「AUGUSTA CAMP 2017」所属ミュージシャンだけで作り上げたステージで、オフィスオーガスタの結束と未来を見せつけた!
今年オフィスオーガスタは設立25周年を迎える。杏子のマネジメント事務所として誕生したのが1992年。そこから山崎まさよし、元ちとせ、スキマスイッチ、秦 基博、竹原ピストル……など、四半世紀もの間、日本のポップスの王道を行くアーティストを輩出してきた。
そんなオーガスタに所属するミュージシャンが総出演する恒例のイベント、オーガスタキャンプ。事務所のアニバーサリーイヤーとなる今年は「これまで応援してきてくれたファンの方々へ感謝の想いを表現する」というテーマを掲げ、2つの大きな柱を用意した。
ひとつめは「あなたと作るオーガスタキャンプ」と題されたリクエスト企画である。事前にオフィシャルサイトを通して、オーディエンスから「あの曲が聴きたい」といったリクエストを募集。それを集計して特に要望の多かったものをセットリストに反映させようというものである。この企画、一見すると単なるベストヒット・ライブになりそうな気もするが、そこは多士済々を誇るオーガスタ、寄せられた2000通を超えるリクエストも「あのアーティストとこのアーティストのコラボで、その曲をこんなふうに演ってほしい!」といったディープなものが多く、まさしくこの日しか見ることのできない1日限りの夢のセッションが多数実現することになった。
そしてもうひとつは、今回のライブの演奏はオーガスタのメンバーだけでやるということである。ドラムも、ベースも、ギターも、キーボードも、コーラスも全部自分たちでやるというのだ。改めて考えてみるとわかるが、現在オーガスタに所属しているアーティストはスキマスイッチを除いてソロミュージシャンばかり。そんな彼らが各自さまざまなパートを掛け持ちしながら(時に慣れない楽器を手に取って)、1日限りのバンドを組む。自分がメインで歌った後、誰かのバックでギターを弾き、その次はコーラスでサポートに回る……彼らは事務所の節目の年に、外からの助けを借りず、自分たちの力だけで感謝の音楽を奏でることを選んだのだ。
前日激しく降った雨があがった9月23日、秋分の日に「AUGUSTA CAMP 2017」は行われた。会場は昨年に引き続き、富士急ハイランドコニファーフォレスト。ステージ周辺には毎年好評の「オーガスタ食堂」をはじめ、秦をキャラクターに据えた「Hata Café」、福耳をモチーフにした「喫茶福耳」などの飲食ブースが出店し、多くの人で賑わっている。新人ミュージシャンたちのショウケース「BBQステージ」も2年ぶりに復活し、開演前からフレッシュなサウンドを聞かせてくれる。
ライブがはじまったのは14時を少し回ったところだった。オープニングは今年5年ぶりに新作を発表した福耳。両A面のシングルからまずは秦 基博の「Swing Swing Sing」でキャンプの幕開けを宣言する。ちなみにこの曲のサウンドプロデュースは山崎まさよし。今回のライブのバンドマスターも彼が務めており、節目の年にかける“オーガスタの長男”の意気込みが感じられる。そこから「突然ですがウチの新人を紹介したいと思います!」という山崎の声で、オーガスタキャンプ初出演となる村上紗由里が登場。「DANCE BABY DANCE」へと雪崩れ込む。彼女を加えた14人が本日の公演のすべてを動かすキャストとなる。
ライブ本編は2部構成になっていた。第1部は小編成のアコースティックパート。トップバッターは先ほどファミリーの新メンバーとして紹介された村上紗由里。たったひとりの弾き語りでなつかしさを感じさせるメロディーを堂々と歌い上げる。その後、秦の人気曲「キミ、メグル、ボク」、長澤知之のデビュー曲「僕らの輝き」と続くのだが、その2曲に参加したのは浜端ヨウヘイと松室政哉。冒頭の村上も含め、事務所の未来を背負っていくホープたちにスポットを当て、前面に押し出そうとしていることも今年のオーガスタキャンプの特徴と言えそうだ。
ライブは1曲ずつすべて演者を変え、編成を変えて進んでいく。どれひとつとして同じものがないので、観ている方も目が離せない。おまけに1曲の中でも歌い手がスイッチしたりソロ演奏が飛び出したり、いくつもの聴きどころが用意されている。「藍」ではスキマスイッチ・大橋卓弥と杏子と松室、「ジャスミン」ではさかいゆうと秦が見事なハーモニーを響かせた。どちらもリクエスト上位にランクインした曲で観客は息を呑んで聴き入っている。「セロリ」は山崎、大橋、秦、竹原ピストル、松室といった男衆5人が整列。ブレイクの早口パートは大橋の「全員でいってみようか!」の一言をきっかけに5人が一斉に歌い出し、大きな喝采を浴びていた。
