柴田 淳
- Key Person 第22回 -
柴田 淳
“歌手になりたい”という
気持ちしかなかった
芸術を仕事にするのは
大変だと分かっていた
柴田さんはどんな子供だったのですか?
周りから聞いた話だと、気が強かったみたいですね。“これ私の!”みたいな、意思が強くて好き嫌いがはっきりしていたというか。あとは、近所に住んでいる男の子たちと一緒に三輪車に乗って、探検ごっこをしていたのを覚えています。服装も男の子っぽかったし、女の子に人気なキャラクターも好きだったけど、おもちゃは車ばっかり。姉はよく内科に行く子供だったんですが、私は怪我が多くていつも外科で、腕や膝はずっと傷だらけでした。
でも、3歳の頃から厳しいピアノのレッスンを受けていたんですよね。
そうです。ピアノは大嫌いで、人前に出るのも嫌だったけど、スパルタなピアノ教室に通っていて、そこは発表会の音源をレコードにしてくれるんですよ。だから、私のレコードデビューは5歳です。
そんな教育を受けながらも、小学5年生の時には中学受験に向けてグランドピアノを買おうとしているお母さんに向かって“音大には行きません”と宣言するという、柴田さんの意志の強さが見えるエピソードもあります。
それは強いのではなくて、ピアノを続けていく意思がなかったからで、初めて勇気を出したひと言でしたね。そしたら受け入れてもらえて、その瞬間から“ピアノを弾きなさい”って言われなくなったんです。でも、私はそれが逆に怖くて(笑)、解放されてからは自らピアノを弾くようになりました。ピアノを弾かなくなると“自分は悪いことをしているのではないか”という気持ちになって。それで高校生の時に、練習しなくても怒られないような、趣味でやっている人たちが集うピアノ教室に通ったら、今まで自分が通っていた教室とのギャップに驚いてしまって、私もだんだん練習しなくなってフェードアウトしました。
ピアノから離れた時に視野が広がったような感じはあったんですか?
自由になれた気はしました。子供の時から“ピアノを極めたところで、ピアノの先生にはなれない”と思っていたんですよ。ピアニストになれるのは氷山の一角だし、“ピアニストになれたとしても生活していけるのかな?”って、ピアノを極めた先の到達点に魅力を感じられなかったし、小学生ながら“あの大嫌いなピアノ教室の先生に私がなるの? 冗談じゃないよ!”と思っていたんです(笑)。だから、その頃から芸術を仕事にするのは大変なことだと分かっていました。ピアノを辞めても他にやりたいことがたくさんあったのもラッキーでしたね。今でも身体がもうひとつあったら警察官になりたいし、アナウンサーやパイロットとか、憧れる職業はたくさんあります。
今も音楽活動の傍ら、救急救命士の資格をとるために専門学校に通っていますものね。
はい。私が中学3年生の時に救急救命士の法律が制定されて、高校1年生の時にテレビで救命士のドキュメンタリーを観て魅了されたんです。当時、救命士は専門職に就いている人のプラスアルファの職業だったので、それだけを取得することはできなかったんです。だから、まずは看護士になってから資格をとって、いずれはアメリカで働くことまで想像していました。親に医療系の大学に進むための塾にも通わせてもらったのに、通い出した時に歌手になりたい夢が勝っちゃって。その時に救命士と歌手を天秤にかけて、私には歌手しかないと思ったんです。
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デビューまでの約3年間は恐怖でしかなかったアーティスト
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