THE STAR CLUB、亜無亜危異らが
出演した奈良美智の
還暦ライヴをレポート!
『N's 60 -YOSHITOMO NARA 60th BIRTHDAY PARTY-』
『オハラ☆ブレイク'20秋
-北のまほろばを行く-』
ダイジェスト映像
『N's 60 -YOSHITOMO NARA
60th BIRTHDAY PARTY-』
ライヴレポート
“こんなにロックを愛した画家、こんなにロックに愛された画家はいない!”
公私共に仲が良く、近しい関係性である怒髪天の増子直純に、そう言わしめる奈良美智は、間違いなく心底ロック人間なのだと思う。そんな真っ直ぐ自らの想いを貫く奈良の生き方に、多くのアーティストは共感し、奈良美智という人間を深く愛するようになるのだろう。還暦、という人生の一つの節目を迎えた奈良は、その生き方を更に突き詰め、より自由に、よりロックに生きている様に感じる。
2019年12月5日。この日の東京・LIQUIDROOMはいつものそことは少し違っていた。ライヴハウスのスケジュールに記載されていたアーティストは、亜無亜危異、KENZI&THE TRIPS、ザ50回転ズ、少年ナイフ、曽我部恵一、noodles、Rei。そして、総合司会として増子直純(怒髪天)。音楽ジャンルで括られたイベント、という印象ではないアーティスト達の集結だが、ジャンルは違えど、そこに集まったアーティストが放つ空気感は、何処か同じ温度や匂いを放っている気がした。
近年、対バンやフェスの集客が思わしくなく、ブッキングに苦戦するという話をよく耳にしているのだが、この日のチケットは発売した瞬間にソールドアウト。更に驚いたことに、チケット発売時には、出演アーティストの発表は無かったのだという。どんなアーティストが出演するかも分からぬままライヴがソールドアウトするとは前代未聞。チケット発売時に告知されていたのは、『N's 60 -YOSHITOMO NARA 60th BIRTHDAY PARTY-』というタイトルのみだったのだと言う。そもそもこのイベントライヴの発足というのは、奈良のスタッフや関係者が、奈良の還暦を祝うために立ち上げた企画であり、“奈良の誕生日を祝うための時間”であったことから、奈良本人には知らされていない出演アーティストも居たのである。
“開場します!”のスタッフの声を合図に、奈良は自らが選曲した会場SEを、PA卓後ろに拵えたヤードから流し始めた。ちょうど客入れの時間にかかる30分に合わせて組み立てたSEは、奈良オススメのロックが詰め込まれていた。『N's 60 -YOSHITOMO NARA 60th BIRTHDAY PARTY-』をテーマに奈良が描いたバックドロップと、同じく『N's 60〜』をテーマとした赤のTシャツに身を包んだスタッフ達がオーディエンスを誘った。奈良も赤のスタッフTシャツに身を包み、オーディエンスをフロアに招き入れる姿は、彼の個展へのこだわりと近い温度を感じた。
「今日は奈良さん、内容知らされてないんですよね。もうね、すごいですよ、今日は。奈良さんの好きなものばかり!」(増子)
「本当!? もうねぇ、本当に嬉しいなぁ。早く始めて欲しい!」(奈良)
この日の公演は転換中も実に無駄がなく、幕間の時間を使い、ステージ下手に設けられたサブステージで、多くのアーティストから奈良への誕生日メッセージが『ビデオメッセージ』という形で届けられていったのだ。
あがた森魚、浅井健一、亜無亜危異、ウエノコウジ、大友良英、ザ50回転ズ、佐々木亮介、少年ナイフのNaoko、菅真良、曽我部恵一、 TOSHI-LOW、怒髪天、仲井戸麗市、中田英寿、noodles、畠山美由紀、 HIKAGE、松本大洋、宮﨑あおい、村上隆、箭内道彦、ヤマジカズヒデ、山中さわお、Rei、若林良三、ワタナベイビー、百々和宏、 ROCK'N'ROLL GYPSIES、大江慎也、吉本ばなな。錚々たる顔ぶれから寄せられた言葉は、どれもあたたかく、奈良への信頼の深さを、改めて感じさせられるものだった。
アコギを抱きかかえるように構え、ギターのボディをタップしながら、力強く弦を弾き、太めな音でグルーヴィなサウンドを生み出していくRei。あどけなさが残る華奢な彼女から、ブルーズのルーツを感じさせる本格的なサウンドと唄が発せられると、フロアに集まったオーディエンスは、言葉を失ったかのように静まり返った。圧倒、と言う言葉がそのまま景色としてそこに生まれていた。“奈良さんって、こんな人なんじゃないかなって思った曲があるので、やってみようと思います”Reiが届けたのは、セックスピストルズの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」。“アナーキーストになりたいんだ”と叫ばれるパンクロックの代表曲を、Reiは静かにつま弾いたギターの伴奏に唄を乗せて歌った。
