【GLIM SPANKY インタビュー】
ちょっと非現実的な風景だけど、
現実へのメッセージを込めて歌う
L→R 松尾レミ(Vo&Gu)、亀本寛貴(Gu)
選び抜かれた言葉たちと、選び抜いた音の数々。多彩さと豊潤さを増したヴォーカルに、差し色的なフレーズにも独創性が表れるギタープレイ。そして、さらに自由度を増したサウンドメイキング。『Into The Time Hole』は嬉しい驚きに導かれながら、新しいGLIM SPANKYに次々と出会える短編映画集のようなアルバムだ。
広義で普遍性があって、
時代に埋もれないポップスを作りたい
新機軸、新境地がうかがえる新作ですが、主軸となるテーマはあったのでしょうか?
松尾
もともとはなくて。ただ、“ちょっと非現実的な風景だけど、現実へのメッセージを込めて歌う”みたいなテーマの曲がどんどんできてきて、“あっ、短編映画集みたいだな”と思ったので、いろいろな箱があって、それを覗いていくようなイメージが徐々にできてきたという感じです。
「風は呼んでいる / 未完成なドラマ」(2021年6月発表の配信シングル)が一年前に発表された時点では、まだビジョンは見えていなかった?
松尾
まったく。「ドレスを切り裂いて」がワンコーラスだけあったけど、それを放置していたという感じだったので。「ドレスを切り裂いて」は歌詞がなかなかうまく書けなくて、これと「シグナルはいらない」の2曲は歌詞を書き替えまくりましたね。今の自分が言いたいメッセージと自分の納得いく言葉が合わさらなくて、もうすごく難産でした。
前作『Walking On Fire』(2020年10月発表のアルバム)は孤独から抜け出すことをいろいろな視点から描かれていましたよね。「ドレスを切り裂いて」と「シグナルはいらない」に特に表れていると思うのですが、今作はすごく心が自立している人が描いた、心の自立が伝わるような歌が多いと感じました。
松尾
あっ、ありがとうございます! この時代、何も考えずに生きていたら惑わされるしかないので、“自分は何をしたいのか?”“自分はどうしたいのか?”“自分は何者なのか?”とかがないと生きていけないと思って。この時代に年齢に関係なく一番言うべきことは“自分で考える”だと思うから、それをかなり入れました。
ドレスを“脱ぎ捨てる”のではなく、“切り裂く”というところがレミさんらしいなと。
松尾
そうですね(笑)。“脱ぐ”だと甘いというか…脱いだらまた着られるし。切り裂いて、破かなきゃいけないっていうのは、かなりの覚悟がいることなので。それも自分の心の中のナイフを使って切り裂くっていう。それって自分が生きていく中で、いろんなことに重ねて例えられると思うんです。着飾るというか、美しく見せることが当たり前の世の中だし、自分でフィルターをかけている。ドレスは自分が自分にかけたフィルターなんですよ。それって、人からかけられて“嫌だ!”って脱ぐよりも解きづらい。だから、そういうものから解き放つのはとても難しいことだけど、きれいに見せるのもひとつの楽しみで面白いことだけど、それが普通になってしまったら怖いと思って。だからこそ自分から切り裂いていく…“あんた、心の中にナイフを持ってるだろ?”と問いかける気持ちで書きました。
この曲はサウンドも先鋭的ですね。
亀本
自分の中にロックフィーリングやブルースフィーリングは強く根づいているので、そういうサウンドが好きという前提はありつつ、あえてそこは意識せずにニュートラルに、自分がカッコ良い音楽を作るのに必要なことを自分の感性でやりました。この曲で鳴っているドン!とかチャカッとかの一発の音ってネットから見つけてきたサンプル音源なんです。だから、自分がカッコ良いと思う音楽に必要なパーツを掻き集めて組み立て、世界を形作っていった感じです。で、ギターだけはちゃんと魂を込めて弾く! ポップスって言葉には広義の意味もあるし、語弊もあるんですけど、ちゃんと自分が思うポップスを作るというか。広義で普遍性があって、時代にも埋もれないという意味としてのポップスを作りたい気持ちでやっています。
前作で“ GLIM SPANKYとしての総合的なポップスにトライした第一弾”とおっしゃっていましたが、その進化形?
亀本
そうですね。その延長線でさらに、よりポップスを突き詰めているという感じです。で、ポップスってシンプルな意味を突き詰めると“ポピュラーな音楽”だと思っていて。音楽のジャンルというよりは、売れているものがポップスだと。ということは、特定の人たちじゃなくいろんな人たちに届くものを作る必要があるし、時代の変化や流れにもちゃんと適応する必要性があるということは常に考えていて。今回もそういう気持ちで挑んでいます。
松尾
だからこそ自分の中のロック魂だったり、伝えるべきロック的なメッセージだったりを、より強く思うことが増えましたね。それでそういう歌詞もできてきた感じです。
「ドレスを切り裂いて」は空間の作り方、リズムやビートも独特で面白いと感じました。
亀本
わりとモダンな音楽からの引用が多いかもしれないですね。リズム作りはロックよりも普遍性のあるポップスだったり、ヒップホップやR&Bのほうがいろんなことをやっているので。
デビュー当時だったら“ヒップホップ”という言葉なんて出てこなかった気が…。
亀本
エミネムしか知らなかったし(笑)。
松尾
確かに(笑)。私的には「ドレスを切り裂いて」の歌の感じはエイミー・ワインハウスのブルージーな歌を意識していて。あと、何本も重ねるコーラスワークにも挑戦しています。
「シグナルはいらない」はすごいキラーワードの連発で! 特に《味方ばっかりじゃなくてもいいのさ》、これを言える強さがすごい。
亀本
今の世の中をサバイブするために必要な、そういう世界の中で強くいられるための価値観みたいなものは結構ストレートに言っているかも。
松尾
ストレートに言っているね。この曲は今までの GLIM SPANKYよりハードにヘヴィに作ったんですよ。そういうインパクトで若い人にも聴いてもらえたら嬉しいと思って、歌詞もストレートにして。そこはすごく意識しましたね。ただ、かなりヘヴィなので最初は個人的には抵抗があったんですけど、“やっぱりそれぐらいするべきだな”と話しているうちに思って。
亀本
「怒りをくれよ」(2016年7月発表のアルバム『Next One』収録曲)とか「愚か者たち」(2018年1月発表のシングル)とかあるじゃないですか。当然この曲は、そのサウンド感をアップグレードしたものにしたいという気持ちで作っていたんですけど、知らない人からしたらヘヴィロックやモダンなロックの要素がより強くなったなんて分からない。ポップスの世界でロックがマジョリティーではない音楽になっていることを考えた時に、ロックをもっと離れた視点で見ないといけないと思ったんですよ。ちゃんと遠くからロックを見て、ポップスとしてのロックの良さは何かと考えたら、楽曲の爽快感やエネルギーだったり、フレーズのキャッチーさとか、ロックの中にあったポップってそこじゃなかった!?…みたいな。だから、その本来の基本に立ち返った結果、「シグナルはいらない」ができたところはありますね。
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