【Editor's Talk Session】
今月のテーマ:
姫路Beta出身のバンドたちによる
支援コンピ盤『VERSUS FATE』
Editor's Talk Session
まずは姫路Betaで
ワンマンができるようになってから
千々和
今回のコンピレーションアルバムはseekさん発案で制作が決まったそうですが、それ以前に姫路Betaではクラウドファンディングも実施されていましたよね。昨年4月のBetaはどういったご状況だったのでしょうか?
田中
昨年3月に1回目の緊急事態宣言が出て、その時は3カ月くらいで落ち着くと思っていたんですけど、長引きそうでしたし、閉店するところもあったりしたので、クラウドファンディングを実施することにしたんです。ライヴハウスも大なり小なりありますけど、“助けて”って言っていいものなのか悩みました…。でも、“今言わないと終わるな”と思いましたね。今でもクラウドファンディングで声をあげた時に反応がなかったら終わってたと思っています。ありがたいことに、あっと言う間に輪が広がっていったし、みんなのコメントを見て“何が何でも続けていくしかないな”という気持ちになりました。それで何とか続けられたって感じですね。
千々和
金額はもちろんですが、気持ちの面で救われる部分が大きかったんですね。
https://camp-fire.jp/projects/view/264965
seek
Psycho le Cémuはツアーが飛んでいる状態だったので、夏以降に振替公演をしようと話していたんですけど、同時期に札幌のCOLONYが閉店するニュースがあったのが衝撃的で、“振替公演の前にライヴハウスがなくなるんちゃう?”と不安になって。11月にBetaに弾き語りライヴで帰った時にブッキングの先輩と話しをさせてもらったんですけど、春先のブッキングが決まってないし、周りの“支援をしよう”っていうムードも薄れてきていて一番良くない状況に感じた ので、年末にかけて何かできないかと考えたのが『VERSUS FATE』を作ろうと思ったきっかけでした。
千々和
コンピの案はどのように思いついたんですか?
seek
前にPsycho le Cémuが1999年9月にBetaで行なった1stワンマンの映像をBetaのアカウントで配信して、お客さんと観るっていう地獄みたいな企画をやったんですよ(笑)。僕らは恥ずかしくてめちゃくちゃ嫌やったんですけど、お客さんは観たいと思ってくれたので、そこにヒントがあったかもしれないです。僕はただのリスナーとして90年代に田中さんがやってたレーベルからリリースされていた音源を買っていたので、当時の音源がBetaにあるはずだと思って声をかけて。
田中
話を聞いた時はびっくりしましたし、もう25年くらい前なので“マスターあるかな?”って(笑)。あとは、著作権のこともありますし、どの立場で出したらいいかを考えたり。僕はseekが考えてくれたことを受けたほうなので、おんぶにだっこで進めてもらいました。
千々和
seekさんはMASCHERAが参加できなかったらこの企画自体をやめようと思ってたそうですね。
seek
やっぱ姫路はMASCHERAが作った街ですから。MASCHERAがいない姫路のコンピはないだろうと思ってました。でも、いきなりmichi.さんに声をかけて断られたらどうしようって思ってたので、先に他の先輩方に相談して、背中を押してもらいました(笑)。
michi.
あははは。でも、姫路のシーンは田中さんと一緒だったから作れたものだと思うし、俺のルーツでもあるところやから、そこはピンチになったらじっとしてられへんって気持ちでしたね。とはいえ、俺ひとりじゃ決められないから、そこはメンバーにも連絡をして。
seek
そうですよね。みなさん事情が違うので、そこがクリアーできるのかなっていうのはポイントでした。いくらチャリティーとはいえ、今もバンドを続けている方と、もう辞められている方もいてはるので、知らない間に出ていたって感じにはしたくなかったんですよね。
千々和
私は95年生まれなのでBetaと同い年で、90年代後半から2000年代前半くらいの姫路のバンドシーンがどんな感じだったのか、この機会におうかがいしてみたいです!
seek
Betaのこけら落とし公演6デイズはMASCHERAから始まったと思うんですけど、その前から田中さんとMASCHERAの関係はできてたってことですもんね?
michi.
