ザ・ポップ・グループ、『Y』はロッ
ク史上最も“攻撃的”と評された問題
作!
「英ポスト・パンク~ニュー・ウェイヴ・シーンを代表するバンドであり、70年代末から80年代初頭にかけての短い活動期間中、ロック史に残る名盤を作り上げた伝説的なバンド、ザ・ポップ・グループが本格的に活動再開する~」。つい先日、そんなニュースが巷の、マニアなロック好きの間で話題になった。活動再開のきっかけとなった旧作のリマスター盤と未発表音源+コンピレーション盤のリリースうんぬんについては後述するとして、この機会に今回は実質的な彼らのデビュー作にして、世界に衝撃を与えた名盤『Y』(邦題『最後の警告』)を紹介します。
セックス・ピストルズは大いに売れた。クラッシュも大ヒットを連発していた。他のバンドも雑誌に取り上げられるにつれ、まずまず成功していた。その矢先にセックス・ピストルズは初のアメリカツアーで空中分解し、ジョニー・ロットンは脱退。残されたメンバーは迷走しつつ、シド・ヴィシャスの死によって完全に消滅する。それから時をおかず、先のジョニー・ロットンが名前もジョン・ライドンと改め、新たにPILこと、パブリック・イメージ・リミテッドを結成する。その頃からだろうか、一連のパンクロックとは一線を画すような、インディーズロックが続々と出現し始めたのは。後に大メジャーバンドになるザ・ポリスなどはその筆頭で、体裁こそパンクだったが、演奏スタイルも音楽性、実力もパンクスの比ではないバンドが現れ、メディアではこうしたバンドを次第に“ニューウェイブ”と呼ぶようになったものだった。オリジナルパンクの筆頭格であるザ・クラッシュなども、次第に音楽性を高めて世界市場にアピールできる充実作を発表するにつれ、その扱いは“ニューウェイブ”に格上げ(笑)されていたように思う。しかし、全体的に見れば、パンクもニューウェイブも大差ないもので、状況としては飽和状態に陥っていた
ポストパンク時代の幕開け
名前を挙げればキリがない。いささか粗製乱造ぎみなくらい、輸入盤屋に行けば見たことも聞いたこともないバンドのアルバムがあり、音楽雑誌をひらけば毎月のようにそれら新進バンドのアルバムが紹介されている、といった案配だった。
旧来のロックや社会、既成概念に敵意を剥き出しにした音楽
冒頭のマニアなロック好きの間で交わされたのは、これが35年ほども前に作られたロック史上かつてない過激で実験的な作品なのであるが、その後、オルタナティブ / グランジ・ロックでさえ遠く彼方に飛び去った2014年という現代の耳に、どう響くのかということだった。現行の2007年にリマスタリングされ再発売されたCDは、先にデビュー時にレーダー・レーベルからシングルでリリースされた「She is beyond good and evil」が冒頭に据えられ、エンディングにボーナストラック「3:38」を追加した、アナログ時代とはやや趣きを異なものにしているが、トータルで48分、1979年当時に感じたのと同じように、家族と同居の時にはオープンエアでは鳴らせない、壁の薄いアパートだと近所迷惑を招きかねない、耳をつんざくような、凶暴な音が詰まっている。
ブリストルという街が生んだミクスチャーな音楽性
そう言えば、英国の音楽権利団体「PRS(Performing Rights Society)」が英国で「最も音楽的な街」というランキングを発表したのだが(その街が輩出したミュージシャンが人口比でどのくらいか、という統計らしい)、その結果、マンチェスターやリバプール、ロンドンを押さえ、ブリストルがトップなのだそうだ。今回の主役であるザ・ポップ・グループ以外にも、90年代にはマッシヴ・アタックやポーティスヘッドといった人気バンドも輩出しているのだが、60年代、70年代にさかのぼってみると、サックス奏者のイワン・パーカーやピアノのキース・ティペット、そしてロバート・ワイアットなんていう、フリー・ジャズ、あるいはジャズロック系の人がいたりする。
私は同じ頃、彼らよりも一段と実験的で、ダブ、フリーミュージック、ノイズミュージックに接近していたディス・ヒート(This Heat)と並んで、結構好きだった。「これも有りだ」と思わせてくれたことが嬉しかったのだ。そして、最初に聴いた時から予感がしていたが、このバンドの寿命は長くは続くまいと思っていた。1980年に出た2ndアルバム『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』は、『Y』より過激さを増し、刹那的にひたすらアジっているようなヴォーカル、強烈なファンクビートは凄まじいほどで、こちらも評価は高かったが、バンド内ではそろそろ分裂が始まっていたようだ。ライヴテイクなどを収めた未発表曲集『We Are Time』(これもマニアの間では名盤と言われている)を最後にバンドはあっけなくキャリアを終えてしまう。
それから、肝心のバンドの活動再開のニュースだが、どういう経緯か知らないけれど、彼らは2011年に再結成を果たしており、その際に『SUMMER SONIC』(日本)に出演したことが話題を呼び、その勢いを買って本国で行なったライヴが評判となり、徐々に活動を活発にしていたという。私の周りにこの2011年の『SUMMER SONIC』(日本)出演時のことを知る人はいなかった。それならばと、あれこれ人をあたってみたのだが、目撃情報を得ることはできなかった。確かに来日し、『SUMMER SONIC』の舞台を踏んだことは間違いないらしい。肝心の演奏はどうだったのだろうか? どうしてまた主催者は、この時代に、サマーフェスの雰囲気にまるでそぐわないザ・ポップ・グループにオファーを出したのか。
今回の旧盤の復刻、未発表音源のリリースに合わせ、まずは英国内のツアーが発表されているそうだが、まぁ腐っても鯛じゃなかった、ザ・ポップ・グループ。『Y』や『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』、そして『We Are Time』を愛聴してきた者にとっては、35年経って角が取れ、丸くなったサウンドなんて聴きたくもないだろう。
活動再開だって? どんな姿で、何を聴かせてくれるつもり?
著者:片山明
アーティスト
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