【やなぎなぎ】負の感情を浄化する曲
になってくれたら
8枚目となるシングル「トコハナ」はTVアニメ『ブラック・ブレット』のエンディングテーマ。激しくエモーショナルなこの曲は、アルバムのアンコールツアーを経験し、さらに成長した、やなぎなぎが反映された作品になった。
取材:桂泉晴名
まずタイトルの“トコハナ”にはどんな意味があるのですか?
漢字にすると“常花”。蓮の華をイメージしていて、それを象った仏具の一種でもあります。蓮は『ブラック・ブレット』の主人公が“蓮太郎”という名前で、原作でも「君の名前について」という話の中で“仏教の世界で一番きれいだと思われているものは何だか知っているか? それは蓮の花だ”というエピソードがあって印象に残っていたんですよね。そこから想像を広げて作りました。でも、いろいろな意味に取ってもらいたかったので、表記はカタカナにしたんです。
この曲は最初に呪文のような言葉が入っていますね。
あれはサンスクリット語です。今回は蓮の花がモチーフで、仏教の世界のお話が原作にあったので、英語より仏教に近い言葉で入れてみようと思いました。
『ブラック・ ブレット』の原作にはどのような印象を?
テーマは重い作品なんですけれども、小さい女の子がたくさん出てきて、主人公の周りがだんだん賑やかになっていったりして。少女の純粋な無邪気さと重いテーマのコントラストがパキッと分かれていて、対比が面白いと思いましたね。
そう言えば「トコハナ」のPVでは、白い衣装と黒い衣装を着たやなぎさんが出てきて、こちらも対比が表れていますね。
ひとりはすごく純粋で真っ白な人、もうひとりはいろいろなことがあり、心がだんだん黒くなっていってしまった人。そのふたりが出会うというPVです。蓮の花って自浄作用があるので、白い人が黒い人を癒す、といったイメージです。
PVでは海の中に立っている建物などが映っていますが。
撮影は長崎でした。島ではなくて、陸続きになっているところなんですけれど。ちょっと離れたところに、廃墟になった建物が点々と残っている場所だったんですよ。
そうだったんですね。この「トコハナ」の作曲は4thシングル「Zoetrope」でタッグを組んだ齋藤真也さんだそうで。
「Zoetrope」はゴシックっぽさがありつつ、メロディーはキャッチーで。さらに真也さん独特の流れもちゃんとあるんですね。『ブラック・ブレット』には退廃的なイメージもあったので、真也さんの曲がはまるんじゃないかと思い、私からお願いをしました。
再び一緒にやってみていかがでしたか?
たぶん真也さんは私の歌い方の癖とか、前回で分かってくださった部分があったと思うんですよね。私も真也さんの得意なメロディーとかいろいろ知ったので、さらに深いやり取りができるようになったと感じています。
齋藤さんはやなぎさんの声についてどんなコメントを?
真也さんは“語尾で跳ねる感じとか、なぎさんぽいよね”と 言っていて、“なぎ節”みたいなのがあるって言われるんです(笑)。自分では意識していなかったんですが。今回、サビの頭とか、結構メロディー的にも引っかかりが良い激しい場所があるので、なぎ節を盛り込んでいっています(笑)。
「トコハナ」 は激しい曲なのでパワーを使いますよね。
サビの部分はわりと地声のギリギリの部分で、結構張って歌っていますね。ファルセットで歌ったほうが楽なんだけれど、頑張って地声で堪らえようと (笑)。苦しいとかではなくて、必死な感じとかがあったほうがいいのかなと思って。
2曲目「忘れない為に」は静かなバラードで。
これは『ブラック・ブレット』4話の特殊エンディングです。この回で少女がひとりいなくなってしまうので、“それに合わせたバラードが欲しいんです”というお話をいただいて。自分も普段、バラードバラードした感じの曲はあまり作らないんですけれど、挑戦してみようと思って書きました。
この曲は4話のストーリーを表しているのでしょうか?
いえ。曲調はアニメに合わせたんですけれど、歌詞は私の趣味で書きました(笑)。前にリアル脱出ゲームを体験して、それがすごく面白かったんですよ。アンドロイドを作った博士がいたんですけど、その博士が亡くなってしまっていて。部屋にひとり残されたアンドロイドとコミュニケーションをとりながら脱出方法を探る、というストーリーなんです。そこからすごい妄想が膨らんで(笑)。アンドロイドと博士の切ない関係を考えると、人の交流についても考えさせられたというか。昔、ある友だちと一緒に遊んでいたんだけれど、ずっとその子とは一緒には生きられない、みたいな感覚が蘇ってきて。そういったものを歌詞に入れ込みました。
なるほど。そして、3曲目の「クロスロード」は新海誠監督とZ会とのアニメーション作品のテーマソングですね。
私は中学くらいからずっと新海さんのファンだったんですよ。まさかこんな素敵な話がくるとは思っていなかったです。
どういったところに惹かれましたか?
新海さんの作品は全てを通して“距離”というのがテーマとしてあると思うんですけれど、すごく絶妙なんですよね。最初近かったと思ったら、だんだん離れていっちゃったり。逆にすごく遠かったなと思っていたら、実はとても近くにいたとか。そういったところが好きなんです。今回は新海監督がレコーディング現場にもいらっしゃったので、歌い方を相談して。歌詞には“きみ”とか“ぼく”とか一人称が出てくるんですけれど、そこはあまり意識しないで“ちょっと一歩引いた目線で、見守っているお姉さんみたいな感じで歌ってほしい”というリクエストがあったので、それを意識して歌いました。たぶん受け取ってくださる方自身が、“きみ”とか“ぼく”になり得る存在だと思うので。
やなぎさんは今作品でどんなことを伝えたいですか?
いろいろな負の感情に囲まれていても、もしかして周りに蓮太郎くんみたいな、“俺がなんとかしてやるよ”みたいな人がいるんじゃないか、と。人じゃなくても、この曲がそういう存在になってくれれば、いいなと思っています。
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