4歳で渡米し、英語も日本語も上手く話せず苦悩した中で、いつしかギターを抱えていたという彼女が確立させた独自な音楽スタイルにも、強いアナーキスト(無政府主義者)を感じさせられた。奈良の画集を買い集め、大切に持っていたというReiが、奈良の絵や言葉に「アナーキー・イン・ザ・U.K.」を重ねたのは、そんな奈良の生き方を尊敬し、憧れたからに違いない。Reiの唄には、そんな力が漲っていた。この日初めて彼女のステージを観たオーディエンスも多かったと思うが、自然発生した客席に広がったクラップが最高の景色を描き出すなど、彼女がステージを後にしたときには、その場に居たオーディエンスの全ての心を鷲掴みにしていたと確信できた、素晴らしいライヴだった。
「I'm not chic」というタイトルからして、どこか共通点を感じてしまう、奈良美智とnoodlesのサウンド。低音が心地良く這う「I'm not chic」のサウンドの仄暗さは、静かに水の中に沈み、水面から顔を覗かせる、奈良が描く少女の絵に似ている気がしてならなかった。どこかもの悲しく、刹那的で。不思議な懐かしさが漂う「Ruby ground」は、どうしようもなく愛おしい時間だった。
yokoはMCで奈良がラジオでnoodlesの曲をかけてくれたことを語り、その曲を今日、ここでやる為に練習してきたと告げ、「NO FAN.」を届けた。15年前に、奈良が選んでかけた曲を、奈良の誕生日ライヴで直接本人に贈るとは、なんとも胸が熱くなる。客席の下手側の後方から、一瞬たりとも目を離さずにライヴを見守っていた奈良は、心底幸せそうな笑顔でその曲を受け取っていた。抜け切らないキャッチーさが魅力のルーズなロック「NO FAN.」。温度も質感も落ち着く肌触り感も、やはり奈良の描く絵と共通する心地良さを感じる。15年前に奈良がラジオでかけたことをきっかけに繋がった縁が、こんな形で相思相愛の関係になるとは。音楽という力の素晴らしさを深く感じ取った瞬間となった。
奈良の名前を歌詞に入れ込みながら届けられた百々の歌うTHE ROOSTERSに、奈良は客席で大盛り上がり。その姿は、百々の言う通り、まさしく、誇らしいほどの“精神年齢6歳の大人気ない大人”であった。
増子も、2人のコメントを受け、“奈良さんの好きなところは、大人気ないところ! 本当に大人気ない。本当に無邪気! そんなところが大好きです!”と奈良への愛を改めて告白。その言葉に会場からは大きな歓声と拍手が沸き起こっていたのだった。
“しかし、あのオッさんも、もう60になったんか! とはいえ、フロアのみなさんも妙齢のご婦人と叔父様ばかりで。俺たち出演者の中でも、こう見えて一番若手でございます! 俺たちが出演者の平均年齢を下げることなど、ここ最近なかなかございません! それだけでも、今日、ここに出られて良かったなと思っております!”と、ダニーならではのシニカルな愛情表現で会場を盛り上げた。この盛り上げ方が出来るのも、奈良との信頼関係の深さがあってこそ。奈良も自らのラジオで、2時間ずっとザ50回転ズの曲ばかりをかけ続けたことがあるほど、彼らを愛しているのだ。そこに見える関係性の深さも、オーディエンスにとっては嬉しいものなのである。
彼らと奈良の直接的な出逢いは2016年。ニューヨークでザ50回転ズがライヴをやったとき、奈良もニューヨークに滞在していることを知ったダニーが、“奈良さん、ライヴ来てくださ〜い!”と呟いたところ、“行く行く〜!”という返信があり、そこが出逢いとなったという。ダニーはそのときのことをMCで語り、“やはりこの返し、6歳に違いない! 子供は友達が出来やすい!”と、さらに煽り、フロアを盛り上げた。この日聴いた、人生を変えるほどの強い出会いの力を感じさせる「vinyl change the world」が、特別に胸に響いたのは、ザ50回転ズと奈良美智が作ってくれたこの時間のおかげだ。この特別な感動は、ロックンロールと彼らの出逢いと、ロックンロールが繋げた奈良との出逢いが、彼らにとって大きな運命だったと感じさせてくれたからだろう。若い頃は、どんなに小さなことにも大きな感動を受けていたものだが、長く生きて来た今、なかなか純粋に涙が込み上げてくる瞬間を貰えることがなくなっている中で、胸を締め付けられる抑えきれない感動が込み上げて来たこの瞬間に立ち会えたことに深く感謝した。
集客を第一に考えて集められたアーティストが集結するイベントライヴではなく、全アーティストが持ち時間15分の為に集まり、全力で奈良の為に音を放っていた、特別な意味のあるライヴだからこそ、呼び起こされた感動の数々がそこにはあった。
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サプライズゲストに、奈良も大興奮の後半戦アーティスト
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