【Ulon インタビュー】
孤独に寄り添う言葉と音が
鮮やかに開花

L→R マエジマハヤト(Ba)、うえのまりん(Dr)、イブキナリサワ(Vo&Gu)、スズキリョウヘイ(Gu)

それでも世界が続くなら・篠塚将行をプロデューサに迎え、三重県のレーベルに所属しながらも、東京を拠点に活動を展開している“優しすぎる日本語ロックバンド”Ulon(ウロン)。現実と向き合う苦しさを抱きながら、嘘のないありのままの言葉と音で表現したデビューアルバム『ReBirth』について語ってもらった。

誰かのために歌うのって
こんなに美しいことなんだと思った

Ulonを結成したのは、いつですか?

マエジマ

2019年1月です。

イブキ

僕はずっとパンクをやっていたんですけど、前身バンドをリョウヘイさんとやっていて、新しいバンドを組もうとした時に、ハヤトくん(マエジマ)とネット出会ったんです。

マエジマ

Ulonの曲をネットで見つけて、“ここしかないな”と思いました。仕事を辞めて本気でバンドをやろうとしていた時期だったから、“ここがなかったら他はない”って気持ちになるくらい、曲が良かった。

うえの

私もずっとバンドをやりたいと思っていた時にイブちゃんと出会って、御茶ノ水で話をした時に、オレンジジュースをおごってくれたので入りました。

イブキ

オレンジジュースが理由なんだ(笑)。

うえの

でも、私も曲がいいなと思ったんです。

母体となったバンドはパンクだったのに、今の音楽性になった経緯は?

イブキ

パンクよりも好きな音楽を見つけちゃったんです。ある日、森田童子さんや加藤登紀子さんを聴いて、メロディーも歌詞も当時の僕にめちゃくちゃ刺さってしまって。そういう心からの言葉を歌うバンドをやりたいと思ったんです。

スズキ

でも、個性的すぎる4人が集まったから、ひとりひとりの個性を生かしたジャンルレスな音楽でいたいと思っていて。世間と違っても、自分たちでカッコ良いと思えるものをやるのはずっと変わっていないところですね。

今作はグランジ、シューゲイザー、UKロックの香りもすごくありますけど、この要素はもともとあったんですか?

イブキ

Arctic Monkeysとかは好きですけど、意識的に取り入れようとはまったく思っていないですね。ひとりひとりが主役だと思ってるので、自分でジャンルを括りたくない。

2本のギターの絡ませ方とか、UKロック的な凝ったアプローチだと思いましたけど。

イブキ

これって、凝っているんですかね?

スズキ

ギターのかけ合いが最近楽しいだけなんです。そのへんは篠さん(それでも世界が続くなら・篠塚将行)のプロデュースが基本的にどんどんひとりひとりを自由にさせようとするし、“生かそうとしないと生きない曲ならすでに死んでる。曲なんか生かそうとしなくていいから、自分を表現しよう”って言ってくれたので自由が加速しましたね。僕は「世界の終わり」でカッティングが一番自己表現できると気づいて。

マエジマ

篠さんにプロデュースしていただく前は、“みんなで歌を支えよう”って感じだったんですけど、篠さんから“どのパートも主役だから自由にやっていい”と教わって、そこから大きく変わりました。みんなが好き勝手にやって生まれたのが今回のアルバムって感じです。

今作を作るにあたって、もともと何かイメージしていたことはありました?

イブキ

特になかったです。逆に意図はしないようにしてました。でも、前作までの歌と今回の『ReBirth』の歌は、“誰に向かって歌うのか”という姿勢が変わりましたね。情けないけど、前作までは“自分はこんなにつらいんだ”って言っていたんだと気がついたんです。まりんちゃんが失踪した時、まりんちゃんのために曲を書いたら、誰かのために歌うのってこんなに美しいことなんだなと思って。

生きづらさを抱えている人に向けて歌っているのが今作ということでしょうか?

イブキ

そういう気持ちもあるんですけど、共感とか、限定した人にだけ聴いてほしいんじゃなくて、枠は決めずにどんな人にも聴いてもらいたいです。どこかに僕たち4人と似た人がいると思うし、僕は音楽を信じてるから。

Ulonの曲は明確なメッセージを投げかける感じではないですよね?

イブキ

そうですね。僕も“頑張れ”とか言われたくないタイプなので。

「世界の終わり」はイギリスのバンドのTravisのフラン・ヒーリィがMVを観て反応してくれたそうですが、どういう経緯でそうなったんでしょう?

うえの

私がMVを独断で勝手に公開しちゃって(笑)。MVでパイ投げをしたんですけど、それはTravisの「Sing」の影響なんです。私はTravisの大ファンだし、公開前に筋を通す意味でも本人にこのことを伝えたくて。フランが見てくれた時はすごく嬉しかったです。フランはこのMVを観てくれたあとも、例えば私が猫の写真をSNSに投稿したら“この美しい生き物は誰ですか?”とリプライを送ってくれたりします。

「世界の終わり」は孤独を望む気持ちと誰かと一緒にいたいと思う気持ちという相反する感情を描いていますよね?

イブキ

緊急事態宣言が出る前頃から曲が書けなくなってしまって。“曲を書くしかない”とは思ってたんですけど、全然書けなくて。だったら“歌詞が書けない”っていう歌詞を書こうと思って。どの曲も、わざと何も考えてないようにしてるんです。メッセージソングや、意図的に作られた歌詞って、どこかリアルじゃないから、歌を嘘にはしたくなかった。

明確な結論を見つけられないまま迷っている姿が、どの曲にも反映されていると思いました。だからこそ、我々リスナーがリアルなものとして感じるんだと思います。

イブキ

リアルな歌が歌いたいですね。人生も音楽も、答えなんてそんな簡単に出せるはずないと思ってるから。“Ulonの4人はこんな感じで生きてきたんだ”ってくらいでいいんです。リスナーもバンドも関係なく対等な関係でいたいし、嘘もカッコもつけたくないから、そのくらいラフな関係でいいのかなと思ってます。

うえの

カッコ悪いところも全部出せているのがUlonの曲の魅力なのかなと。

イブキ

自分にとって、日記みたいな感じなんだと思います。

「生きる意味なんて」も生々しいですね。生きる意味なんて見つけられないことを自然に肯定してくれる歌詞がすごく印象的です。

イブキ

これが、まりんちゃんが失踪した時に書いた曲です。

マエジマ

まりんが失踪した時にサポートメンバーを入れずに3人でライヴを続けて、戻ってくるのを待っていた時にできた曲ですね。

イブキ

まりんちゃんが喜んでくれればいいという気持ちだけで書いたんですけど、この曲がきっかけで“自分以外の誰かに向かけて歌う”ことの美しさを知りました。僕は“みんな”って呼びかけられても“自分はみんなじゃない”って思うタイプなので、“みんなに向けて”は歌いたくなくて。“全員に聴いてほしい”って気持ちはありつつも、“みんな”と言われても自分のこととは思わないような人にも届けばいいなと思っています。

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