そうそう。田中さんにはBetaが立ち上がる前からお世話になっていて、すごく可愛いがってもらってたんです。当時のシーンはビジュアル系に限らず、田中さんの門をくぐっていった人はみんな才能が豊かで、尊敬できるアーティストが多かったですね。そういう芯のあるシーンが姫路っていう当時は全国的にはマイナーだった土地にもあると周りに認識されていたから、大阪でライヴをしても姫路に寄ってくれるツアーバンドが多かったですね。
seek
場所的には決していい場所ではないですもんね(笑)。兵庫県のメインは神戸ですから。
michi.
田中さんがBetaをやる前にいらっしゃったライヴハウスも交通の便があまり良くなかったんですけど、そこにバンドは来るわ、お客さんは集まるわで盛り上がっていた記憶がありますね。
seek
ライヴハウス同士の横のつながりが、バンド同士もあったというか。MASCHERAが大阪で対バンしたバンドが、姫路でライヴする時にはBetaに出たりとか、バンド同士が地元のライヴハウスを行き来するっていうのが出来上がっていた気がしますね。
michi.
当時から箱推しのバンドが各地方にいて、例えばライヴハウスとバンドが親子だとしたら、家族ぐるみみたいなコミュニケーションがあったんです。
seek
ライヴのあとに必ず清算と反省会があるんですけど、その反省会で“じゃあ、次どうする?”っていうのをライヴハウスとバンドが積み上げていく関係だったというか。その当時は“ツアーに行きたい”と思っても“まず姫路でワンマンができるようになってからじゃないと意味ない”ってすごく言われてて、その意味がまったく分からなかったんですけど、自分たちのカラーがしっかりあって、姫路のお客さんに認めてもらってからじゃないと他の箱に行っても誰も見向きもしないっていうのを教えてくれてたんやなって。逆に言うと、僕らは今その立場になったとして、十代のアーティストにそれを伝えるのは難しいと思うんです。
千々和
今もその文化はなくなっていないけど、バンドが個々の考えでやっているイメージも強いです。
michi.
昔はそれぞれのライヴハウスが企画したイベントがたくさんあって、そこでいろんなバンドが集まってきたんですけど、最近はバンドが企画していることが多くなりましたね。
石田
いつの間にかメジャーとインディーズの垣根もなくなり、バンドが自分たちの力で活動できるようになってきたってことなんでしょうね。
seek
はい(笑)。でも、今はSNSでライヴ前にひと言を伝えたり、当日あまり話せなくても後日に連絡できたりするんで。
石田
あと、ライヴハウス同士が全国でつながってるから、“うちのバンドがそっちに行くからよろしく”というのもあったり。
michi.
そうですね。俺らも地元のライヴハウスの名前を背負ってるからへたなことできないって頑張れるし、そういう相乗効果はあったと思います。
田中
当時は“どうやってシーンを作っていくか?”って考えてたので、MASCHERAと一緒に機材車で全国を回って全国行脚みたいな感じで、ライヴハウス同士のつながりを作っていきましたね。行った先のライヴハウスでいいバンドを見つけたら、“こっちからも行きますので、ぜひうちにも来てください”っていう感じでした。あと、“from 〇〇”って掲げてて…例えば“九州の某ライヴハウスのマスターのお墨つきがないと他県には行けない”みたいなことをバンドから聞いて、“バンドはそう言ってましたが、ぜひうちに来ていただきたいんです。こちらからお世話になりたいです”ってライヴハウス同士のやりとりがあったり。
岩田
僕も学生の時にバンドをやってたんですけど、対バンした相手にどこのライヴハウス出身かっていう肩書きがあったので、それをきっかけに“そこのライヴハウスはどんなところなん?”という話からコミュニケーションが取りやすかったです。今はそういうつながりが現場でないのかもって思うとちょっと寂しいですね。
michi.
懐かしい話で言うと、当時は仲良くなったらバンドのステッカーを機材車に貼りまくるっていう文化がありましたよね。名刺代わりに大量のステッカーを常に持ち歩いたし。
seek
ステッカー、貼ってましたよ(笑)。バンドは機材車に貼って、ファンの方は黒い皮のバッグに貼ったり。もう今はステッカー文化はないかもしれないですね。
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