【moonriders インタビュー】
起きてしまったあとでは、
もう前には戻れない
曲と同時に歌詞があったということは、
言っておきたいことがたくさんあった
そうしますと、コロナ禍において抑圧された気持ちをメンバーそれぞれが楽曲作りに反映させたり、それをバンドに集結させたり、ライヴで昇華させたりして、それらがニューアルバム『it’s the moooonriders』につながっていったと。
慶一
そうだね。2021年6月にもう一回ライヴをやることになって、ツインドラム、ツインベースで、ホーンや、キーボードの佐藤優介くん、ギターとヴォーカル、コーラスで澤部 渡くんに参加してもらったんだ。そのライヴで新しいサウンドのヒントをもらったような気がしたね。
博文
あと、昔は歌詞がついてなかったんだよね、曲先だから。でも、今回のレコーディングではそれをやめた。
慶一
うん。この鈴木博文さんがデモテープを集める前に“必ず歌詞をつけよう”という提案をして。
博文
とにかく歌詞はないと、第三者に預けるにしてもイメージが沸かない。
慶一
歌詞がないとインストだもんね。歌詞があって歌っているものをお聴かせしたほうが選びやすいんじゃないかと。
そうでしたか。歌詞がついたものから選曲したというお話をうかがって、個人的には少し腑に落ちました。というのも、歌詞の部分においては一本筋が通った作品だと。それは、端的に申し上げるのも恐縮ですが、多くの楽曲で“今、言っておかなければいけないこと”というものであると思ったんですね。これは選曲段階で歌詞があったことの影響が大きかったのでしょうか?
慶一
曲と同時に歌詞があったということは、言っておきたいことがたくさんあったんだよ。
白井
歌詞を書くことはそんなに苦労しなかったな、昔ほどは。曲と同時に歌詞を出したのが良かったのかもね。スーッと言葉が出てきた。
“今、言っておかなければいけないこと”と申し上げましたが、それもいくつかタイプが分かれていますよね。もっとも印象的に感じたのは“世間に対して物申す”タイプと言ったらいいでしょうか。良明さん作詞作曲の「駄々こね桜、覚醒。」はその代表と言っていいと思いますが。
白井
そうですね。コロナ禍になって必然的に家にずっといるわけだから、“何でこんなに何もできないんだよ!?”と思うでしょ? そこから出てきたのがそういうことで、“駄々をこねている自分もいるんだよ”という。悪いのは周りだけじゃない。“頬杖ついて諦めちゃってる奴もいるけど、そういうことじゃないだろう。覚醒していきたいよね”という歌なんだけど(笑)。みんなが同じようなことを感じたと思う。
社会全体が暗い方向へ進んでいる危険性のようなものですね。あと、良明さんの楽曲では「再開発がやってくる、いやいや」もまさに“世間に対して物申す”タイプで。各地で街が再開発されているけど、“それは嫌だ”というストレートな内容ですね。
白井
これは本当にストレートですね。フォークソングのように自分の身近なことです。小さいことのように思えるけど、僕にとっては大きいことですよ。本当は静かに暮らしたいのに、見えない怪物である大企業がやってくるわけじゃないですか(笑)。それに対する腹立ちもあるし。“こっちは静かに暮らしたい”というだけの話なんですけどね。
良明さんのすごいところは、特に「駄々こね桜、覚醒。」が顕著ではあると思うんですけど、そうした歌詞をものすごくポップなメロディーに乗せているというところで。
白井
あぁ…これは親父譲りでね(笑)。“みんなを楽しませなくちゃいけない”という下町心が確かにある。
慶一
白井良明さんはみんなを楽しませようという気持ちが、メンバーの中では一番強いです(笑)。
白井
結果、スベったりすることもあるんですけど(笑)。
メロディーと言えば、「親より偉い子供はいない」の歌メロもすごくて。NHK『みんなのうた』で流れそうなメロディーではないかと思います。親しみやすさ、分かりやすさがとてもいいですよね。
博文
語りのところは僕が作ったんですけどね。Aメロはポップで分かりやすいから、語りのところは黒っぽいもの(ブラックミュージックの要素)が入ってくるのがいいのではないかと。
あそこでは春風亭昇太師匠が語りを担当されていますが、これはどういった経緯があったんですか?
慶一
マネージャーが“ここは噺家さんを入れたらいいんじゃないですか”って言ったんだっけ? ラッパーじゃなくて噺家さんがいいって。
ラッパー? 当初はラップでやるアイディアもあったんですか!?
白井
ラップというか、トーキングブルースみたいな感じ。
白井
それがいまいちな雰囲気だったから“落語家さんでどうだろう?”ということになり、昇太師匠がいいんじゃなかと。
慶一
自分で自分を“ヨシアキ!”って言うのもおかしい(笑)。だから、お父さんの役を昇太さんにって。
白井
そうそう。だから、今度から昇太師匠を父と呼ぼうかなと(笑)。
先ほど申し上げた“世間に対して物申す”系は慶一さんの楽曲にもあって。「世間にやな音がしないか」はタイトルからしてずばりですね。さっき良明さんもおっしゃってましたが、ずっと自宅にいて情報を受けていますと、社会がちょっとおかしな方向へ進んでないかと思うところではありましたか?
慶一
自宅にいるということは受け身なんだよね。行動していないわけだよ。それで、受けて受けて受けていると、嫌な音も聴こえてくるわけだ。で、嫌な音といい音…それは音楽のことじゃなくてね、その選別をし出すんだよね。“このいい音は本当に事実なのか?”とか、いろいろと考えますよ。そうやっていろんな情報を浴びているうちに、やっぱり嫌な音は嫌な音としてちゃんと認識できるようになる。
《ブーンブーンブーンと 嫌な音がする/ザーザーザーと 傷の音がする》と、まるで谷川俊太郎的と言いますか、そういう語り口ですよね。
慶一
それはおっしゃる通りでございます(笑)。草野心平とかね。
ポップさ、分かりやすさの中にしっかりと社会性を帯びたものを入れるというのは、まさにロックだと思います。
慶一
《それが政治だ》とも言ってるしね。本当に嫌な音はたくさんあって…中でも“スノッブ”という言葉をどうしても使いたかった。スノッブって過去には憧れていたけれども、今考えるとスノッブの発する音は嫌な音だと思う。その嫌な音の代名詞として、《諸行無常食ってる》音が聞こえたら嫌だろうという。
感覚で掴みます(笑)。
慶一
私、作詞する時はメロディーを聴きながら、“♪タタンタタン〜…♪諸行無常〜…おっ、ぴったりだったな。そのあとどうしよう?”って(笑)。
言葉の響きを優先させて、そのあとで肉づけしていくという。