【東京初期衝動 インタビュー】
下手でも“カッコ良いでしょ”って
気持ちで、振り向かないことが大事

写真左上段より時計回り まれ(Gu)、しーなちゃん(Vo&Gu)、あさか(Ba)、なお(Dr)

1stアルバム『SWEET 17 MONSTERS』(2019年11月発表)で感情のままに暴れ回るパンクな印象が強かった東京初期衝動だが、2ndアルバム『えんど・おぶ・ざ・わーるど』ではポップ&ロックに振りきった。純粋な音楽愛、曲展開やヴォーカルにひと癖を加えた中毒性など、これまで持ち合わせていた魅力もフルで使い、自分自身を奮い立たせながら好奇心旺盛に作られた同作について、しーなちゃん(Vo&Gu)とあさか(Ba)が語る。

音楽が好きだからこそできた
パンクなイメージからの方向転換

以前は話題性や楽曲の爆発力で注目されがちだった東京初期衝動ですが、その印象は年々変わっていき、今作では感情表現の豊かさに心を掴まれました。

しーな

自分の気持ちがそのまま入っているわけではないんですよ。最初はパンクなアルバムが作りたかったんですけど、パンクはやろうと思ってできるものじゃないからできなくて。途中から“ポップでロック”っていうイメージで作っていったんです。

あさか

そこの切り替えが難しかったんですけど、「腐革命前夜」がロックに振りきれたきっかけの一曲ですね。

「腐革命前夜」はしーなさんの逞しい歌声やメロディーの力強さにグッときます。でも、それとは真逆のような「不純喫茶でまた会いましょう」のポップでファンシーな感じが可愛いらしくて。

しーな

カッコ良いのも可愛いのも両方やりたいんですよ! この曲はあさかが適当に弾いていたベースが耳にバチコン!と入ってきて、“絶対にこのベースラインがいいよ”って言った気がする。後先を考えて悩むことも超大事だと思うんですけど、悩んだ挙句に選んだもので失敗したら後悔になっちゃうんです。でも、直感で選んだことで失敗した時は学びになる。最近それに気がついて、直感を大事にするようにしました。

ファンシーとは言ったけど、Cメロで急に転調するからスリルもあるのですが、こういうのはもともと東京初期衝動にあったものだなと。

しーな

確かに。突拍子もないことはずっとしてきましたからね。違和感があったほうが引っかかるし。バンドって変わっていく良さもあるかもしれないけど、ファンにとって変わってほしくない部分もあると思うんです。私だって銀杏BOYZが急にポップになったら悲しいし。そのCメロは“急に入ってくるのキモくない?”ってみんなに反対されていたんですけど、音楽って気持ち悪いくらいがちょうどいいじゃないですか。だから、絶対に入れるべきだと思って入れました。

今のお話もそうですし、ロックだろうがファンシーだろうが、思いきり振りきって表現しているところからもすごく好奇心を感じました。バンドマンである前に音楽ファンなんだなと改めて思ったり。

しーな

そうですね。ぶっちゃけ、音楽をやるよりも聴くほうが好きなんですよ。この感覚って絶対になくしちゃいけないと思っています。バンドマンになるとみんなライヴに行かなくなるけど、そういうのは絶対にやめておこうって。

あさか

分かる! ライヴはいっぱい観に行きたい!

しーな

ね。いいところを全部盗んで、オリジナルにする…みたいな。ひとつのものから盗んだらパクリになるけど、いいと思った全てのものをパクったら、それはオリジナルなので。

あさか

なんか今日のしーなちゃんはいつもより深い…。

バンドを始める前の音楽ファンの自分と、今の自分って変わっていないですか?

しーな

変わっていないですね。でも、自分が作る側の立場になってから、全てのものが尊く感じるようになりました。だから、クソつまらない映画とか、いいと思わない音楽を聴いても、それが出来上がるまでの苦労が想像できるし、それを簡単に“これは良くない”とか言えなくなりました。

あさか

私はずっとバンドをしたいっていうのが頭にあったので、東京に行く時もお金のことは考えていなかったし、この先の人生を考えずに“バンドができるならいい”って思っていたんです。だから、音楽が好きな気持ちとバンドをやりたい気持ちはセットだったし、そこは今もそのままって感じです。

“パンキッシュなアルバムにしたい”という構想から“ポップでロック”という路線に変わったみたいですが、音楽が好きな気持ちも軸になっていると思います。

しーな

今までの全ての時間を満たしてくれたのは音楽と本なんですよね。この前、映画の予告を観た時に、ひとつの台詞を聞いただけで“あの本だ!?”と分かって。それは中学生の時に読んだ本だったんで、自分の中で大事に思った作品は10年以上経っても直ぐに思い出せるんだって響きました。そんなふうに、ふとした瞬間に好きだったことを思い出せる音楽が作れたらいいなって思います。

“2ndアルバム”というプレッシャーはありましたか?

