【androp インタビュー】
聴いてくれる人の心を
切り替えることができたら
L→R 前田恭介(Ba)、内澤崇仁(Vo&Gu)、佐藤拓也(Gu&Key)、伊藤彬彦(Dr)
結成10周年を迎えた直後にコロナ禍に見舞われ、発売が先延ばしとなった最新アルバム『effector』は、制作期間が延びたぶんだけ確たるテーマとメッセージを備えた作品となった。前代未聞の挑戦に視覚インパクトもフル活用して訴える、ありのままの“色”であることの美しさ――その核心を内澤崇仁(Vo&Gu)が語る。
例え汚れたとしても
ありのままでいることが美しい
今作『effector』は3年9カ月振りのフルアルバムということで、これだけ間が空いたのは、おそらくコロナ禍の影響ですよね。
はい。2019年頃にはアルバムの種や全貌みたいなものは出揃っていて、当初は2020年に出す予定で動いていたんです。ただ、コロナ禍でそれが叶わなかったぶん、結果的に時間をかけて準備することができました。先行リリースしたデジタルシングルも、最初は「Beautiful Beautiful」でインパクトを出し、サマーチューンの「Lonely」は夏、「Moonlight」は9月の中秋の名月あたりに発表して、最後はアルバムの直前に「SuperCar」と、リリースの順番や時期まで計画的に考えて進められました。
リリースのたびにリリックビデオやアニメーションMV、スマホ対応の縦型ティザーなど、従来にはなかった映像も細かく発表されていましたが、やはり視覚的インパクトも狙っていたんでしょうか?
その通りです。いろんな人の目に色や映像が入るようにというのは意識していました。なかなかライヴができなかったり、メディアに出られない状況の中、世の中にはたくさんの音楽や情報があふれているので、どうやったら自分たちの存在をアピールできるのか、より考えるようになったんです。なので、例えばMVにしても今までは一点集中でひとつに限定して出していたところ、今回はもうちょっと広げていこうってことになったんですよ。
なるほど。そのインパクトを音楽面で表したのが、アルバムの幕開けを飾る「Beautiful Beautiful」ということですね。同期をメインにしたサウンドアプローチや、これまで聴いたことのない内澤さんのアグレッシブなラップに、とにかく度肝を抜かれました。
こういった曲のアイディア自体は2018年くらいからあって、その前年にCreepy Nutsとコラボシングル「SOS! feat. Creepy Nuts」を作った影響も大きいですね。次は“これ、誰が歌ってるんだろう?”と不思議がられるような、andropとはかけ離れたところからの音楽の聴かれ方ができたらいいなと。なので、本当はもっと早めに出したかったんですけど、コロナ禍になったばかりの頃は“今はもっと聴く人に寄り添える曲を作るべきだろう”と思って出せず、このタイミングになったんです。
やさしさや包容力といったイメージの強い内澤さんの声色も従来になくワイルドな響きでしたが、そこもあえて?
まさに刺々しい言葉だったり、単語を吐き出すような感じで歌いたかったんです。美しいだけだと説得力がないような気がして…だから、本番の歌も録り直したんですよ。一回録っていたんですけど、ミックスする直前にやっぱり納得がいかなくて。もうちょっとダークさというか、腹の底から言葉を発しているような感じにしたくて、全部録り直しました。曲の種は2018年でも歌詞自体は最近書いたものなので、どうしても歌っているのはコロナ禍や世の中で起きていることなんですよね。
キーワードとなるのは、おそらく“会いに行くからそこにいてほしい”と“ありのままのお前がここにいる”ですよね。
そうですね。全国に音楽を届けに行きたいのに行けない状況で、自分たちの音楽を普段から聴いて待ってくれている人に届けたいというのと。こういう生きづらい世の中で何かうまくいかなくなると、人間って自分に対して否定的になりがちじゃないですか。自分もそうだったりするので、自分を肯定できるような言葉を使いたかったんです。MVでも白いドレスをさまざまな色の絵の具で汚しながら踊る女性の足元を映していて、例え汚れたとしてもありのままでいること、一生懸命生きることが美しい…っていう意味合いを表しているんです。
絵の具の色は“汚れ”ではなく、人それぞれが持つ“彩”なんだと伝わってきて震えました。2曲目「Moonlight」のアニメMVも動物の瞳に映る月がどんどん大きくなっていって、高揚するビートが胸の高鳴りとシンクロしていくようで素敵だなと。
あれは狼ですね。月に向かって吠える一匹狼がイメージで。月を夢や目標に見立てて、そこに向かっていくという物語を具現化したんです。コロナ禍の今、やっぱり心が救われるような音楽、希望が見えるような音楽を作りたいと考えていたので。
そんな真に迫る想いがあるせいか、ヴォーカルもすごく生々しいですね。
今回のアルバムは1曲目から10曲目までが全部自宅で録ったんですよ。時間の制限なく、ずっと歌うことができる状況だったので、いろんな挑戦や試行錯誤をしています。本来ならスタジオの中で100パーセント良いものを録るところ、今回は歌ってみてダメだったら次の日に録り直すということを延々できたので、息遣いから細かいところまで時間をかけてやれました。それはヴォーカルだけでなく、アレンジもそうですね。
挑戦と言えば「Water」や「Gain」も相当にプログレッシブな楽曲で、「Water」はジャズ風ながらも変拍子やエフェクトの効いた響きが陶酔を誘いますし、内澤さんの台詞で締め括る「Gain」に至ってはメンバーのみなさんは楽器を弾いていないのでは?
「Gain」はギター以外全部打ち込みです。デモである程度の状態まで持っていってからスタジオに入り、メンバーと“これは生がいいのか、デモのままでいいのか”と話し合いながら進めたので、結果的にデモの打ち込みのままの曲もあったりします。あとは、金物系のシンバルやハットだけ生とか、リムショットやキックだけ生とか、混ざっている曲も多いですね。ベースも半分くらいシンセベースで弾いてもらって、生のベースと混ざっていたり。
もしや、そういったところが“effector”というタイトルにつながっていたりします?
いや、タイトルは“聴いてくれる人の心を何かしら切り替えることができればいいな”という願いからきているんです。例えばネガティブをポジティブに切り替えるとか、ポジティブな心をさらに増幅させられたら…とか。
なるほど。それも今ならではですよね。先行デジタルシングルの第四弾だった「Know How」も一見ラブソングに見えて、実はコロナのことを歌ってません?
どっちにもとれるようにしたいとは思いつつも、コロナのことが結構メインになっていますね。冒頭に出てくる“あなた”も実はコロナのことで、2020年のライヴで歌い始めた頃は“確か出会いは今年の初め”だった歌い出しも、今は“去年の始め”に変わってます(笑)。コーラスでサビ感を出しつつ、それ以外はギターが一本、ベース、ドラムのみと一番音数が少ないので、そのぶん細かい歌のディティールが見える曲でもありますね。
こういった状況下ならではの苦しさみたいなものも歌声から垣間見えましたが、歌詞を見た時に“内澤さんのコロナ禍に対するスタンスって、どっちなんだろう?”とも思ったんですよ。歌詞にもある“新しいノーマル”を受け入れているのか、もしくは断固拒否したいのか。
迷いですね! もう戻ることはないと思いつつも、新しい生活のやり方にも戸惑っているという“戸惑い”の歌で。リリックビデオでは街の景色に昔風なノイズを乗せて映画っぽくしつつも、みんながマスクをしている今の光景を映すことで、過去と今の違いみたいなものを描いています。
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