【THE COLLECTORS インタビュー】
その時その時のリアルなことを
歌うのがロックンロール
L→R 古沢”cozi”岳之(Dr)、山森“JEFF”正之(Ba)、古市コータロー(Gu)、加藤ひさし(Vo)
ロックンロールの“誇り”が高らかに、そして軽やかな重みを湛えて鳴り響くアルバム『別世界旅行 ~A Trip in Any Other World~』。2020年の世界の事象を真正面からとらえて歌う真摯なメッセージを、ブリティッシュロックのモダンさを進化させたサウンドに乗せ、深い霧や闇、得体の知れない魔物たちにロケットギターでとどめを刺す。音楽ファン必聴の本作について加藤ひさし(Vo)に訊いた。
イメージしていたことを
全部白紙に戻した
最高のロックンロールアルバムですね!
自分でもね、まったく予想しないアルバムができちゃったんですよ。やっぱりコロナが世の中を変えすぎちゃって、みんな右往左往してたじゃないですか。だから、全部が人ごとのように動いて。未だにアルバムを作り終えた感じがしないどころか、作り始めた感じがないんです(笑)。でも、レコーディングが終わって聴いてみたら、“これ、近作の中で一番いいんじゃないの!?”っていう気持ちになりました。
“作り始めた感じがない”とおっしゃいましたが、導入部はあるわけですよね。
うん。昨年からプランは立てていました。俺が還暦になるっていうのがあったので、なんとなく“還暦に向けたメッセージが入るアルバムになるんだよな”って自分の中では思ってて。“29歳の時に書いた「...30...」(1990年4月発表のアルバム『PICTURESQUE COLLECTOR’S LAND〜幻想王国(まぼろしのくに)のコレクターズ〜』収録曲)って曲があるから、そのアンサーソングで60歳になる歌も書かなきゃ”みたいな。で、曲はどんどん書いてたんですけど、年を跨いだらいきなりコロナ禍になっちゃって。だから、もともと9月にリリースする予定にしていたのを2カ月ずらしたんですよ。とにかくいろんなものが流動的すぎたので、始まったような気がしないし、終わったような気もしないっていう。
探り探りっていう感じですか?
そう。だから、例えば1曲目に入っている「お願いマーシー」も本当は還暦に向けた自分の歌にしようと思って書いていたんですけど、“そんな歌、今は必要ねぇな”と思って。それで、2020年を色濃く表したアルバムにしようってシフトチェンジして、イメージしていたことを全部白紙に戻したんです。
“それが功を奏した”という言い方は適切じゃないかもしれませんが、実際にマーシー(ザ・クロマニヨンズの真島昌利)さんを招いた歌が生まれて。
そこは閃きとしては良かったですね。ライヴハウスもクラブも閉まっちゃって、ただ家で音楽を聴いているしかないイライラした感じを何かにぶつけようと思った時に、身近にいるマーシーが浮かんだんで、“ザ・クロマニヨンズのファンが毎日そればかり聴いて過ごす主人公の歌があってもいいな”と思ったんです。で、マーシーに電話して。
《ぼくの部屋をモッシュピットに変えて》とか、まさにずっとみんなそんな感じですしね。
こういう状況じゃなかったら、この歌は生まれなかった…そこは正しいロックンロールの作り方をしたと自分でも思ってます。その時その時のリアルなことを歌うのがロックンロールじゃないですか。戦争が起これば反戦歌を歌うし、原発が爆発すれば原発反対を歌う…“それがロックなんだ”って今でも思ってるからね。The BeatlesやThe Who、The Rolling Stonesもそうだったし。
リアルなことを歌う…だから、としまえんも歌っちゃうという。
ちょっと間違うと、♪伊東に行くならハトヤ〜みたいになっちゃうんで、スタッフの顔色をうかがいながらね(笑)。でも、プロデューサーの吉田 仁さんに“こんな曲ができちゃったんですけど、歌っていいですか? 《信号曲がればとしまえん そこは夢の国》って”と歌った時のみんなの爆笑ぶりにOKだと思った。コータローくんからは“本当にいいの?”って言われたけど。でも、やっぱり歌って掴みじゃないですか。それは本当に大事だから。
“掴み”ということでは、頭3曲での掴み方はすごいです。
そうなんですよ。冒頭の3曲でイッちゃうアルバムです、これは。「全部やれ!」はすごい上から目線の歌ですけどね。“悩みたくないんだったら全部やれよ”っていう。でも、それしかないですもんね。
あのリフで畳みかけるように言われると、“おっしゃる通りです!”ってなりますよ。
“全部やらせてもらいます!”みたいなね。この曲は緊急事態宣言が出たくらいの頃に出来上がったんですけど、それとは別に“No Way Out”ってタイトルの歌詞もあったんですよ。コロナを意識した“どこにも俺たちは逃げられない”って内容で。それだとみんなが暗い気持ちになるってことで、“悩みが渦巻いているけどやるしかねぇ!”という歌に決めました。
で、ここから3曲目の「ダ・ヴィンチ オペラ」への流れが素晴らしくて。この曲は加藤さんにしか書けないです。
これは傑作すぎてねぇ。あまりにも良くできちゃったんで、この曲は外そうと思ったの。で、次のアルバムは「ダ・ヴィンチ オペラ」をテーマにしたロックオペラにしようと思ったんですよ。でも、この曲を抜いたら今回のアルバムが薄くなってしまうんで、結局入れるでことにしたんです。
入って良かったです。こういう曲があることで“コレクターズを聴いてるんだ!”ってすごく感じられるんで。
絶対にそうですよね。コレクターズじゃなきゃできない曲ですもんね。
サビの《筆を取れ》からのメッセージも美しくて力強いし。
そこで言いたかったのは、“モナリザも始まりはひとつの小さな点”ということで。その点の時はそれがモナリザになるなんて誰も思いもしないじゃないですか。でも、信念を持って最後まで描いたら、世界中が絶賛するものになる。“今、君が筆を置いているところはひとつの点だから、周りに否定されても最後までやり遂げろ!”っていうメッセージ。最後はモナリザになるかもしれないじゃない。悩んでいる人たち…もちろん自分にも、エールを送る歌にしたかったんです。
このロックオペラ調のサウンドともつながるんですが、「旅立ちの讃歌」でのストリングサウンドも加藤さんらしくて。良き時代のイギリスの香りがします。
まさにそうですね。60年代後半から70年代前半のありとあらゆるブリティッシュバンドがやっていた…もうね、あれは永遠に好きっていうか。アレンジをお願いした長谷川智樹さんが、あのロイヤルな感じをかなり研究している人で、俺の趣向もよく分かってるんですよ。“じゃあ、最後はPink Floydの「原子心母」みたいにコーラスを入れよう”とか、そんな感じで楽しくできました。
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