【androp インタビュー】
聴いてくれる人の心を
切り替えることができたら
聴き手にちゃんと伝わるものが
自分にとっての純度の高い音楽
どうしてもコロナ禍にまつわる曲が多い中、爽快な「Chicago Boy」やセンチメンタルな青春ソング「Pierce」が一服の清涼剤のような役割を果たしていて、またいいなと。
でも、作ったきっかけにはやっぱりコロナがあるんですよ。「Chicago Boy」は数年前にメンバー4人でシカゴに行った時のことを思い出して書いた曲で、コロナ禍になったことで海外旅行なんて夢のまた夢になってしまったから、その想いも馳せつつ自宅で作りました(笑)。「Pierce」に関しては…思春期って特有の物足りなさというか、なんだか分からないけれど、ずっと満足しない感じってあるじゃないですか。それって大人になっても意外と変わっていない気がするんですよね。知識とか経験を積んでも、まだ見えていない答えがあるというか。なおかつ、今、コロナ禍になって自分と向き合う時間、自分に使う時間が増えたので、自分も“過去と比べて今ってどうなっているんだろう?”ということを考えて、思春期という“過去”を描くことによって“今”との対比を追求できないだろうかと思って作ったのが「Pierce」なんですよ。
過去と今の対比というのは「Know How」の話でも出てきましたが、どうしても考えるところではありますよね。
そうですね。でも、考えることがすごく大事だと思うんですよ。考えないで流れに身を任せることもできるけど、それって実はすごく危険なことなんじゃないかってこの2年間で強く感じていて。例えば、インターネットを通じて同じ意見の人と一緒に誰かを傷つけてしまうことって、今すごく目につきますよね。なので、そういった事柄を考えることができるような曲を作りたいというのは、今回のアルバムを通してずっと試みていたことなんです。
他人や自分を傷つけずに済むにはどうしたらいいか? …このアルバムが伝えたいメッセージって、結局そこですよね。それぞれの“色”を、ありのままの姿を認めてあげればいい――それを歌っているのがアルバム終盤の「iro」で、ある意味「Beautiful Beautiful」と対になっているような曲だなと感じました。
芯みたいなものは一緒だけど、表現の仕方が真逆みたいな感じは自分にもありますね。「Beautiful Beautiful」は刺々しくて痛いけれど、こっちはやさしくて、締め括りの《綺麗かい?》という詞は、もちろん“Beautiful Beautiful”にかかっているし。今作では“色”とか“涙”とか“光”というものがすごく重要でした。どれも受け取り手に解釈を委ねられるもので、例えば“涙”は“色”とは逆に、無色透明でどんなかたちにもなれるんですよね。
そう言えば “涙”がテーマになっている「RainMan」(CDのみに収録)は、主人公が得た“答え”が明かされていないところがすごく気になったんですが。
そう、そこは余白にしておいたほうがいいのかなって。僕も曲を作っていた当時と、今聴き返している時では違ったりもするし、自分もその余白にまんまとやられているので(笑)。「RainMan」は2020年にリリースできた唯一の曲で、とにかく当時は寄り添えるような楽曲を作りたかったんですよ。コロナ禍で世の中が戸惑っている中、やっぱり音楽の役割とか自分たちが音楽をやる意味をすごく考えさせられたから、そこで最初に出すのは「Beautiful Beautiful」みたいな刺々しいものではなく、寄り添える楽曲にしたかったんです。
それを聞いて安心しました。歌い方やサウンドが変わっても、やはりandropの根本は何も変わっていないんだなと。
何も変わってないですね。表現する場所を失くして鬱っぽくなってしまう人もいることをニュースで知って、音楽をやっている意味を本当にに考えさせられた結果、今までと変わらず純度の高い音楽を作りたいと思いました。僕は聴き手がいてこそ自分の音楽は成立すると考えているので、聴き手の心に響くものというか。聴き手の心にちゃんと寄り添えるもの、伝わるものが、自分にとっての純度の高い音楽なんですよね。
そういう意味だと、10曲目の「SuperCar」にはズバッと心に届く強いメッセージがあって、まさに純度の高い音楽と言えます。シンガロングできる部分もありますが、これは“いつかみんなで歌いたい”という願いもこもっていますか?
