【NakamuraEmi】自分はそれで大丈夫
なの?
新曲「Don't」はTVアニメ『笑ゥせぇるすまんNEW』の主題歌。人間の愚かさや狡さを鋭く突く同アニメとのコラボは意外なようだが、自分と向き合って自身の弱さなどを真っ直ぐに歌う彼女の歌とは相通ずるものがある。それは闇の部分にこそ光が描かれているというか——。
取材:石田博嗣
今作のトピックは何と言ってもテレビアニメ『笑ゥせぇるすまんNEW』の主題歌ということですね。
コロムビアのアニメを担当する方からスタッフに、ぜひオープニングテーマをNakamuraEmiにお願いしたいと相談がきたんです。あのブラックユーモアなアニメとNakamuraEmiの世界観が合うのかどうかという意見などもあったみたいなのですが、どうしてもお願いしたいという担当の方の熱意もあり、まずは脚本を読ませていただいたんです。そしたら“強烈なイメージが強いアニメだったけど、本当はこんなことを言っていたんだ!?”って思えて、それが自分が普段歌っていることとすごく似ていたので“ぜひやらせてください!”と。だから、担当の方が熱意を持って言ってきてくださらなかったら実現しなかったかもしれないので、本当にその方には感謝しています。
子供の頃に観ていた時と印象も違いました?
子供の頃は喪黒福造の決め台詞の“ドーン!”という声とか、映像のおドロドロしいところだったり、大人の人がおかしくなっていく物語とかの印象が強かったので、“怖い”という印象だったんですよ。でも、改めて観てみると子供の頃に受けた道徳の授業や『日本昔ばなし』とかから教わったものとすごく似ていたので、私が常に歌っている“自分と向き合う”ということと同じだなって感じました。
主題歌を担当することになった時、先方からのオーダーは何かあったのですか?
っていうよりは、先にスタッフのほうから“NakamuraEmiは歌詞をすごく大事にしているし、それがメインなので、なるべく素直なままでやらせてください”って言ってくれていたみたいで、先方も“NakamuraEmiさんを指名させてもらったのは、その音楽が好きだからなので、とにかく自由に、やりたいようにやってください”って言ってくださいました。
では、曲を作る時にEmiさんの中にあったイメージは?
曲のイメージというよりは、まずは私の思っていること…『日本昔ばなし』という観点でいいのかって。そういうところが先方の考えとずれていなければ大丈夫だと思っていたんで、その話をした時に“まさにそれです!”って言ってくださって安心しましたね。なので、“やりすぎてんじゃねぇぞ”とか“大切なものを見失ってんじゃねぇぞ”ということをテーマにして曲を書き始めました。
テンポ感や曲の雰囲気については?
ジャズっぽいというか、大人の雰囲気というのが子供の頃に観ていた時のイメージとしてあったので、そこからかけ離れたものにするつもりはなかったですね。暗くなりすぎず、大人の雰囲気がありつつ、ちょっと懐かしい感じのものにしたいと思ってました。音の部分はプロデューサーのカワムラヒロシさんにお任せしているんですけど、その懐かしい感じとギターのリフを大事にしていて。あと、シンプルなドラムの音だったり、歌詞に沿ったパーカッションのいろんな音…《昔話で教わった》というところでは、時代劇に出てくるようなビブラスラップのカーン!っていう音を入れたりとか。そういう歌詞の絵が思い浮かびやすい音作りというのもちょこちょこと入れてます。
Emiさんが曲を作ってから、サウンドメイクの部分でカワムラさんに相談しながら仕上げていった感じですか?
そうですね。だいたいのイメージで作ったものをお渡して、そこからフックのあるアレンジを考えてもらう…ギターでキーボードみたいな音を出しているんですけど、それをキーボードでやってしまうと今っぽくて逆に新鮮なものになってしまうので、そうじゃないものを探すのに時間がかかってしまいました。懐かしい感じのジャズやファンクやヒップホップのテイストを入れたいんだけど、今風なものになりすぎると『笑ゥせぇるすまん』っぽくないってところで。
それをクールにやってしまうと違うものになりますからね。
そうなんですよ。今、20代の若い世代の方々がすごくカッコ良くやっているから、そこと一緒になっちゃうと埋もれてしまうというか。今回は『笑ゥせぇるすまん』が復活ということなので、懐かしい感じを懐かしいまま表現して、復活に音で沿えられたらいいなって思ってました。
そんな楽曲のタイトルが“Don’t”なのですが、これはすぐに出てきたのですか?
