスト
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