【コブクロ インタビュー】
真っ白な状態から作りたい歌を
ふたりで作った

L→R 黒田俊介、小渕健太郎

31枚目のシングル「卒業」は小渕健太郎と黒田俊介の共作で、卒業式の新たな定番ソングになるであろう珠玉のバラードに仕上がっている。カップリングに収録の杉並児童合唱団による合唱バージョン、大阪マラソンの新公式テーマソング「大阪SOUL」を含め、ふたりにじっくりと話を訊いた。

卒業して20年以上の僕らが作るなら
両方からの視点を持つ歌が
いいなと思った

表題曲の「卒業」はものすごくシンプルかつストレートな題材ですけど、このテーマで楽曲を作ることになったのはどういうところが始まりでしたか?

小渕

昨年、結成20周年の長い全国ツアーが終わったあとに1週間くらい時間をもらって、僕らとスタッフ何人かでニューヨークに行ってミュージカルやライヴを観たりする機会があったんですよ。半分遊びで半分撮影も入れながら、次にどんな音楽がやりたいかを話す機会もあったりして。もし、このエンターテイメントの中心地で自分たちがストリートミュージシャンから始めてたら、いったいどれだけのことをやらないといけなかったんだろうとか。新鮮な感覚を味わいながら、次に目指すところに対して矢を刺していく気持ちがどんどん芽生えてきたんです。そんな中、これまでは何かのタイアップのために曲を作ることが多かったんですけど、久しぶりに全て真っ白な状態からふたりだけで作りたい歌を作ろうっていうのがポンと浮かんで。曲作りを始めていった結果、生まれたのが「卒業」なんです。

黒田

“春の曲”みたいなテーマさえなかったもんね。本当に何もない中で作ったので、出すのはもう少し先でも良かった。ただ、小渕が“卒業”っていうワードを投げてきたから春のリリースになって、それで前倒しにしたんですよ。2カ月くらい早なったよな?

小渕

うん。もともとは“4月か5月あたりに何か出そうか?”って言ってたね。

黒田

でも、“卒業!? ほんなら、もっと最短でやろう!”っていう話になったんです。

コブクロには今や国語の教科書にも掲載されてる「桜」(2005年11月発表のシングル)だったり、「YELL~エール~」(2001年3月発表のシングル)といった春の歌があるので、ここに来てさらにこういう曲が生まれてくるのは意外でした。

小渕

“「桜」で卒業式を迎えました”と言ってくださる人たちが5年とか10年とか前にたくさんいらっしゃって。今はその方々が社会に出て…例えばミュージックビデオを制作してるカメラマンさんから“卒業のタイミングで「蕾」(2007年3月発表のシングル)を歌いました”という話を聞いたり、いろんなことが一周した気持ちもある中で、「桜」も「蕾」も卒業式のために作ったわけではないから、“卒業”って言葉はひと言も入ってないんですよね。それでもこんなに歌ってきてもらった。“じゃあ、思い切って卒業にスポットを当てて曲を作ったらどうなるんだろう”って自分たちでも楽しみになったんです。卒業式で流れた音楽や歌った歌は、僕にとっても人生におけるハイライト、忘れられない曲のひとつなので、長く歌ってもらってこその、いつか思い出になるような曲を目指して作りました。

よりストレートなテーマゆえの難しさはありましたか?

小渕

ありました。過去の卒業にまつわる名曲、アーティストが歌ってない学校唱歌みたいなものも引っくるめていろんなものを聴きましたよ。そこで気付いたのは、卒業の歌って主人公一人称から見た目線の楽曲がほとんどだってこと。“今から卒業するよ。ここを旅立つよ”っていう日の瞬間を書いてる。もちろんそれも素敵なんですけど、卒業して20年以上経ってる僕らが作るなら、卒業が人生においてどんなポジションとして残っていくものなのか…いつでも戻りたくなるあの学生時代やみんなと旅立った記憶に僕は何度も力をもらったので、ちゃんと時を経てそこを眺めてる想いも入った、両方からの視点を持つ歌があったらいいなって思ったんです。歌詞にあるような《喧嘩の理由が君の優しさだったと 気付けなかった》とか、大人になって振り返ってみてしみじみ感じること、後悔も含めて、学生時代の淡い思い出をいつまでも大切にしてる。その記憶を歌に閉じ込めたいなって。

