【人間椅子連載】ナザレス通信Vol.60「カセット」
今は好きな音楽をスマホなどでダウンロードしたりして簡単に聴けるようになりましたが、自分が学生の頃はラジオのエアチェックが主流でした。ラジカセで音楽番組をたくさん録音して、気に入ったものをレコードで買うのが、はずれの少ない確かな方法でした。音楽雑誌にバンドの写真が印刷されたラベルが付録でついていて、お気に入りのカセットテープにはそれを使うのですが、数に限りがあります。自ずとどの家にも何が録られているのか分らないカセットがごろごろ転がっており、他の家で見つけるとどんな曲が入っているのか気になっていました。特に覚えているのは、小学生の頃、親戚の家に遊びにいって勝手に聴いたカセットです。小柳ルミ子の何かと、柳ジョージ&レイニーウッドの「雨にぬれてる」と、THE STYLISTICSの「愛こそすべて」と、もう一曲、何だか悩ましい歌声の妖しい曲が、脈絡なく混在していました。
その妖しい一曲が誰の何という曲か知らないままに10年位たったある日、MEGADETHの1stアルバム「Killing Is My Business...And Business Is Good!」のレコードを聴いたら、そこにそれはあったのです。タイトルは「These Boots」でした。原曲について調べてみたら、Frank Sinatraの娘、Nancy Sinatraの「These Boots Are Made For Walking(邦題 にくい貴方)」でした。ウッドベースの音が何とも言えない味わいです。1966年の曲で、そういえば映画のベトナム戦争のシーンで使われていたような気がします。ずっと覆っていた霧が晴れたようにすっきりしたし、これをカバーしたDave Mustaineのセンスにも敬服しました。そして、昔聴いたカセットはいとこのものではなく、伯父さんのものだったんだなぁと改めて思いました。