『笑ゥせぇるすまん』と言ったら“ドーン!”というのが頭の中にあったから、“Don’t”という英語を使ったフックとなる言葉はないかなと思っていたんですけど、私には英語の感覚が全然ないので、サビの“Don’t Judge me!”という言葉が出てくるまで…メロディーは先に出てきていたのですが、そこに乗る英語を探すのが本当に大変で。“Don’t”で始まって、サビのメロディーに乗る言葉を辞書とかネットとからいろいろ探しましたね。十個ぐらいピックアップしたんですけど、私みたいに英語が分からなくても“私のことを勝手に判断しないで”ってパッと訳せるっていうことで“Don’t Judge me!”にしました。でも、この言葉に自分が言いたいことをうまく噛み合わせるのがさらに難しくて…前アルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』の「大人の言うことを聞け」で“大人の言うことを聞け! だけど、決して言う通りにしろっていうわけじゃないよ”と言っていたのと似た構成で、“勝手に判断しないでって言ってるけど、よく考えてみて。天狗になってるよ”っていうところに行き着くまでの言葉探しが大変で。レコーディングの当日まで出来上がらなかったので、こんなに歌詞で苦労したのは初めてで…だからこそ、出来上がった時は感動しました。
サラリーマン、主婦、ドリーマー、OL…と身近にいる人のことを歌っているのですが、最初から自分のことを歌うのではなく、周りの人を歌ったものにしようと?
これはですね、できている分の脚本をいただいて、それを全部読んで出てきた登場人物であり、そのストーリーの中で喪黒さんが何を言いたかったのかを自分の中でまとめて、一個ずつノートに書き出していったんですよ。そうすると結局、登場人物って私たちの近くにいる人たちなんだなって。そこで喪黒さんが何を言いたかったのかを考えて出てきたのが、最初の《歩け歩け歩けサラリーマン〜》のところだったんです。
なるほど。2番のサビで出てくる《ダサい大人 ここでおしまい!》というフレーズが印象的で、この曲で言わんとすることがここになるのかなと思ったのですが。
ここがまさにレコーディングの当日にできたところで…これだ!ってなりましたね。2番なのでTVサイズには使われないんですけど、ここはフックとなる部分だと思ったのでTVサイズに絶対に持っていこうって。きっと喪黒さんも人間のえぐい部分を“お前ら、それ以上いくとヤバいよ”って観せて、テレビを観ているこっち側に教えていると思うので、そういうところがこの歌詞とリンクしているから、そう思っていただけたのは嬉しいですね。
そして、《おいおい子どもがお前を見てるぞ》は説得力があるフレーズだなと。
子供の頃は気付かなかったけど、子供って大人の姿を見て、そのまま育っていくんだなって思っていて。この部分は結構早くに出てきたし、絶対に歌詞に入れたいと思ってました。
あと、《昔話で教わった 欲張りは後で懲らしめられる》という釘を刺すようなフレーズもあって。
そこはそのまま聴いてくれた人の中に入っていけばいいなって。欲張ったりとか、他人の悪口を言ったりすると、後々それが自分のところに返ってくるっていう。
でも、そこが2番では《昔話で教わった 世知辛い世の中光る人情》となっているので、全体的にこの歌詞は1番では闇を歌って、2番では光を歌っているのかなと思いました。
そうですね。『笑ゥせぇるすまん』では闇の部分を多く観せてるけど、それは人情の部分が正反対として描かれていると思っていて…それプラス、自分が感じたことを2番に書かせてもらいました。なので、1番は闇を、2番は光を書いていますね。
出だしの《歩け歩け歩けサラリーマン〜》のフレーズが最後に《今日も歩き続けるサラリーマン〜》と背中を押す曲になっているのがEmiさんらしいなとも思いました。『笑ゥせぇるすまん』の主題歌ということなら、最初のフレーズを繰り返すだけでもいいと思うので。
ありがとうございます。自分でもこういう流れにしたいとは思っていたんですけど、アニメに対して曲を作るとかやったことがなかったので、最初は自分らしい曲を書きたい、だけど『笑ゥせぇるすまん』の曲だっていうところですごく悩んでいて…ずっとお世話になっているエンジニアの方とかバンドメンバーに、タイアップというものに飲まれちゃいけない!とか、『笑ゥせぇるすまん』というブランドがなくても“これがNakamuraEmiの曲です”って胸を張って出せるのか?って、最初のリハーサルの時に言われたんですね。そこから歌入れまで1週間あったんですけど、その間、ずっとタイアップというものだったり、“自分の曲”ということについて悩んでいて。他のアーティストの方がタイアップについて語っている記事とかを読んで、タイアップに対してどういうふうに向き合っているのか調べたりして、そういう部分で闘った1週間があってレコーディングに臨んだので、しっかりとNakamuraEmiらしさが出て、それでいてアニメとコラボできているのであれば、ちゃんと目指していたものになってるんだなって思いますね。
そんな曲をリスナーにはどう受け止めてほしいですか?
私が言いたことはひとつで…“自分はそれで大丈夫なの?”って自分と向き合うことの大切さがどっかのフレーズから伝わればと。自分たちが今の日本を作っていて、その姿を子供たちは見ているし、その子供たちが私たちがお婆ちゃんになった時に日本を作っていくので、その子供たちのためにできることは、自分たちが正しい生き方を見せることだってことが伝わってくれると嬉しいですね。
アーティスト
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