鈴木慶一がその才能を
満天下に示した歴史的傑作アルバム
『火の玉ボーイ』
鈴木慶一という音楽の巨人
だからと言って、本稿は鈴木慶一を貶めるものでないことを予めお断りしておくが、氏と同世代…というか、同時期に本格的に音楽活動を始めたアーティストたちと比較すると、そのコントラストがはっきりするように思う。例えば、鈴木慶一がはちみつぱいを結成した1970年にバンド名を改名したはっぴいえんど。はっぴいえんど自体を知らなくとも、大滝詠一や細野晴臣らが在籍していたバンドと聞けばピンとくる人もいるだろうし、仮にはっぴいえんども大滝も細野も知らずとも、松田聖子のヒット曲を手掛けた…と言えば“あぁ〜”となる人もいるだろう。はちみつぱいと同時期に音楽活動をスタートしたシュガー・ベイブについても、それと似たようなところがある気がする。シュガー・ベイブを知らなくても、山下達郎と大貫妙子が在籍していたバンドと説明すれば多くの人が“へぇ、そうなの!?”くらいの反応は出るはずだ。しかしながら、鈴木慶一の場合、それらとは若干趣が異なるように思う。
端的に言えば、ソロにしても、バンドにしても、ユニットにしても、誰もが知るようなヒット曲がないということになる。ここでもう一度言うが、だからと言って、氏が上記アーティストと比べてどうだとかと言いたいのではない。鈴木慶一を軽んじる気持ちはさらさらない。むしろ逆である。はちみつぱいと言っても、今は“何それ? 美味しそう!”といった反応が出ても何ら不思議ではない中、そのはちみつぱいの結成から50余年。誰もが知るようなヒット曲がないにも関わらず、ソロは基より、バンド、各種ユニットで現在まで途切れることなく活動を継続しているというのは、これは偉業と言うべきだろう。
劇伴やプロデュース作も多数
さらに音楽プロデューサーとしても数多くのアーティストの作品を世に送り出していることも忘れてはならない。野宮真貴、杏里、ISSAY、渡辺美奈代、桐島かれん、cali≠gariらの作品をプロデュース。最も有名なところは原田知世だろうか。彼女のアルバム『GARDEN』(1992年)、『Egg Shell』(1995年)、『clover』(1996年)が氏が手掛けたものだ。この三部作は原田知世がアイドル女優から本格派シンガーへと進化するにあたって重要な作品であり、シンガー・原田知世にとって鈴木慶一は相当に大きな存在であったことは間違いない。
ここで話を鈴木慶一自身の活動に戻すが、そうした他者作品への参加に加えて、氏はさまざまなバンド、ユニットを結成してきた。バンドは、本稿冒頭から何度も話に差し込んだ、はちみつぱい(1971年頃結成)、ムーンライダーズ(1975年結成)がそうだし、ユニットとしては高橋幸宏とのコンビによるTHE BEATNIK(1981年結成)をはじめ、実弟の鈴木博文とのTHE SUZUKI、矢野顕子、大貫妙子、奥田民生、宮沢和史とのBeautiful Songs、PANTAとのP.K.O.、ケラリーノ・サンドロヴィッチ=KERAとはNo Lie Senseの他、秩父山バンドを組んでいるなど、本当に数多くのアーティストとコラボレーションを重ねている。ムーンライダーズは活動休止中で現在、氏のバンドとしての動きはないものの、2018年にTHE BEATNIKで5thアルバム『EXITENTIALIST A XIE XIE』を発表。そして、2020年7月にNo Lie Senseが3rdアルバム『駄々録~Dadalogue』をリリースしたのは前述の通りで、まだまだ現役なのはもちろんのこと、いくつかのプロジェクトを(五月雨式ではあるが)同時進行させているのである。
…と、ここまで書けば、鈴木慶一の名前を聞いてピンとこない方でも、氏の音楽に対する熱量やシーンにおける功績を少しは分かっていただけると思う。これだけの活動を50年以上に渡って継続しているだけでも相当にすごいことである。バンド、ユニット、プロデュース、他者作品への参加と変化自在なスタイルは、それだけ氏を欲する人たちが絶えない証左であろう。確かに誰もが知るようなヒット曲に恵まれたわけではないけれども、それは逆に言えば、変に大衆に迎合してこなかったからでもあると考えられるし、それでいてメジャーシーンに居続けているというのは、どう考えてもすごいことだと言わざるを得ない。鈴木慶一は“音楽シーンの巨人”である。今日はこれだけでも覚えて帰ってほしい。
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ティン・パン・アレイも参加アーティスト
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