【ヒトリエ ライヴレポート】
『Summer flight tour 2022』
2022年9月22日
at Zepp Haneda(TOKYO)
2022年9月22日 at Zepp Haneda(TOKYO)
ライヴはアルバムのトップを飾るメランコリックでダンサブルなポップナンバー「Flashback, Francesca」でスタート。そこから“ファイナルが始まりました。ヒトリエです。どうぞよろしく!”とシノダ(Vo&Gu)が声をあげ、いきなりギアをトップに入れるようにエグみが癖になるダンスポップナンバー「ゲノゲノゲ」をつなげると、イガラシ(Ba)、ゆーまお(Dr)、シノダがフレーズの応酬を繰り広げ、演奏の熱をぐっと上げる。『PHARAMCY』の1曲目、2曲目と披露して、次は3曲目の「風、花」にいくと思いきや、イガラシが爆音で鳴らすリフにゆーまおが挑むようにドラムを連打し、そこにグリッサンドを効果的に使ったフリーキーなリフをシノダが畳みかけ、3人が演奏したのはハイテンションのロックナンバー「ハイゲイン」だ。わずか3曲の流れに詰め込んだドラマチックな展開に大きな拍手を送る観客に対して、“もっともっと”と身振りで、さらに大きな拍手を求めながらシノダは“夏はもう終わったと思ったのか?”と不敵な笑みを浮かべる。
“今日の東京の気温が何度か知りませんけど、予告しましょう。会場の気温は3万8000度に達するでしょう。ツアーファイナル、余すことなく楽しんでください!”(シノダ)
この日、ヒトリエが演奏したのは『PHARMACY』の10曲を軸に新旧の代表曲の数々を散りばめた全20曲。ダンサブルなリズムも交えながら、爆音のロックナンバーからエモいバラードまで、多彩な曲をレパートリーに持つ彼らだから、曲順も含めセットリストを考えるのは難しいのか、難しくないのか。そこはメンバーに尋ねてみたいところではあるが、この日のライヴを振り返って改めて思うのは、人を喰ったMCとは裏腹に律儀なバンドだということだ。それはプロットをしっかりと決めたセットリストにも表れていたと思う。
ポップな音像に切なさが滲む「風、花」からシノダがギターを持たずにハンドマイクで歌った「SLEEPWALK」、シンセオリエンテッドな「電影回帰」、ポストパンク調のファンクナンバー「イヴステッパー」で観客を踊らせると、続くブロックではタイトなアンサンブルをアンビエントに鳴らした「極夜灯」、ノスタルジックなメロディーがエモい「Neon Beauty」の2曲をじっくりと聴かせていった。
“夏という季節をむさぼり尽くして、東京に帰ってきたら涼しいという(笑)。そりゃ夏も終わるよ。9月22日だもの。でも、そんなのは私が認めませんよ。だって、“Summer flight tour 2022”と謳っちゃってるから。ここにいるみんなは夏の渦中にいるという自覚を持ってほしい。ここから先はぶち上がるセトリをぶちかましていくんで。よし、いくぞ! Zepp Haneda!”。シノダの宣言どおり後半戦は「カラノワレモノ」からぶち上がるロックナンバーのオンパレードで、スタンディングの1階席はもちろん、2階席もぶち上げていく。イガラシとシノダがスラップやギターリフのみならず、ソロもスリリングに応酬しあった「踊るマネキン、唄う阿呆」では、ゆーまおが繰り出す4つ打ちのリズムに観客が一心不乱に踊った。そして、“まだ足りねぇよな?”とシノダが言い放ち、畳みかける演奏にトリッキーな展開を詰め込んだ「3分29秒」から、“Zepp Hanedaにwowakaより愛を込めて”と披露したアンセミックな「アンノウン・マザーグース」につなげると、クライマックスに相応しい大きな一体感が生まれたのだった。
“15本、滞りなく回れました。久し振りに充実した夏を送れた気がします。昔から夏が好きで。それは今みたいな瞬間がどこかにあったからだと思うんだけど、今年の夏が一番好きだな”。ツアーの手応えをそんなふうに語ったシノダは、“次の夏は今回よりも凄まじいライヴを、みなさんに観せたいと思っています”と続けたが、つまり凄まじいライヴを観せる自信があるということだろう。
“みなさん、僕たちヒトリエに最高の夏をありがとうございました。そんなあなただけにヒトリエから愛を込めて!”(シノダ)
本編を締め括ったのは「ステレオジュブナイル」。前回のツアーで感じたファンへの感謝を、《こんなん聴いてくれんのお前だけ》という彼ららしい言葉で歌ったアンセムで終わるところがやはり律儀な彼ららしい。
そして、ヒトリエ初のアルバム『ルームシック・ガールズエスケープ』のリリース10周年を記念して、12月2日に“10年後のルームシック・ガールズエスケープ”と題したワンマンライヴを東京・渋谷クラブクアトロで開催することを発表すると、“これでツアーも終わりか。でも、まだまだやりますよ、このバンド”とシノダが宣言。すると、客席から大きな拍手が沸いた。誰もが聞きたかった言葉には違いないが、彼らだからそういうことは決してその場の雰囲気で言ったりはしないはず。3人体制になってから、2作目となる『PHARMACY』という自信作をリリースしたことに加え、そのリリースツアーを1本も飛ばすことなく完遂したことで、改めて言葉にできる確信が生まれたということなのだと思う。
バンドはアンコールに応え、「curved edge」「インパーフェクション」「ポラリス」の3曲を演奏したが、最後の最後に《また一歩足を踏み出して あなたはとても強いから/誰も居ない道を行ける 誰も居ない道を行ける》と歌う「ポラリス」を選んだのだから心憎い。その言葉がさらなる前進を、ファンの前で誓っているように筆者には聞こえたのだった。
撮影:西槇太一/取材:山口智男
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