そうですね。この曲ができたきっかけを話すと、2019年にandropが10周年を迎えて、2020年1月に10周年を総括したアニバーサリーライヴを開催し、そこからツアーに出るってタイミングでライヴがどんどん中止になってしまって。一緒に声を出して歌うなんてことができなくなった時に、“シンガロングできなくても一緒に合唱しているように楽しめる曲を作れないか?”という想いから生まれた曲なんです。
10周年とコロナ禍が被ったことに関しては、悔しい想いもありました?
でも、最初はすぐに終わると思い込んでましたから。2カ月くらいだろうと楽観視していたのが、ちょっとずつ延びていっての2年なので、“いつかはできるんじゃないか?”と希望を捨てずにやっていたところはあります。そのために今できることを考えて実行し続けてきて、今はコロナとどう共存していくかというのをすごく考えています。“一緒に歌いたい”という期待は捨てていないですけど、僕自身、完全に前のような状態に戻るとはもう思っていないので。
いわゆる“ニューノーマル”なライヴに、ファンの側も慣れつつありますからね。ライヴハウスですし詰めとか、もはや“できる”と言われてもやりたがらないかもしれない。
椅子席の快適さを知っちゃったら、確かにそうですね。僕自身は椅子があって空間に余裕のあるライヴが昔から好きでしたけど(笑)。僕が今一番望んでいるのは、音楽を安心安全な状態で伝えに行けるようになることです。お客さんからすると、2021年は“ライヴに行く”と周りに大きな声で言えない状況だったから、すごく不便な想いをさせてしまったんじゃないかと心が痛いんですよ。なので、後ろめたい想いをすることなく音楽に触れられる環境が整い、その上で全国に僕らの音楽を届けに行くことができるのが望みです。
ちなみに12月23日と24日にも、ちょっと変わったライヴがあるとか。
はい。こういう時だからこそ普段と違う音楽表現ができるんじゃないかと思って、これまでも配信ライヴやコンセプトライヴをしてきましたが、ひとつの試みとして演劇とライヴを混ぜた公演を恵比寿ザ・ガーデンホールで開催します。「Hikari」(2018年発表シングル)が主題歌になったドラマ『グッド・ドクター』のプロデューサーの方が構成や脚本を考えてくださって、今作の収録曲や過去の曲の想いを落とし込んだストーリーを作ってくださったんですよ! おそらく僕らはそこまで芝居はしないんですけど、役者さんがおふたり出演されて、ラジオブースのセットの中で繰り広げられるストーリーになる予定です。ネガティブになりがちな世の中だからこそ、前向きな気持ちにさせることができたらいいなって。
つまりはandropのライヴもアルバムも、全てが観る人、聴く人の気持ちを切り替えるエフェクターになっているわけですね。
素晴らしい! そうですね。僕らは観てる人、聴いてくれてる人のエフェクターになりたいです。
取材:清水素子
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アルバム『effector』2021年12月22日発売
SPACE SHOWER MUSIC
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『androp “music story” act1 ~Christmas Radio~』
12/23(木) 東京・恵比寿ザ・ガーデンホール
12/24(金) 東京・恵比寿ザ・ガーデンホール
演出・構成 : 藤野良太(storyboard)
アンドロップ:2009年12月に1st アルバム『anew』でデビュー。ジャンルレスかつ緻密なサウンドアプローチとその傑出した音楽性でシーンに頭角を現す。数々の映画やドラマ主題歌、CMソングを手がけ、MVもカンヌ国際広告祭(フランス)、One Show(アメリカ)、Webby Awards(アメリカ)ほか国内外11のアワードで受賞するなど、その映像世界やアートワークでも世界的な評価を得ている。2021年12月に6thアルバム『effector』をリリース。androp オフィシャルHP
「Beautiful Beautiful」MV
「Lonely」MV
「Moonlight」Lyric Video
「Know How」Lyric Video