にしな、
仲間との別れを経て遂に辿り着いた
初のワンマンライブを開催

にしなワンマンライブ『hatsu』2021年6月25日 at Zepp Tokyo(Photo by 上山陽介)

 6月25日、にしながワンマンライブ『hatsu』をZepp Tokyoで開催した。4月にファーストアルバム『odds and ends』を発表したにしなにとって、この日が初めてのワンマンライブ。貴重な機会を目撃しようと、場内はたくさんのオーディエンスが埋め尽くした。

 バンドメンバーに続いてにしながステージに姿を現し、一曲目に披露されたのは“真白”。アコギを抱えたにしなが愁いの中に芯の強さを感じさせる声で歌い出すと、それだけで場内の空気がガラリと変わる。〈返してよ 私のはじめてを〉という歌詞と初のワンマンであることのリンクにニヤリとさせられ、エネルギッシュなギターソロを挟み、歌声はさらに熱を帯びていった。

 真っ赤な照明が爽やかな青に変わると、曲調も一転してAOR風の“夜間飛行”へ。ブラックミュージックからの影響を消化し、カッティングによる軽快なグルーヴも自由なフロウで乗りこなす姿からは、シンガーとしての幅の広さが感じられる。印象的なシーケンスフレーズで始まる“ケダモノのフレンズ”でも、ハンドマイクで心地よいループに身を委ね、軽やかに歌を紡いでいく。

 ハーッと大きく息を吐き、「やっほー」と客席に呼びかけると、場内からは大きな拍手。「初めてのワンマン、遊びに来てくださってありがとうございます」と挨拶をして、「せつない曲をやろうかなと思います」と始まったのは“ダーリン”。フォーキーなグッドメロディーに乗せて、優しさがゆえにせつない関係性を切々と歌い上げるこの曲は、にしなの真骨頂と言ってもいいだろう。ライブ序盤こそやや緊張も感じられたものの、中盤に差し掛かると堅さも消えて、“ランデブー”ではリズムに合わせて体を揺らし、早口のパートを見事に決めて、“centi”でもさらに伸びやかな歌声を聴かせる。

 バンドメンバーを紹介し、「ここまではアルバムの曲をやってきましたが、次はアルバムに入ってない曲をやろうかなと思います」と話すと、ここでも場内からは大きな拍手。デビュー前のにしなはライブとYouTubeで弾き語りを披露し続け、まだ音源化されていない曲も多く、彼女を長く応援してきたであろうファンの多さを感じさせる。「アレンジされたバージョンを宇宙初公開しようかなと思います」と言って演奏された“夜になって”は、シンセやギターのソロをフィーチャーし、弾き語りとは異なるバンドならではの魅力を感じさせた。

 ライブ後半戦は華やかなダンスナンバーを連発。アカペラから始まった“透明な黒と鉄分のある赤”では4つ打ちに乗って〈Shall we dance dance dance〉と歌い、場内をダンスフロアに変え、CMソングとして書き下ろされた最新曲“U+”では間奏でステージ上に星空が浮かび上がり、そこからのシンガロングパートは音源以上の高揚感を感じさせる。さらに、アルバムではラストを飾る“桃源郷”を続け、ストリングスを配した重厚なバラードを堂々と力強く歌い上げた。

 「数日前からか一カ月前からか、ずっと緊張してて、でも始まったら一瞬で、残り2曲になりました」と話し、「次は煙草ばっかり吸ってる人に向けて書いた曲をやります」と言って披露されたのは、現在の代表曲とも言える“ヘビースモーク”。にしなもエレキギターを弾き、そのざらついた音の感触と、〈手持ち無沙汰ならば 両の手を私が握って拘束する〉という歌詞に象徴されるヒリヒリした関係性がリンクして、エモーショナルな歌声が聴き手に突き刺さる名曲だ。

 本編ラストに披露されたのは、“ヘビースモーク”同様に活動の初期から披露されている大切なナンバー“ワンルーム”。台詞調の序盤から徐々に上り詰めて行き、間奏の轟音ギターを経て、せつないメロディーが歌い上げられるラストは圧巻。その場の誰もがジッとステージを見つめ、歌い終えたにしなが「ありがとうございました」と挨拶をすると、この日一番の盛大な拍手が贈られた。

 アンコールを求める拍手に応えて再度姿を現したにしなは「アンコールをしてもらえたらやりたかった曲がある」と話し始め、「私の音楽の小さな分岐点、それまで一緒に切磋琢磨しながらやってきた仲間にお別れを告げて、自分が選んだ道に進んで行こうと決めたときに書いた曲です。そのときは寂しさや恐怖があったけど、ここから先は仲間のことを忘れちゃうくらい、今に対して必死にならなきゃいけないし、必死でいたいと思って書いた曲。そのときから時間が経って、今日はかっこいいバンドメンバーと、一緒にステージを作ってくださる方と、観に来てくださった方がいて、ワンマンができて、本当に幸せに思います」と、音楽に対する切実な想いと、初のワンマンを迎えることができた喜びを語った。

 そして、「これから先も、広い宇宙の中を私たちがどこまでも自由に泳いでいけることを願っています」と伝え、バラードナンバー“青藍遊泳”を情感たっぷりに歌い切り、最後は再びエレキギターを持って、「昔バンドでやっていた曲」という爽快なロックナンバーの“アイニコイ”で大団円。まだまだ物語は始まったばかりだが、この歌声が僕たちを、私たちを、どこまでも連れて行ってくれる。そんな可能性を確かに感じさせるステージだった。

文:金子厚武/撮影:上山陽介

<セットリスト>
M1. 真白
M2. 夜間飛行
M3. ケダモノのフレンズ
M4. ダーリン
M5. ランデブー
M6. centi
M7. 夜になって
M8. 透明な黒と鉄分のある赤
M9. U+
M10. 桃源郷
M11. ヘビースモーク
M12. ワンルーム
EN1. 青藍遊泳
EN2. アイニコイ

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