Editor's Talk Session

Editor's Talk Session

【Editor's Talk Session】
今月のテーマ:
姫路Beta出身のバンドたちによる
支援コンピ盤『VERSUS FATE』

自分のことも、仲間のことも
誇らしくなるアルバム

千々和
『VERSUS FATE』の収録曲はBetaへの思い入れも含めて楽曲をセレクトされていると思いますが、どんな選曲基準だったのですか?
seek
Psycho le Cémuは“ザ・王道”と言いますか、1stデモテープ『Self Analysis』のリード曲「聖~excalibur~剣」と、1stマキシシングル「Kronos」のリード曲「クロノス」を入れさせてもらいました。当時から僕らは“売れたい”という気持ちしかなかったので、“この見た目のわりに聴きやすい曲をやっているバンド”って言われたいっていう想いが強かったんです。だから、それをモットーに選んだんですけど…あのデモテープは初めてのレコーディングで、Betaで録ってたんですよ。フロアーにドラムセットを置いて、ギターとベースはドリンクカウンターのところで弾いて。当時、僕はBetaでバイトをしていて、エンジニアが元店長の三四郎さん(須方"三四郎"努)だったんで、バイト終わりに“明日レコーディングする曲ここでちょっと弾いてみぃ”と言われて弾いたら、“seekな、オルタネイトピッキングって知ってるか?”って言われて(笑)。それすらできてないくらいのレベルやったんですよ。“これはあかん。明日は時間かかるわ~”って言われたのを覚えてます。そのテイクが今回使われていると思うと絶対に聴かれたくないなって(笑)。
石田
楽曲のセレクトはバンド任せですが、何か条件はあったんですか?
seek
各バンド2曲ずつで、当時のBetaから出ている音源っていうことだけです。デモテープで出してられる方もいれば、ILLUMINA、Transtic Nerve、DEVELOP FRAMEの3バンドはレコード会社さんとの共同原盤というかたちだったので、そのへんもクリアーしつつ進めました。で、最後にMASCHERAの2曲が決まって。
michi.
他のバンドもそれぞれの個性を出してくるのは読めていたので、僕らは当時のスピリッツも再現したいと思って「ラー」(アルバム『tales』収録曲)と「サヨナラ」(アルバム『悪徳の栄え』収録曲)を選びました。当時はメンバー全員が別の方向に尖りまくってたから、そのピリピリした感じが出せればと。“やっぱりMASCHERAらしくきたな”っていう演出も含めて選曲しましたね。
石田
なので、「ラー」?(笑)
michi.
「ラー」ですね(笑)。前にseekと話した時に“選曲がMASCHERAさんらしいです!”って言われて“そうやろ”って。
seek
他のバンドの人たちとも“やっぱMASCHERAは変わってへんな~”って話してました。スピリッツというところがよく出ていて。
michi.
MASCHERAもいろんな変遷があって、メジャーデビューからどんどんポップ路線に変わっていったんですけど、今回はBetaのプロジェクトになるので、原点というか、当時の自分たちを再現したかったんですよね。
石田
普通はこういうコンピ盤にインスト系は持ってこないもんね(笑)。
michi.
あははは。そんな感じで、田中さん然りBeta関係者の方にも“MASCHERAってこうだったよな”ってニヤニヤしてもらって、元気になってほしいというのもあったし。
田中
やっぱりどの曲にも“あの時そうだったな”って思い出がありますね。それぞれのバンドのレコーディング風景とかが蘇ってきました。“「ラー」って、これは曲なん?”と思ったこととか(笑)。
seek
ちなみに僕らが「クロノス」を録ってる時はDAISHIが一カ所なかなか歌えなくて、結局は田中さんが仮歌を入れたっていうエピソードがあります(笑)。《放たれた黒幕が》の“たれた”のメロディーが違うって、田中さんが“放たれた”の部分だけ入れてくれました。
田中
そんなこともしたなぁ(笑)。今のは早いとか遅いとか言ってた覚えがある。
michi.
「サヨナラ」は『悪徳の栄え』っていうアルバムに入ってるんですけど、それがデモテープを卒業して初めて作ったCDで、しかも1stアルバムだったから、合宿みたいな感じで大阪のスタジオで泊まり込みでレコーディングしたのを覚えてますね。田中さんにも来ていただいて。
