関取花『新しい花』。作り手の充実を
感じる、溌剌としたメジャー1stフル
アルバム
つまり、「肯定する」という前向きさは、ずっと彼女の原動力としてあったものだと思う。その上で、眼差しが他者へと向いてきたのが今作の変化なのだろう。そうした気持ちのあり方は、彼女が書く言葉はもちろん、溌剌としたサウンドに表れている。メジャーデビュー以降の数作で、亀田誠治やトオミヨウ、野村陽一郎といった、日本のポップシーンの前線で活躍するプロデューサーと仕事をした経験も大きいのだろう。上記の面々が担当した楽曲はもちろん(本作では「太陽の君に」を亀田誠治、「今をください」をトオミヨウ、「逃避行」と「スローモーション」を野村陽一郎がプロデュース)、関取花自身がアレンジを担当したその他の楽曲も、総じて音の輪郭は明瞭で、作品を通して広がりを感じさせるアレンジになっている。ライブや制作を共にしてきたプレイヤー陣との信頼関係も大きいはずで、幅広い層のリスナーへと向かっていくような開けたサウンドが印象的だ。
表題曲や既発曲の「太陽の君に」をはじめ、「恋の穴」、「女の子はそうやって」、「スローモーション」と、いつにも増して佳曲の多いアルバムである。中でも惹かれるのが「はなればなれ」で、歌の主人公は別々の道を行く友人(と私は解釈しているが、恋人かもしれない)との別れに、寂寞の念を感じている。が、背中を押すように刻まれるBPM150ほどの力強いバスドラと、健やかな未来を予感させるフルートやチェロの音色からは、新しい場所へと進んでいく者への行け!というエールを感じずにはいられない。
「美しいひと」のようなストレートな歌詞も素敵だが、情景の浮かぶ歌詞の中に、言外のメッセージを込めるところに彼女の作家性があると思う。また、『ただの思い出にならないように』の「彗星」がそうであるように、実はテンポの速い曲を書くことに長けている作家である。はやる気持ちを描くことが上手いというか、思わず駆け出してしまうような楽曲も彼女の魅力のひとつである。