しーな

あったけど、根拠のない自信もあったかな? 堂々とするしかないし。“どうせ私なんて”って感じだったら…ねぇ?

あさか

でも、私はそういう感じだったかもしれない。1stの『SWEET 17 MONSTERS』は加入前に聴いて練習していたし、自分の中で強くて。だから、2ndを作るって思ったらプレッシャーを感じて、最初はレコーディングも全然うまくいかなかったです。

しーな

あさかはずっとイライラしていて、精神が崩壊していたもんね。“うちいっぱいいっぱいやねん!”って。

あさか

そう(笑)。“みんなそうだから大丈夫”って言ってくれるんですけど、自分のメンタルが弱すぎて、だんだんみんなも“早よしろよ”みたいな感じになってきて…ヤバいなと思った時に、“もう楽しむしかない!”と。

しーな

あさかはそこからすごく変わったよね。“いくらやったっていいのができないんだったら、そのまま好きにやったらいいじゃん!”みたいな。結局、考えるよりもそれが自分のベストだと思うんです。音源って一生残るものだから“それでいいの?”とは毎回思うけど、その時に録れたものがベストなんで。それに、あさかが楽しむようになってからは音もめっちゃ良くなったんです。

あさか

気持ちの問題でしたね。音も声も変わりました。全曲に悔いはないです!

しーな

下手でも“カッコ良いでしょ”っていう気持ちでやって、振り向かないことが大事。曲によって…例えば「マァルイツキ」は可愛い系だからそれっぽい服を着たりして、私もレコーディングは気持ちから入っていましたね。“本当の自分はこんなんだからなぁ”なんて思わないように。

それぞれの曲の振りきっている感は、そのスタンスがあってこそだと思います。その「マァルイツキ」はプリンセス プリンセスのようなJ-ROCK感がありつつ、色気も感じてカッコ良かったです。

しーな

それは意識してなかったけど嬉しい! ガールズバンドっぽい曲っていうイメージはあったんですよ。えー、でも、色気はないですよ。大丈夫ですか?

あさか

失礼やろ…。

ありましたよ! 歌い方の癖がそう感じさせたのかもしれないです。

しーな

たまにいるんですよ、“しーなちゃんの鼻声とか、あの詰まってる感じの声が苦手”っていう人。知人にもそう言われていたんですけど、“でも、なぜだか聴くのをやめられなくなった”って言われたんです。私自身もあんまりきれいな声で歌うヴォーカリストに惹かれることがないから、ちょっと癖があって、有線でたまたま知らない曲が流れてきても“あのバンドだ!”って分かるのが好きなんですよ。さっきのCメロの話もそうですけど、全てにおいて違和感があったほうがいいと思うから、あえて声にも癖をつけて歌っています。

苦手って思われている時点で、好きになってくれるきっかけになりますからね。

しーな

そう! それに、苦手とか嫌いって感情でも気持ちを動かせられるなら、もう満足です。

あさか

すごいな。前はそんな感じに見えなかった。

しーな

最近メンタル強いね。いろんなことがありすぎて大抵のことでは驚かなくなった。感動はしますよ。お花とか、アンティークで素敵な椅子とか(笑)。でも、他人の感情によって自分が怒る必要はないかな? 自分の目で見るものや感じることを大事にしています。

あさか

私はまだ弱弱しいと思う。メンバーはみんな強くて、しーなちゃんはバシッと言ってくれるし、まれちゃんは“大丈夫だよ”って野放しにしてくれる強さがあって、なおちゃんも包み込んでくれる強さがあるから、それに助けられています。

しーな

私とまれは逆境が楽しいんですよ。“終わりこそ始まり”ってタイプ。でも、あさかとなおは逆だね。

でも、ちゃんと不安も感じられる冷静なふたりがいて、いいバランスだと思います(笑)。

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