【かりゆし58】さまざまな転機から見
えてきた音楽の本質
L→R 宮平直樹(Gu)、前川真悟(Vo&Ba)、新屋行裕(Gu)、中村洋貴(Dr)
来年、デビュー10周年を迎えるかりゆし58。節目に向けたシングル「かりゆしの風」は、カップリングも含めてとても風通しが良く、バンドの人間性をも色濃く伝える充実作となっている。同作について前川真悟(Vo&Ba)と宮平直樹(Gu)に話を訊いた。
取材:田山雄士
曲名に“かりゆし”と入るのは初めてですね。
前川
タイトルを先に決めたんですよ。“かりゆし”って、もともとは航海の無事を祈る言葉なんですけど、10年目で自分たちの未来を暗示するとかよりも、単純に歌ってる間くらいは人生の退屈みたいなのが凌げるものが歌いたくて。
何かきっかけがあったのですか?
前川
この春、いろいろ転機がありまして。3月末の沖縄国際映画祭で、フィナーレをかりゆし58に任せたいと言ってもらったんです。ただ、僕らの曲というよりは、島の素晴らしいミュージシャンたちと組んで、そこでしか生まれないものにしてほしいとのことで、SPEEDの寛ちゃん(島袋寛子)とかが候補に挙がってたし、大役すぎると一度は思ったんですが、島で面白いことができて喜んでもらえるんなら挑戦してみようと。で、喜納昌吉さんの「花〜すべての人の心に花を〜」をみんなでスカアレンジでやったり、「ハイサイおじさん」をファンクにしてみたりしたら、島中の人がワッと歌って踊ってくれて。自分で作った曲でもないけど、その瞬間に歌が1個あって楽しくなれれば、それだけでもう誰のものでもあるし、逆に誰のものでもない。音楽の本質を感じたんですよね。
すごくいい話ですね。
前川
でしょ?(笑) で、3月にはBEGINの25周年ライヴもあって、石垣島へ遊びに行ったんですけど、十数人とかでバーベキューをしてたら、そこにいたBEGINの(比嘉)栄昇さんの息子さんとその友達がバンドをやってるって言うんですね。“ぜひ聴いてほしい!”と。それがすごく良かったんです。上手い下手じゃなく、目の前にいる父ちゃん母ちゃんを楽しませようとしてて、こうやって歌うことや踊らせてもらうことで救われるものがあるのが分かったんです。
素敵な偶然が続けざまに!?
前川
その翌々日には、芸歴50年を迎えた島唄唄いの知名定男さんとお酒を飲む機会がありました。50年もやり続けてるのに、音楽の可能性にまったく限界を見てないんですよ。今の僕とも重ねて話をしてくれる。この姿勢を継承していく人間のひとりである自覚を持とうと思いましたねぇ。
いい精神状態になれて、制作はスムーズでしたか?
前川
はい。隙あらば、なるべく沖縄にいたんですよ。朝早く起きて、パーッと海まで行って、2時間くらいぼけーっと眺めて、部屋に戻ってメシ食って、友達から電話があれば出ていって、夕方にまた海でぼけー、みたいな(笑)。その風景の中で聴きたいと思うメロディー、ここで流れてる言葉はどんなもんなのか…それを本当にのんびりと探すような作業でしたね。
春先の出来事がそうさせてくれたのかもしれないですね。
前川
だと思います。すごくしっくりきたのは、知名さんが“真悟、音楽は生むものでも作るものでもなくて、そこにあったものを蘇生させていく作業なんだよ”って話してくれたことですね。ここ数カ月で“なるほど”と感じるようになってきた。あと、BEGINの(島袋)優さんが“そう言えば、宮沢(和史)さんと少し前に会って、喜納昌吉さんの「花〜すべての人の心に花を〜」、THE BOOMの「島唄」、BEGINの「島人ぬ宝」みたいな、ヒットソングとは別の、沖縄の人がみんなの歌にしてくれてる曲がここ10年くらいないよね。あるべきだよねって話をしたよ。ふたりでさ、それがかりゆしから出たら嬉しいなって”なんて、この曲を聴いてもらう時にポロッと言ってくれたのも不思議でした。
アレンジの仕方とかも変わってきてますか?
宮平
「かりゆしの風」って、ある意味掴みどころがないですよね。悲しい印象を受けたり、自分を鼓舞するエネルギーを感じたり、喜びがあったり、人によっていろんなふうに受け取れると思うんですよ。ギターの音作りにしても、フレーズにしても前に出すぎていない。フワッとしてて、捉え方がいくつもできる音色っていうか。イントロも何気なくAメロを弾いてたら、それが自然に歌を呼び込むことになりました。
コーラスもインパクトありますね。
前川
アレンジャーの関(淳二郎)さんがデモを聴いた時に思い付いたんです、あの《ラララ》のメロディーは。沖縄音階からの流れが歪(いびつ)かもしれないけど、自然と生まれたあるべきかたちじゃないかと。
2曲目の「夜行列車〜復刻版〜」は“復刻”(新録)ということですが、これはどんな経緯で?
前川
10年間のセットリストを見ると、やれてない曲が多いんですよ。「夜行列車」はレコーディングで盛り込みすぎて、ライヴを考えずに作っちゃったんですよね…。でも、僕たちが死んだあとも残っていく曲が一度も演奏されないのは寂しいなって。これまでの一歩一歩をかわいがるライヴがしたいんですよ、今は。その見直そうキャンペーンの第一弾です。映画祭でのビッグバンド編成のスカがめっちゃ楽しかったんで、スカにハマるコレを選んだのもありますね(笑)。
そして、3曲目のMATEN-LOW「Fire Chicken」ですけども。
前川
これは僕、ノータッチですから(笑)。
宮平
もともとはファンクラブライヴでのちょっとした遊びで、コピーをやってたりしたんですよ。
前川
洋楽じゃなくて邦楽のね。布袋(寅泰)さんの「POISON」をやるって言っておいて、反町(隆史)さんの「POISON」が始まるっていうような(笑)。
宮平
そうそう! シングル収録なんて感じじゃなかったんですよ。でも、なぜか“Fire Chicken”のタイトルだけが、会報やYouTubeのインタビューとかの中で名曲としてあって(笑)。ほんで、(新屋)行裕と僕がこのワードから連想する曲を作ってみたら、出てきたコードもテンポもメロディーもすごく似てたんです。分かりやすいイメージは、MR.BIGの「To Be With You」。
謎ですよね。サイトがメラメラ燃えてて、バンドロゴもメタリックなのに、音はアコースティックという。
前川
だはははは!
宮平
伝わる範囲は狭いでしょうね(笑)。
前川
10年間、こんな感じですよ。20代半ばくらいまでは僕がリーダー然として干渉するような時期もあったけど、各自のペースがあるのが一番いい。この3曲で自分たちらしくなってると思います。
アーティスト
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