【moonriders インタビュー】
起きてしまったあとでは、
もう前には戻れない

写真左上段より時計回りに、鈴木慶一(Vo&Gu)、鈴木博文(Ba&Gu&Cho)、岡田 徹(Key&Cho)、夏秋文尚(Dr&Cho)、武川雅寛(Violin&Trumpet&Cho)、白井良明(Gu&Sitar&ギタギドラ&Cho)

1976年に“鈴木慶一とムーンライダーズ”名義で活動を開始して以来、日本の音楽界を牽引してきたmoonridersが、実に11年振りとなるニューアルバム『It’s the moooonriders』を発表! ファン待望の新作について、その制作経緯やそこに込めた想いを鈴木慶一(Vo&Gu)、鈴木博文(Ba&Gu&Cho)、白井良明(Vo&Gu&Sitar&ギタギドラ&Cho)に訊いた。

集まって音を出してみることによって
“これはできるな”と分かった

『It’s the moooonriders』は実に素晴らしいアルバムで、“音楽の何たるか”や“バンドとはかくあるべし”といったものが示された傑作だと思います。ですが、その新作の話の前に、moonridersの活動について是非ひとつおうかがいしたく思います。2011年に無期限活動休止を発表して、2016年7月に期間限定で“活動休止の休止”を発表。その後、再び活動休止に入って2020年8月より活動を再開と、2011年以降、概ね5年毎に休止→再開を繰り返されておられるという。

慶一

正式に活動休止を宣言したのが2011年ですよ。それから、ドラムのかしぶち哲郎くんが2013年に亡くなって、“またmoonridersをやりたい”と言っていた意を受けて、追悼のライヴを翌年にやったり、2016年に40周年ということでファンへの感謝を込めて、今まで行けなかった場所に行くライヴハウスツアーをやってみようとか、そういうことがありました。ただ、それは新曲をやらなくっていいんですよ。こんなに楽しいことはない。

白井

再開したのではなく、休止を休止してツアーをしたという(笑)。活動再開の宣言はしてないんですよ、その時はね。

2011年の活動休止宣言の理由は何だったんですか?

慶一

2011年に大きな地震があって、ショックを受けて楽曲作りに意欲が沸かなくなった人も出てきた…それが一番大きいかな? 

博文

うん。それが一番大きい。

慶一

“じゃあ、ここで休止。休止だから解散じゃない。休む時が来たかな?”と。何十枚もアルバムを作って、曲を作ってきて、“前の作品を超えなきゃ”とやってきて、ちょいとした”金属疲労”みたいなものもあったかもね。

博文

それはありましたね。テレビの画面上で津波を観て、何かとてつもないことが起こった…それに堪えたというわけじゃないけれど、“俺は何をしているんだろう?”ってところだね。“今、音楽を作る意味があるのかな?”というのがありましたね。

慶一

そこでもしかしたら最後になるかもしれないというのが『Ciao!』(2011年12月発表)というアルバムで。“Ciao=さよなら”というテーマになるものを作るしかなかったね。

しかしながら、こうして新作を作るまでに至っているわけで、いったん休止したものの、その後、moonridersをやりたい気持ちが沸いてきたと。

博文

かしぶちさんが亡くなったというのが大きいですね。メンバーだった人がグループをやっていない時に亡くなったわけで。

慶一

そうね。休止している中で亡くなって……ショックだったね。

博文

で、その1年後に追悼ライヴをやると。

白井

それは休止を休止しないと。

博文

そこで“休止の休止”の方式ができた(笑)。

白井

4回くらいあるんだよね。休止の休止の休止の休止(笑)。

慶一

キリがないんでね(笑)。だから、“今度は再開です”と。

うん。別にその度に活動を停止していたわけじゃないし、曲を作らないでツアーするのが楽だから“休止の休止の…”と言っていて。

博文

新譜を出さないでやっていると、だんだんとやる気が沸いてきたというか、津波のことを忘れることができたというか。

慶一

あと、2021年が45周年であったわけだね。それに向けて何かやりたい気持ちはあったんだけど、いろいろと計画を考えているうちにコロナ禍になってしまって、“みなさん、自宅で録音してアルバム作りをスタートしようじゃないか”と。で、2020年にデモテープを集め出したんですよ。みんなとメールでやりとりしてて、“そろそろどう?”って。

白井

“腹も立ってるんだろ?”ってね(笑)。もともと、みんな、宅録ができる人ばかりだし。

みなさんはmoonriders以外にもさまざまな音楽活動をされておりますが、コロナ禍になって、やはりその全てが止まってしまいましたか?

慶一

うん。家にいてばっかりだったな。最初の頃はどんなことになるかはっきりと掴めてなかったでしょ? とりあえず、動かない感じでしたね。

白井

でも、これは他の人たちも言っていたと思うけど、それが逆にチャンスだと。moonriders以外のそれぞれの活動も全てオンラインでレコーディングしたりとか、積極的になりましたよね。

慶一

それでmoonridersも無観客ライヴを敢行するわけだよ。『CAMERA EGAL STYLO/カメラ=万年筆』(1980年8月発表)というアルバムから40年経ったと。で、それを再現するライヴをやろうじゃないかという(※2020年8月25日、無観客ライヴ『Special Live「カメラ=万年筆」』) 。これがひとつの試金石みたいで、再び集まって生で演奏する…“30代前後の時に作ったものを70代前後の人が演奏できるのだろうか?”というね(笑)。その時に“これはできるな”ということが分かったし、反対に“ちょっとできそうもないことも存在するな”ということも分かった。

博文

いろんなことが分かった(笑)。

慶一

集まって音を出してみることによって“何かやれることがあるな”と。それはメールじゃ分からない。

白井

喜びに奮えたね、音を出すことの。

慶一

そのあとで、中野サンプラザでライヴをやって(※2020年10月31日、『MOONRIDERS LIVE 2020』)、そこで鈴木博文さんが普段やらない選曲をして、そこでもいい手応えはあった。そうやってライヴをやることによって、段々と“またアルバムを作りたい”という気持ちになっていったんだと思うんだよね。それは実に正しいバンドの在り方だよね。

白井

僕なんかは、サンプラでライヴをやった時、お客さんの目力がすごくて、“これはやりたい”と思ったね。

慶一

観客は声が出せないからね。

博文

マスクもしているし。

白井

もうね、こうやってるんだよ(目を見開いて身を乗り出す)。あの気持ちに打たれた。

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