関取花『新しい花』。作り手の充実を
感じる、溌剌としたメジャー1stフル
アルバム

 作り手の屈託のない笑顔が見える。朝このアルバムを聴くだけで、今日が良い日に変わる気がする。メジャーに移ってからはサウンドがくっきりとしていった印象で、素直なライティングでポップスに挑んでいるように感じる。前向きな言葉に迷いはなく、チアフルなバンドサウンドに乗って、彼女の伸びやかな声はどこまでも飛んでいきそうだ。今作の関取花はこれまでになく軽快で、それでいて力強い。
 彼女は自身のブログにて、「『私は私のままでいい、あなたはあなたのままでいい』というコンセプトを先に決めていた。これほど明確に伝えたいメッセージがあったのは初めて」と説明している。そうした意識が清々しいサウンドと、<あなたがあなたを愛せるような/明日は必ずやってくる>と歌う、「美しいひと」のような楽曲に繋がっていったのだろう。
 インディーズまでの音楽を大雑把に言い切ってしまうなら、卑屈な自分をどうポジティブに転換させるか、というのが彼女の音楽だったと思う。すなわち、その歌の背後にあるのは悲観である。そんな自分をいかに笑い飛ばし、日常をどう豊かにしていくのか、というのが関取花の歌だった。キャリア最高の名曲「もしも僕に」で歌われているように、隣の芝生は青く見えて仕方がないのである。
 昨年上梓したエッセイ集『どすこいな日々』や、多数のテレビ出演をはじめ、老若男女を楽しませる彼女のユーモアは、音楽の枠を越えて波及していっている。そうした様々な仕事の中で良い循環が生まれているのだろう。デビューから10年が経ち、まさしく充実の時を迎えているように思う。
 さて、そうした気持ちの良いアルバムに対し、最後に身も蓋もない事を言っておくと、それでも人生はそんなに楽ではないと思う。昨日がどんなにダメな1日でも、明日は素敵な瞬間が待っているかもしれない。だが、同時に今日がどんなに最良の1日でも、少し先にはどん底の未来が待っているかもしれないのだ。長い人生、きっとまた隣の芝生が青く見える日は来るだろう。でも、そんな時のためにこの歌はあるように思う。「あなたはあなたのままでいい」といういうことは、つまり「あなたのことを認める」ということであり、ここで言う「あなた」とは、これから困難にぶつかるかもしれないあなたのことだから。目一杯、人生を愛でるための1枚である。
黒田隆太朗


関取花『新しい花』



2021.03.03 Release

【CDのみ通常盤】
UMCK-1681
¥3,300

【初回生産限定盤BOX仕様】
UMCK-7091
¥4,180

1.新しい花
2.はなればなれ
3.恋の穴
4.ふたりのサンセット
5.あなたがいるから
6.逃避行
7.太陽の君に
8.まるで喜劇
9.女の子はそうやって
10.今をください
11.スローモーション
12.美しいひと
13.私の葬式(バンドver.)



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