熊谷幸子

ロック、ポップス、ジャズ……。多彩な音楽ジャンルを独自の感性と方法論で貫き通し、まったく新しいかたちのポップスを創作する。しかし、それがさまざまな音楽的要素の折衷ミュージックだとはいえ、この不世出の実力派シンガー・ソングライターは、まったくもってピュアで純粋なオリジナルの音を響かせる。だが、安易なスピリチュアル性や“啓蒙”という言葉にかこつけるアジテーションがそれらの音／言葉のなかに潜んでいることはなく、熊谷幸子はあくまでも日常的な等身大の言葉で、人々の心に沁み渡り共鳴する音楽を広げているのである。そういった魅力に惹きつけられるシンパは数多く、彼女は本人の知らぬ間に、今までに生産した作品の輝きを“功績”という言葉に置換しているのだ。人々に夢を与え、また幸せを供給することは、絶対的な功績であり、なにものかに選ばれた人間にしかなし遂げられない“偉業”に違いない。