「One more time, One more chance」では山崎と浜端&松室という世代を超えたマイクリレーが実現。曲に奥行きとコントラストを生んでいた。スキマスイッチと竹原は「全力少年」と「よー、そこの若いの」をマッシュアップさせた「よー、そこの全力少年」(!!)というまさかの合体曲を披露。互いへのリスペクトがあふれたサプライズで観客の心をわしづかみにする。多くの名曲が個性派ぞろいのメンバーによってリメイクされていく様は実にスリリングで、オフィスオーガスタの底力を垣間見せることでまず第1部は終了した。
第2部までの幕間にはスペシャルアクトとして大野雄二&Lupintic Six with Fujikochans ~LUPIN THE THIRD SPECIAL~が登場。あの『ルパン三世』の世界を作り上げた大野が昨年結成した7人編成バンドに加え、3人組の女性コーラスグループのFujikochansと共にファンキーなインストジャズを響かせる。宮崎駿監督の名作『ルパン三世 カリオストロの城』の主題歌であるメロウグルーヴ「炎のたからもの」には杏子がヴォーカルとして特別参加。“オーガスタの不二子ちゃん”として(!?)、大人の恋心をしっとりと歌い切った。
第2部はあらきゆうこ(Dr)、COIL・岡本定義(B)を軸にしたバンドセットで進行していく。元ちとせの「ハミングバード」で幕を開け、「後半戦も盛り上がってください!」と声をかける。「鱗(うろこ)」では秦とさかいが再び声を重ね、「ひまわりの約束」では「みんな来て!」という秦の呼びかけでオールキャストが勢ぞろい。誰もが愛するサビの大合唱で客席とひとつになっていた。
バービーボーイズの「目を閉じておいでよ」は最初、杏子に言い寄る男役シンガーとして竹原があらわれるが、2番を歌おうとしたときに突如大橋が参入。さらに最後のサビでは山崎(なぜかハロウィンのかぶりものをかぶって)まで出てきて、まさに「男たち、はちあわせ」な修羅場ソングに変身していた。歌の世界観を逆手にとったこの演出など、どう考えてもオーガスタでしかできないものだろう。
今回のオーガスタキャンプはメンバーだけで演奏を行うため、時には意外な人の意外なプレイが聴けたことも収穫だった。岡本が歌った「LOST」でベースを弾いたのは秦、ドラムを叩いたのは大橋。あらきがヴォーカルをとった「Train run」ではなんと杏子がドラム席に座り、引き続き秦がベースラインを刻んでいた。他にもさかいがベースを弾いたり、常田真太郎がアコギを鳴らしたりする場面があり、このイベントが各ミュージシャンにとって挑戦の場になっていることが感じられた。
この第2部のひとつのクライマックスは秦と竹原による“はったんぴーちゃん”のコーナーだろう。昨年のオーガスタキャンプで衝撃のデビューを飾った2人のパフォーマンスは、今年のリクエスト企画でも圧倒的な票を集めるほどの大人気。1年ぶりの“はったんぴーちゃん”はさらにパワーアップしていて、そろいの衣装に身を包んだ上、「はったんぴーちゃんはじまりのテーマ」「はっぴー音頭」などの新曲も加え、お待ちかねの「ちゅ・ちゅ・ちゅI want you❤」では場内に爆笑とハッピームードが溢れていた。このオーガスタ発“歌のお兄さんユニット”の今後の展開からは本当に目が離せそうもない。
「オーガスタ25周年の年にデビューする松室政哉!」
本編ラスト前に抜擢されたのは、11月1日にオーガスタレコードからメジャーデビューが決まった松室だった。今日一番の登場数を誇った事務所の末っ子の旅立ちを、メンバー全員がステージに上がって祝福する。松室は記念すべきデビュー曲「毎秒、君に恋してる」を熱唱。彼にとっては忘れられない時間になったことだろう。
その流れで演奏された最後の曲は「ブライト」。今年のキャンプは福耳の最新作である両A面シングルのうち、秦が作った「Swing~」ではじまり、長澤作のロックナンバーで幕を閉じるという構成だった。
アンコールもやはり今日の出演者全員が参加できる福耳の曲が演奏された。スキマスイッチの2人が作った「惑星タイマー」と、恒例のエンディングテーマ「星のかけらを探しに行こうAgain」。最後、昨年社長を退任した森川最高顧問に全員から「ジャイアン、ありがとう!」という言葉が贈られたが(注:ジャイアンは最高顧問の愛称)、そういったシーンも含め今年のライブは確かに“感謝のオーガスタキャンプ”と形容するのがふさわしい内容だった。
オフィスオーガスタはこの後、事務所の設立記念日である11月2日に渋谷クラブクアトロで「オフィスオーガスタ設立25周年祭 It was 25 years ago today」を開催する。これは杏子のデビュー25周年、元ちとせの15周年、そして11月1日の松室のメジャーデビューを全部まとめて祝おうというものである。
これまで支えてくれたファンのリクエストに、事務所のメンバーだけで応えた今年のオーガスタキャンプ――かつてない純度の高い1日をすごしたことで、オーガスタとファン、そしてアーティスト同士の絆というのはさらに強まったことだろう。そこで得られた一体感をエネルギーにして、オーガスタはこれから新しいグッドミュージックが鳴り響く次なる四半世紀へと踏み出していく。