【清春 インタビュー】
“年齢相応のロックって何だろう?”
って考えるようになったんですよね
清春
昨年末にレーベル移籍第一弾作品『エレジー』を発表したばかりの清春が、完全新作『夜、カルメンの詩集』をリリースする。今回はスパニッシュ要素を前面に打ち出すことで、彼にしかできない独自のロック観を提示している。
ニューアルバム『夜、カルメンの詩集』は資料にもある通り、“スパニッシュ要素を全面に反映させた楽曲”が目立つ作品になりましたが、こうしたサウンドはどういったところから導き出されたものなんでしょうか?
最初は“カルメン”という言葉を使いたかっただけなんです。僕が思うカルメンは、スペインで赤い服を着て薔薇を咥えてタップダンスしながら…という感じだったんだけど、YouTubeを観ていたらEstas Tonneというギタリストを見つけて、それがカッコ良くて。再生回数も半端ないから、絶対に一緒にはやってくれないだろうけど、ああいうサウンドは僕の歌に合うなと思ったんです。Eマイナーであまりコードは動かないんだけど、細い弦で展開していくのが多くて、プリプロしながら“これはフラメンコだなぁ”と思ったりもして。で、レコーディングでフラメンコギタリストの智詠くんに来てもらい、弾いてもらったら実際良かったと思う。
それはいつ頃の話ですか?
このアルバムを作る前に『夜、カルメンの詩集』というツアーをやってるんですけど、その前…2年前くらいですね。最近はちょっとバンドもやっているので、ソロでの清春バンドの時のアンサンブルはロック的じゃないもので…というか、今までやってきたこととまた違う、“年齢相応のロックって何だろう?”って考えるようになったんだよね。もうちょっと大人というか、ヒステリックにならない、破壊といった方向に行かずにやれるような共鳴の仕方…でも、大人しくはなりたくない。渋いR&Rではなく、もうちょっと艶やかでいたいと考えた時に、何となくスパニッシュが引っ掛かったのかな。
スパニッシュを取り入れたとはいえ、決してマニアックにならず、ポップな作品に仕上がってますよね。
まぁ、僕はマニアックなこととかできない。そもそもマニアックな音楽を気持ち良いと思って聴いたことないからね。アレンジャーの三代堅さんに“マニアックにやってください”って言えばやってくれると思うんですけど、そういうものは苦手。分からないものは分からない。だから、僕が思うポップ感…コードとメロディーの感じをスパニッシュに合わせてみたら、単純に合ったという。ただ、大人っぽいというのは目指すところだし、最近のテーマなんです。40代で“まだまだロック”って言っていられるのもいいんですけど、デビューして25年、50歳になったらずっとそれでいいわけじゃないと思うんですよ。“まだまだロックでもいいけど、それはどういうロック?”ということに当然ぶつからなくちゃいけない。だから、今回はスパニッシュを入れましたけど、くっ付けただけで、どこにも寄らないというのが実は正しいのかなとは思ってて。「赤の永遠」の歌詞にも出てくるけど、フラメンコの歌は“バイレ”って言って、“バイレ”っぽい雄叫びをしてみるとか、クラップを覚えちゃうとか、そうすると本末転倒だと思うんだよね。
なるほど。確かに、「眠れる天使」はファンキーなリズムですけど、ブラックミュージックっぽくはないし。
歌は全然ファンキーじゃないですよね(笑)。
あと、「貴方になって」や「TWILIGHT」ではサイケなサウンドも聴けるものの、所謂サイケデリックロックではない。メロディー自体が清春さんらしいものであることもあってか、今作も他に比類なき清春らしい作品である印象が強いです。
このアルバムは最初に“スパニッシュ”というワードがあったので、それを入れてみたら思ったよりも良かったということで、自分には根本的にやりたい音楽…特に“これだ!”という音楽はないんです。基準は今まで自分がやってきたことで、それよりも良いのかどうかでしかないんですよ。黒夢のインディーズ時代に「終幕の時」(アルバム『亡骸を…』収録)という曲があるんですけど、あのテーマもフラメンコ的なことだったし、あんまり好きな感じは歳食っても変わらない。もちろん上手くはなっているから変わったように見える時もあるんだけど、実際やっていることは変わりようがない。成長の跡なんてないんですよ(苦笑)。
いやいや(笑)。私が思うのはその逆で、テーマは過去にあったものかもしれないけど、クオリティーは段違いにアップしているわけで、今の年齢だから出せる音という意味ではとてもバランスの良い作品だと思いますよ。ポエトリーリーディングも含めて、こういうことをやれるシンガーって今の日本の音楽シーンでは清春さんだけなんじゃないんですかね。
そこはしっかりと書いといて(笑)。実験的でありながら王道を行けるバンド出身のシンガーであり、ミュージシャンってのはなかなかいないかもね。マニアックになりすぎちゃったり、芸能界っぽくなったりするパターンは多いけど、シンガーソングライターで実験的なことをしつつ、そこにある匂いは絶対に消さないというのはなかなか見当たらず、特にキャリアがあるとなぜかできないんですよ。
例えば、昔の歌謡曲には、尾崎紀世彦さんや布施明さんといった、その人が歌えばどんな歌でもその人の歌にするシンガーがいましたよね。『夜、カルメンの詩集』を聴いて、タイプこそ違いますが、清春さんのシンガーとしてのスタンスはそうした先人たちに近いものを感じましたよ。
何を歌ってもその人の温度や匂いに包まれる人。カバーをするとそれが如実に分かるタイプ。それは僕もしかり…ということですね。まぁ、僕らはそうじゃないとデビューできなかったギリギリの世代ですから。玉置浩二さんとかB’zの稲葉浩志さんとかもそうだと思うんだけど、やっぱり一発でその人だと分かる人、僕はそれがプロだと思ってたんで。…歌って難しいんですよ。簡単に歌ってるように思われているかもしれないけど(苦笑)。
取材:帆苅智之
アーティスト
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