ミュージシャン主催型フェスの先駆け
NANO-MUGEN FES.2014徹底レポート
アジカンのデビュー前から企画され、現在と同じく横浜アリーナで開催されるようになってからも7回目を迎えるNANO-MUGEN FES.。ここ数年で増えてきているいわゆる「ミュージシャン主催型のフェス」の中でも先駆け的な存在だ。そして、以前にも当サイトで書いた通り(参照:くるり岸田、アジカン後藤、KREVA…「ナナロク世代」がフェスを主催する理由)、アジカンの後藤正文は、フェスを主催することでキュレーターとしての役割も果たす、いわば「メディア人」としての才能を持ったミュージシャンの代表格。NANO-MUGEN FES.は、バンドの音楽活動にとっても大きな意味を持つものになってきている。
では、今年のNANO-MUGEN FES.は、バンドにとって、そして今の日本のロックシーンにとって、どんな象徴となっているのか? フェスの光景から見えてきたことを分析していこう。
ポイントは二つある。一つ目は「アジカン・チルドレン」と言うべき下の世代のバンドやアーティストが頭角を現し、世代を継承しつつあること。代表格は一日目のトップバッターに登場したKANA-BOONだ。いまや現ロックシーンで最も勢いのある若手バンドと言える彼らは、アジカンに憧れてバンドを結成し、「キューン20イヤーズオーディション」の優勝を経て2012年にアジカンのオープニングアクトを務めたことから頭角を現した経歴の持ち主。初の同フェス出演となった今回も「ないものねだり」や「フルドライブ」など代表曲を連発してフロアを沸かせていた。そして、KANA-BOONを目当てに集まったような若い世代のファンにとって、このNANO-MUGEN FES.は海外アーティストのライヴに触れる貴重な機会になったはずだ。
また、後藤正文が運営するレーベル「only in dreams」に所属し、最新アルバム『回転体』では後藤がプロデューサーをつとめているthe chef cooks meも、世代は近いが「アジカン・チルドレン」と言えるバンド。彼らも「ハローアンセム」など祝祭感あふれるポップナンバーを連発し、熱くエモーショナルなパフォーマンスで沢山のオーディエンスの心を掴んでいた。
他にも、今年から新設されたKen’s CAFE「Sunday in Brooklyn」のステージには、アジカンのベーシスト山田貴洋が楽曲プロデュースを手掛けた気鋭の女性シンガーソングライター片平里菜が登場。レーベル「only in dreams」所属の岩崎愛、後藤正文のソロツアーにサポートとして参加していたYeYeなど、出演陣に世代を超えた「ファミリー感」のようなものが生まれているのは大きな特色と言っていいだろう。
そしてもう一つのポイントは、洋楽アクトの盛況だ。特筆すべきは、THE RENTALS、そしてUK出身のエレクトロニック・デュオTHE YOUNG PUNXのステージ。どちらもくるりやユニコーンなど邦楽の人気バンドの出演時と同じくアリーナをきっちりと埋め、オーディエンスの熱狂を生み出していた。
これまで、NANO-MUGEN FES.に限らず邦楽主体のロックフェスに海外アーティストが出演した際には、ファン層の違いから苦戦を強いられるような状況が数多くあった。NANO-MUGEN FES.でも、2005年にASHが登場した際にはアウェーの雰囲気が色濃くあった。しかし今年のTHE RENTALSやTHE YOUNG PUNXは、むしろホーム感ある盛り上がり。どちらも2006年から同フェスにたびたび出演してきたアーティストであり、継続してフェスを行ってきたからこその成果と言えるだろう。
そして二日間のヘッドライナーとして出演したのはホスト役でもあるASIAN KUNG-FU GENERATION。二日目のステージのMCにて、後藤正文は「いろんな価値観がわかれちゃって、モーゼみたいになってた」と、フェスを立ち上げた頃の状況を振り返っていた。そして「溝を埋めようと思って続けた」「毎年、空気がよくなってきてる」と、開催し続けてきた中で得た手応えを語っていた。
アンコールでは、アジカンの4人に加えてTHE RENTALSのマット・シャープにサポートを務めていたASHのティム・ウィーラーが登場し、ウィーザーの名曲「Say It Ain't So」をカバー。さらに、ラストは東京スカパラダイスオーケストラの面々をゲストに迎え入れ「迷子犬と雨のビート」を披露。スペシャルな共演で二日間を締めくくった。
こうして、今年のNANO-MUGENが見せたのは、アジカンを中心に広がる世代も国境も超えた音楽好き達による「繋がり」の結実だった。そのことが、他に例のない幸福なフェス空間を生んでいたのだ。(柴 那典)
アーティスト
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