【たむらぱん】転換期、そして確信。
“本当”の濃さが強い楽曲!
既成概念をしなやかに打ち破るような詞世界、鮮鋭に鳴り響くサウンドスケープ。「ラフ」はたむらぱんの特異なセンスに唸らされ続ける、“普遍的名曲”だ。“可能性/期待/信じる”というテーマでつながるカップリングも必聴!
取材:竹内美保
先日のワンマンライヴ『SOSOSOS』で「ラフ」を披露された時、“思い入れある曲”と紹介されていましたよね。
はい。実は、この曲が出来上がった時はリリースできるとは思ってなかったんです。“たむらぱん=『ラフ』”とは捉えてもらえないだろうという思いが強かったので。でも、逆に“もしこの曲をリード曲で出せるように自分がなったら、それは転換期になるだろうし、いろいろな物事に対して確信が持てる”、そういう曲になるとも思えたんですよね。で、なぜそう思ったかと言うと、この曲でも書いているんですけど…ひとつの見方、ひとつのイメージ、ひとつの感覚で物事はうまく動くし、それがラクだったりするんですけど、それを越えて“見えなかった本来見えるべきものが見えてくる”気持ちのゆとりが持てれば、もしかしたら今の自分ではない、もっと大きな可能性や広い世界を感じられるはずだって。とにかく可能性というものをすごく思い描いていた時期だったんです。何かに対して賭けてみたい、というか。ただ、当時の自分では現実と理想を近づけるまでに至ってなかったのかもしれません。
紆余曲折があったんですね、誕生からリリースまでに。
そうなんです。稀に見る紆余曲折だった気がします。作った当時を振り返ると、全ての雰囲気を合わせて迷いなく作っていたし、それだけにここまで出さなかった理由も分からないし…すっごくいろいろあるんですよ。でも、この曲はタイムラグさえも超えてどこででも存在できるという思いは強かったので。
今、“迷いなく作った”とおっしゃいましたが、楽曲としての着地点が着手する以前から明確に見えていたと?
すごくハッキリ見えていました。だから、歌詞もほとんど変わってないし、アレンジもデモの段階から変化していないんです。で、私にとってはそういう曲ほど“本当だ”っていう…もちろん全部が本当なんですけど、“本当”の濃さが強いというのはあります。
では、実際のスタートラインはどういうところから?
とにかく何事にも捉われたくない、という大きなイメージです。あとは、時が流れている感と、その中での逆らえるような雰囲気というか、そこに乗っかりすぎない雰囲気ですね。それと、“もしも”“世界”“ラフ”という最初からあったキーワードに全部共通していたのが、“穏やかに、平和に暮らしたい”という思い。その理想みたいなものを全部組み合わせていったら、この曲が完成した…という感じです。
その“逆らえる”というところにつながると思うのですが、世界の最終列車に乗らないという選択をこの曲の主人公はしていますよね。でも、人は普通、乗るんですよ。
うんうん。そうですね。
でも、それが実は世界の始まりを見るための行動だという。この逆説的な表現は衝撃的でした。
そこをできるかできないかで変わることがあるんだな、という思い。“あえての”という意図は結構大事なんじゃないかなと思うんです。そこでの可能性を信じて賭けてみる。奇跡が起こる世の中だと信じて、そのためのひとつの手段として気持ちを解放してみる。だから、この曲の“ラフ”…“気楽になる”っていうことも無意識でやっちゃうというよりは、意図的にやってみるというほうが強いんですよね。
サウンド面もかなり興味深いことが起きていて。イントロのアコギのフレーズ、ループするアウトロ、そして間奏ではものすごいカオス状態になっているという。
あの間奏部分は“結局、ここはどこなんだ?”っていう違和感や混乱を感じているシーンなんです。曲全体としては“見えるものと見えないもの”“今の自分と理想の自分”がそれぞれ別物にならない…つまり、夢かと思えていたことも気持ちのゆとり次第でまるで現実になってしまうということをイメージしていたんですけれど。でも、その中でやっぱり本当の現実を感じてしまう…そこで起きた感情を音で表現しました。イントロのフレーズは、私が鍵盤で打ち込んだものをアコースティックギターで再現してもらったんですけど、実際に弦で弾くのは大変らしくて。でも、“イントロが変わったら全てが変わるんです。お願いだからやってください”って(笑)。アウトロのポコポコっていう音は時間の経過を表すために曲中に一貫して入っているんですが、最後で繰り返すのは“結局、終わりはない”という意味を持たせてあるんです。
カップリングの「ズンダ」にも“あれっ!?”という展開が。
この曲は展開が読めないというか。私の中では、ひとつの応援ソングみたいな捉えかたで受け止めてもらえたらと思っているんです。でも、頑張って何かが叶った瞬間に絶望することもあるし、失ったものがあることに気付いたりもする。だから、“叶った先のイメージ”を持って聴いてもらってもいいじゃないかとも思っています。この曲には“自分がどんな状況でも、それは意味のあるものだ”ということは揺るがないようにしたいという思いが込められてるので。
そして、3曲目の「伝心棒」ですが。“僕らはふっと遠くを見る”という最後のフレーズが温かくも切なくて、グッときました。
これがあるのとないとでは違いますよね。『ラフ』のテーマにもつながるんですけど、“自分の今の位置じゃないほうを向く”という。もともとこの曲は“世界はちゃんとつながっていて、自分はまだまだ小さい存在だけれど、でもつながっている世界での可能性はある”というイメージを持って作ったんです。遠くを見てしまう理由をそこで改めて考える、という終わりかたをしているんですよね。
このシングルの発売後は、いよいよアルバムですね。
いい意味で感情的な、それぞれが対話できるぐらい確立している楽曲がそろっていますね。だから、すごく不格好な、ホントに不器用に生きているような一枚になるんじゃないかと思います。
アーティスト
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