戸川純のパンクスピリットに驚く
ライヴアルバムの大傑作『裏玉姫』
ドラマ、CMのイメージを一変
サウンドはシンセサイザーが多用されているので、パンクロックというよりはポストパンク、ニューウェイブと分類されてしかるべきものであろうが、その精神はもろにパンク、もっと広義に捉えればそのフリーダムな表現手段はロックそのものと言えよう。まず、これは『裏玉姫』というよりは、それに先んじること3カ月前にリリースされた戸川純のデビューアルバム『玉姫様』の話にもなるけれども、その内容が自由そのものである。『玉姫様』に関しては3年前の当コラムで取り上げているので、詳しくはその拙文を参照していただければと思うが、改めて紹介すると、『玉姫様』のタイトル曲「玉姫様」は月経という生理現象に伴う不快な症状を歌詞にしている。
《ひと月に一度 座敷牢の奥で玉姫様の発作がおきる》《中枢神経 子宮に移り/十万馬力の破壊力/レディヒステリック 玉姫様 乱心》(M1「玉姫様」)。
当時、リアルタイムで聴いた時にも相当衝撃を受けた覚えがあるが、今、改めて聴いても“よくこれを歌詞にしたものだ”と惚れ惚れする。少し前に映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』が話題になったり、“生理の貧困”が多くのメディアで報じられたりしているものの、現在でもまだタブー視される傾向の月経。今から35年以上も前にそれをテーマとした楽曲を作り、表現に禁忌がないことを天下に示したアーティストとしての姿勢は、実に天晴れなことであったと大いに称えたいものである。
しかも、それを行なったのが戸川純という女優であったことで、パンクスピリットのようなものをより強く感じさせたような気がする。戸川純のデビューは『玉姫様』の約2年前、1982年のビートたけし主演のドラマ『刑事ヨロシク』であった。警察署で働く事務員の役で、傍目にも陰キャな感じで、おどおどしながらお茶を出す度にたけしに弄られていた役柄だったと記憶している。ドラマの中身はさっぱり覚えていないが、そのビートたけしと戸川純の絡みはやけに印象に残っている。一般的に彼女の知名度がグッとアップしたのは、同年9月のTOTOの「ウォシュレット」のCMだろう。“おしりだって、洗ってほしい”というCM史に残る名コピーと共に登場。見た目は『刑事ヨロシク』よりかなりポップになっていたが、どこかたどたどしい語り口は、ドラマでの役と地続きではあったと思う。
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