【BIGMAMA】幸せと不幸せ、希望と絶
望をひと言で表現したかった
L→R 柿沼広也(Gu&Vo)、東出真緒(Violin)、リアド偉武(Dr)、金井政人 (Vo&Gu)、安井英人(Ba)
圧倒的幸福は誰かの圧倒的不幸の上で成り立つ。そんな壮大なテーマを掲げた、BIGMAMAのアルバム『The Vanishing Bride』が完成。運命に抗う14篇の楽曲が織り成す、激しく美しく悲しい物語を収録した今作について金井政人(Vo&Gu)に訊いた。
取材:フジジュン
2年振りとなるアルバムが完成しましたね。
この2年は絶えずバンドのコンディションが良くて、曲もずっと作れていたし、みんなにいい提示ができてきたと思っているのですが、そんな2年間のいい流れをさらに広範囲で押し出せるように、構えず自然体で作れたのが今作ですね。
シングルが現在のBIGMAMAをトピックス的に伝えたものであれば、その合間を埋めて、ひとつの物語を紡いでいったのが今作で。バンドの状態の良さも伝わってきました。
いろんな方にいただいたチャンスも音楽に反映されたと思うし、今、日本でいろんな音楽が鳴っている中、僕らにしかできない提案をしなきゃいけないという意識も高まっていて。僕らにしかできないことで、僕らの価値を高めていくにはどうしたらいいのだろうか? と考えた時、ロックバンドに対してのバイオリンのアプローチに、それを際立たせるためのデジタルなエッセンスだったりを取り入れたりして、“気持ち良い違和感”を生み出せていければと思いました。
今、話をうかがって思い浮かんだのが「ワンダーラスト」で。デジタルを多用したこの曲だけを聴いた時は驚いたけど、アルバムの流れで聴くとそれに至る文脈も見えてきました。
まさにあの位置に「ワンダーラスト」があると、僕らの中でもすごくしっくりくるんです。今まで作ってきたビートの速い曲を、今までにないアプローチで作ろうというのが最初の課題だったんですよ。この曲は“未来”というテーマがあったので、僕らの狙いとしては“一番自分たちらしくない曲を作ろう”と取り組んだんです。というのも、自分たちらしさというのは、過去や現在の自分たちが形成してきたものなので、自分たちらしくないことがやれたら、それが未来になると思ったんです。実際、出来上がりを聴いた時、“BIGMAMAって、こういう曲もできるんだ!?”というのが僕の感想で。この曲に僕らが次に連れて行ってもらった感はすごく大きかったです。
歌詞にある《新しい未来》や《まだ見ぬ世界》を楽曲制作を通して体現したわけですよね。面白いです!
“自分たちらしさ”が自己満足じゃダメだと、強く思いましたね。どこの誰が見ても分かる違いを出さないとダメだと思ったし、なんとなく音楽を聴いてるリスナーも“BIGMAMAだ”と分かる圧倒的な個性を表現したいという意識が芽生えた上で一曲一曲作れたのが今作です。さまざまな挑戦も課して、このアルバムが作れたのは僕らにとってもすごい自信になりました。だから、アルバムができてさらに視界が開けた感じがあって、“こうして音楽と真摯に向き合っていけば、間違いない”という、これからのバンドの在り方も見えた気がしました。
今作を聴いて、自信と確信を持って未来を見据えられている印象を受けました。“永遠”や“運命”という言葉がよく出てきますけど、前作『君想う、故に我在り』が“愛の在り方”を歌っていて、今作では“永遠の愛”を歌っている気がしました。
僕は本来、“永遠”とか“運命”を言葉にするのがすごく嫌なんです。というのも、BIGMAMAを好いてくれてる人が困った時に手を差し伸べられる存在になりたいと思っているんですけど、僕は普通の人間なんです。だから、自分の運命を想定した時に見えるグラフはすごく普通で、その平凡なグラフの中にBIGMAMAを巻き込んじゃいけないと思っていて。“このバンドに相応しい自分でなきゃいけない”と運命に抗い続けていて、今回はその気持ちが露骨に表れているんじゃないかと思います。今回、自分の中に“幸せと不幸せ、希望と絶望。その相反するものをひと言で表現する”というテーマがあったんですけど、その最終的なゴールに向かってどうアプローチしていったかと言うと、“ひたすらに運命に抗う”ということだったんです。
「A KITE」では生き方の方程式を弾き出して、《偶然は無い すべては自分次第》と歌っていますが、運命を引き寄せる確信があるわけでなく、自分を奮起するところもあった?
「A KITE」はただのラブソングだと思っていなくて。その中でも《神様にバレないように 真っ赤な嘘で染め上げよう 偶然は無い すべては自分次第》という一節は、現在の自分を表現していると思うんです。僕の中では“表現=嘘”だと思っているんですけど、じゃあ、その嘘で誰を騙すかというと、運命をコントロールしている神様を騙せばいいんだと思ったんですね。それが自分の中でつながった時、このアルバムの軸になる歌詞はここだというのをどこかで意識できたんです。そうだ、「A KITE」ができた時に“今回は教会をテーマに、ワンシチュエーションで書いていこう”と思い付いて、パズルのラストピースみたいにはまったことを今、思い出しました。
「A KITE」は自分の生き方を肯定して、後押ししてくれている気がして、すごく力になりました。
嬉しいです。僕はBIGMAMAを好きだって言ってくれる人に対して、幸せにはできないけど、不幸にしないことはできると思っているんですよ。不幸にしないために僕が音楽を通してできることは、リスクに気付いてもらうことや、悲しみを理解してもらうことだと思うんです。そのためには、聴く人とより深いコミュニケーションを取ることが必要だし、時には騙し切ることも必要だと思っていますね。僕は「神様も言う通りに」の中で《3秒あれば僕達は未来を変えて行ける》と歌ってるんですが、そんなわけはないんです。そんなわけはないけど、そういう言葉に騙されて信じ切ることが不幸にならない秘訣だと思うんです。今回アルバムに収録された曲とメッセージには、僕の執念にも近い想いと、メンバーが真剣に音楽に向き合っていた想いが込められていて、音楽でできる限りのすごく深いコミュニケーションをとる…一生付き合ってもらえる音とメッセージを詰め込むことができたと思ってます。この曲を掲げてツアーを回って、より深いコミュニケーションをとった後には、さらに楽しいことも考えてます。BIGMAMAに騙されてくれたら、死ぬまで騙し切ることを約束します!
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