そんな「卒業」ですが、おふたりの共作だそうですね。

小渕

僕が行きそうじゃない方向のメロディーを黒田が提案してくれたのが大きかったですね。“このコードでこっちなの!?”みたいなびっくりする音階を言ってくるんですけど、回数を重ねると“あっ、絶対こっちのほうがいいわ”ってなったり。僕は歌詞にしても何かと詰め込みすぎちゃうんですよ。そうすると黒田が“いやいやいや、ここはホームランをバコーン!と打つような伸びのあるメロディーがええやろ”と。それは歌い手だからこそ分かる部分だと思うんですよね。ライヴの会場に溶け込んでいく瞬間の旨味を分かってるというか。その駆け引きが今回むちゃくちゃ楽しくて、“一生この作り方にしようかな。今まで何やってたんやろ”くらいの気付きがありました(笑)。“そう言えば、結成当初はこうやって作ってたよな”って。

黒田

サビの《今 消えてゆく》の部分とかな。ここの“く”は6拍伸ばすんですけど、伸ばさんといっぱい言葉を入れようとしてたな。せやから“待て待て待て!”と。

小渕

今のかたちになって良かったです。1番と2番で終わりっていうシンプルな構成もいいと思うし。まずは僕らがずっと歌っていきたい想いがあるので。

1番と2番のサビが同じ歌詞なのが印象的でした。

小渕

2番のAメロとBメロの歌詞を経て、1番と同じサビをまた聴いた時、なんでか分からないですけど、僕は違う景色が浮かぶんです。《今 消えてゆく この風景》が短い中でもう変わってる感覚がある。こういうのが音楽を作ってていつも面白いなって思うところですね。

2番からストリングスが入ってきたり、展開も独特の味わいがあって。

小渕

終わりに向かってゆっくりゆっくり締めていく感じも気に入ってます。ストリングスのアレンジは僕たちの元プロデューサーでもある笹路正徳さんにやっていただいたんですけど、“最後の《歩いて つまづいて》のあとに弦が見え隠れするのは、ここでひとつずつ思い出が浮かぶのをイメージしたんだよ”って言われて。で、最後の一音で集合写真がバーン!って見えるようなアレンジになってるんです。“うわぁ、そこまで考えてやってくれたんだ”って感激しましたね。アレンジもバンドでやってみたり、かなり試行錯誤しましたが、僕らのバンドメンバーの松浦基悦さんがスルッと全部を弾いてくれた時、その素晴らしさに涙が出そうでした。

黒田

アレンジは曲を作りながら決めていく感じやったな。最大に足してるバージョンと最小にしたバージョンとやってみたんですけど、このかたちに落ち着きました。ギターもなかなか出てこないし、ほんまにいろいろ試して。

《消えてゆく》《気付けなかった》とサビで否定的と取れなくもない、ある種の厳しさを感じさせる言葉を多く使いながら、それでもじんわりと温かみを出せるのもすごいなと思いました。

小渕

あぁ、確かにそうですね! ポジティブな言葉を並べてなかった。それは意外と気付いてなかったです(笑)。

黒田

マネージャーやスタッフに初めて聴いてもらって“すごい曲ができましたね!”って言ってもらった時、“えっ、そうなの?”と思ったりもしました。僕らはただただナチュラルに作っただけなので。ほんで“大至急リリースしましょう!”って話になって。

小渕

合唱バージョンを別で作ってみて、先にそれをリリースしたり。

「卒業~合唱~」を聴くと本当にいい曲だというのは、自分たちでも客観的に思えたのでは?

小渕

それは思いました。合唱バージョンを先に作ったんじゃないかってくらいの完成度になりましたから(笑)。

黒田

だから、すっごい違和感あんねん。違和感というか、“そうなるんや!?”みたいな驚きね。僕らの音源よりも先に別バージョンが出るのも初の試みやし。

小渕

ファンのみなさんは「卒業~合唱~」を聴き込んだあとに、やっと黒田の歌が聴ける流れなので、より楽しみにしてくれてたみたいで。

黒田

いっそ僕らのバージョンも合唱とまったく同じ歌い方にしたろかなって思いました。“黒田、合唱のほうに引っ張られてるやん!”みたいな(笑)。

小渕

オリジナルバージョンをリリースできるのが、配信の最速でも2月中旬やったんですよ。卒業式まであと2週間くらいしかない状況で、合唱ならもう少し早く出せるってなって。このメロディーと歌詞を少しでも早く世の中に落としたかったし、すでに学校で歌ってくれたところもあるらしくて、結果的にやってみて良かったです。

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