田中
行ったな~。高槻やったかな?
michi.
当時はデジタルレコーディングが主流になりつつあったんですけど、僕らはそこらへんも捻くれてたので、“アナログを知らないでデジタルでやりたくない!”って言って、アナログのシステムがあるスタジオを選んでもらって録音をしたんですよ。
石田
MASCHERAらしい話や(笑)。
千々和
さまざまな10曲が入っているのでひと言でまとめるのは難しいですが、すごく勇敢な印象を受けました。“サヨナラ”ってタイトルの曲でも切ないだけじゃなかったり、“こうやって当時からいろんな困難を乗り越えてきたんだな”と感じるコンピでした。
seek
そんなふうに言っていただいたら、俺のオルタネイトピッキングのエピソードがちょっと恥ずかしくもなるんですけど(笑)。でも、そうですね。Psycho le Cémuはこの5バンドの中だと一番後輩なので、先輩方の背中をずっと見ながら、めちゃくちゃ影響を受けてきたからこそ、同じようなことをやろうとは思わなかったというか。当時から“自分たちらしさ”を武器にしたいっていうのはありましたね。姫路のシーンってどこに行っても“演奏がしっかりされてますよね”って言われたり、楽曲の良さやメロディーの良さをちゃんと歌うヴォーカリストがいるというブランド力みたいなものがあったから、この10曲を聴いたらそれを感じると思うんです。MASCHERAという確固たる姫路の先駆者がいた中で、“じゃあ、どう自分たちの個性を出そう?”とみんな考えてたんちゃうかなって。例えばDEVELOP FRAMEは姫路出身ではなく、京都のバンドなんですよ。でも、MASCHERAと田中さんにツアーで出会って、Betaをホームにして活動することになったんです。DEVELOP FRAMEのデジタル色の強い打ち込みサウンドは当時はすごく新しくて、その流れを受けてTranstic Nerveの音楽性が確立したりしていたので、ちゃんとつながってたんやなって思いますね。  
石田
そんな5バンドの原点となる曲を収録してるから、それぞれの個性の一番濃いところが出てますよね。
seek
そうですね。そのギラついてる感じというのはキャリアを重ねる中で落ち着いていくんですけど、今回は当時の尖っている状態のまま入っているので、聴いていてすごく興奮する音源なんじゃないかと思います。
michi.
単純ですけど、とにかく懐かしいです。ステージを降りたらみんな仲が良かったけど、ライバル心はお互いにあったし…例え後輩だったとしても、全ての仲間がライバルだと思ってましたね。だからこそ磨き合えたし、今の自分がある。さっきseekが言ってたように、テクニックや知識はまだまだ未熟で聴いていて恥ずかしいところもあるけど…
seek
michi.さん、そんなん思うんですか!?
michi.
ごめん、あんまり思ってない。今のはいい子になりすぎたわ(笑)。でも、みんなメジャーデビューもしてるし、その才能があの時代に一挙に集まっていたことは奇跡だと思う。それを見い出してくれた田中さんをはじめ、Betaスタッフさんの先見の明が神懸かって、誇らしくなるアルバムですね。自分のことも、仲間のことも誇らしく思える。
石田
Betaっていう括りの中で、これだけ個性のあるバンドが集まってるわけやしね。
千々和
『VERSUS FATE』が出ることを発表された時のコメントで、須方 "三四郎" 努さんが“感傷的に聴いてほしくない”とおっしゃっていて、きっかけこそコロナ禍が関係していますけど、そうじゃなくても自分が実際に観ることができなかったシーンを感じられるのはすごく嬉しい機会だと思いました。
seek
世代が違ってもそう言ってくれる方がいたらいいなと思いますね。
千々和
今は配信でも音楽が聴けるので、バンドシーン、ビジュアルシーンという大枠でその歴史を知ることはあるんですけど、ライヴハウスのシーンはよりディープであり、その大枠のところにもすごく影響を与えていると思うんですけど、最近それに触れる機会が減っていってるなと。
■BARKS『Psycho le CémuMASCHERA、TRANSTIC NERVEなど姫路出身5バンド、コンピ盤で地元ライブハウスを支援』
https://www.barks.jp/news/?id=1000200061

OKMusic編集部

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