【真心ブラザーズ】
今しか出ないエネルギーを
はみ出た部分まで逃さずとらえた
L→R YO-KING(Vo&Gu)、桜井秀俊(Vo&Gu)
2年10カ月振りとなるニューアルバム『FLOW ON THE CLOUD』は、60年代の野太いロックンロールをモノラルミックスで閉じ込めた渾身の一枚。限りなく生に近い、現在の真心ブラザーズを感じろ!
まずは7月にお誕生日を迎えたYO-KINGさん、おめでとうございます! 50歳ということで何か変化はあります?
YO-KING
年齢なんてあくまで数字だから意識しないようにしてますね。気持ちはいつでも28歳だし、年齢不詳でいたいなと思ってます(笑)。楽しく生きると1年が半年で過ぎた気になるけど、そういう人は肉体も半年分しか衰えないってデータもあって。ずっと28歳の気持ちで生きてるのに、50歳と意識しちゃうと、細胞がそっちに合わせちゃうらしいです。
桜井
うちの母親は僕が高校生くらいの頃から、自分の年齢を本当に忘れちゃってて、“私、いくつだっけ?”とか言ってるのがすごくいいなと思って見てますね。本当に自分の歳を忘れたら一流ですよ(笑)。僕は来年で50歳ですけど、今が一番楽しいくらいです。芸事の端くれをやってるので、技術と気力といろんなことが充実してきてるのも感じますし。
今回の『FLOW ON THE CLOUD』を聴かせていただいても、すごく楽しみながら作っているのを感じました。まさに充実ですよね。若い頃とは違った、バンドの楽しさで満ちています。
桜井
今回はほとんど準備せず、レコーディングに取り掛かりましたね。YO-KINGさんがいきなり歌詞を配って、弾き語りで聴かせて、コードを教えて、“じゃあ、やろうか”みたいに作った曲が中心で、中途半端じゃない疲労もありましたけど(笑)。いろんな意味を含めた“楽しい”が詰まってると思います。
YO-KING
うん、楽しかったよね。アルバム制作は良いアルバムを作るというのが一番じゃなくて、その日のレコーディングが楽しいってのが一番。2000年くらいから、その心構えでやってて、結果的に良いアルバムができればそれに越したことない。良いアルバムって作ろうと思って作れるもんじゃないし、いろんな偶然とか奇跡があってできるもんだから。その奇跡を呼び込む態度として、その日一日を楽しんでると、その態度に対して音楽の神様がご褒美をくれるっていうのが実感としてあるんですよね。だから、今回も毎日、13時くらいに集まって、18~19時には終わりにしていて。
え~!? めちゃくちゃ効率良いじゃないですか(笑)。
桜井
効率良いですよ。録りが7日で、ミックスが2日。その間に24曲くらい録ってますから(笑)。どうにか入れたいけど、泣く泣く外した曲もいっぱいありますね。
YO-KING
でもね、そういう曲は友達に聴かせて、褒めてもらってるからいいんです(笑)。スタジオで録ったラフミックスを“これ、聴いてみ”って聴かせて、“最高!”って褒めてもらうのがすごい嬉しくて。僕にとってはそこも含めてレコーディングという遊びなんです。で、その延長上にみんなに聴いてもらうアルバムがある。今回なんて“自分が聴きたいアルバムを作る”ってコンセプトがあったから、よりプライベートな作業になってたかもしれない(笑)。あと、今回はデモテープって過程がなかったから、より生に近いものになってると思う。だからこそ、生々しく人間味あふれるテイクが録れたんだと思います。僕、あんまり優等生な整った音が好きじゃなくて。間違っててもいいから、ワ~ッと流れで録ったテイクを残せればいいなと思ってるんですよ。今作も10年後とかにマニアの人とかが聴いて、“ここ、間違ってんだよ!”とか解説してくれたら面白いですよね(笑)。
桜井
“桜井、ここちゃんと終われてないな!”とか。バンドやってる者同士だとすぐ分かっちゃうから(笑)。今、デジタルの技術がすごく進んでいるから、それをどう使うか?ってところで、大半の人は不都合を隠したり、細い音を太くしたり、そういった発想になりがちなんだけど、はみ出してるんだけど面白いって瞬間を手軽にとらえられるのもデジタルの強みなんですよ。そこで今作は今しか出ないエネルギーを逃さずとらえて、ちゃんと収められたと思うし。こういうデジタルの使い方をしてる人はなかなかいないと思うから、すごく面白いことができたと思うし、これを聴いたバンド仲間は羨ましがってくれるんじゃないかな。そんな気がします。もちろん、そこまで専門的でないリスナーの人も、なんとなくエネルギーがあるとか、スリルがあるとかは感じてくれると思うので。そこを面白がってもらえたら最高ですね。
そんな中、ラストに影を落として終わる、「フェアウェル」~「黒い夜」の存在についてもうかがいたいのですが。やはり今作を締めるには、こういった暗い曲も必要だったと?
桜井
死だけじゃなく、何かする時に物事の終わりに目をつむらず、終わることをイメージしながら臨むことで、より今を充実できるというのを最近骨身に染みて感じているんですよ。20代の頃は始めることばかりで頭がいっぱいになってたし、それも良かったんだけど、終わりもあるんだってイメージすることが、若い子に必要ないとも思わなくて。例えば、高校で野球部に入ってる子だったら、3年になったら引退しなきゃいけない。そこで進学するのか、卒業するのか? 終わりをイメージできたら、日々の練習も変わってくると思うんです。
YO-KING
楽しく生きるほうが絶対いいんだけど、生きてたら楽しいことばかりじゃないからね。“いろいろあるけど、楽しく生きるぞ”って覚悟を持てるかどうかなんだよね。そういう意味では“いろいろあるけど”を加味した曲が入ってるのが今作なんです。今回、真心のアルバムの中では一番アート寄りで、商業主義からは一番かけ離れてると思うけど、今の時代には逆に商業主義のど真ん中になり得る作品だと思ってて。
桜井
確かに。墨に筆をバンッと浸けて、ガッガッて一発で書いたみたいな曲ばかりだからね(笑)。
YO-KING
一番過激と言えば、過激なアルバムかもしれない。でも、だからこそいろんな人に聴いてほしいってのはあるかな。
取材:フジジュン
アーティスト
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