【NakamuraEmi インタビュー】
泣いて、笑って、戦って、
瞬時に変わる、
ややこしい化け物——その名は“女”

NakamuraEmi

アルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6』のリリースから、わずか3カ月。早くも届いたシングル「ばけもの」はNHK(総合)ドラマ10『ミストレス〜女たちの秘密〜』の主題歌としてオンエア中だ。“人には言えない秘密”を抱えながら生き抜く女たちの強さ、弱さ、そしてしたたかさをパワフルに歌い上げる。

感情の浮き沈みや変化の激しさって
女性特有のものだと思う

今作の「ばけもの」はNHK(総合)ドラマ10『ミストレス〜女たちの秘密〜』の主題歌ですが、“今、日本の女性の気持ちを歌うならNakamuraEmiしかない!”という制作サイドからの熱いオファーがあったそうですね。

もう、すっごく嬉しかったです。原作になったイギリスのドラマを観させていただいたら、4人の女性に他人には言えないような出来事が次々と降りかかってきて、“こんなヘヴィなドラマをやるんだ!?”って驚いたんですよ。独身者、既婚者、不倫、同性愛…いろんなキャラクターがいて、共感できるところもあれば、自分とはまったく違う生き方をしている人物もいるから、それぞれの心の中を覗き見てるみたいで、すごく面白かったですね。特に“女性”をテーマにしたアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6』を作り終えたところだったから、ドラマを観ていても“あれ? ここはあの曲にリンクするな”って思うことの連続だったんですよ。

さまざまな女性の境遇や感情が描かれたアルバムでしたから、それこそ『ミストレス〜女たちの秘密〜』のイメージアルバムとしてとらえてもいいくらい?

ほんとに! 4人で女子会をしてるシーンには「女の友情」とかぴったりだし、“悲しいシーンだったらあの曲使える!”とか。それくらい女性について出し切ったあとだったから、新たに主題歌を作るとなって、最初はどうしようか迷ったんですね。ただ、ドラマの目まぐるしいストーリー展開の中で、登場人物たちも嘘をついたり、葛藤したりしながら進んでいく、そういった感情の浮き沈みや変化の激しさって、女性特有のものなんじゃないかと思ったんです。

それでシングルの資料にも“女性から見える毎日は、どんぐり位の些細な出来事もスイカ位大きく見えてしまう”と。

そうです(笑)。男性だったら気にしないようなことでも、傷付いちゃったりする。だから、切り替えも早くて、どんどん変わっていくってところから、タイトルに“ばけもの”と付けたんですよ。カタカナにしたり、英語にしたり。みんなでいろいろ考えた結果、ひらがなだといろんな想像を膨らませられるってことになったんです。

童謡的なかわいらしさや、日本の原風景のような懐かしさも感じられますよね。そこで気になったのが1番のラストに出てくる《勘違いした私は ややこしい鍵を自分にかけた》というフレーズなんですが、この“勘違い”というのは?

あぁ…いろんなものを乗り越えて強くなったり、我慢したりすることが正解だと信じることですかね。そうやってひとりで頑張っていったら、周りから誰もいなくなっちゃったり、弱音を吐かず、弱さを見せない自分を美化しようとすればするほど、何が本当なのか分かんなくなったり。結果、どんどん自分が面倒臭い人になってたなぁ…って感じることが、今でもあるんですよ。

なるほど。それで2番には《女を生き抜くために 弱さを丸めて捨てたけど 残念ながらその弱さ 私らしさでもありました》と歌っているんですね。

はい、そうです。そこも最初は“弱さに鍵をかけちゃったけど”と書いていたんです。でも、それだと1番の“ややこしい鍵”と被って混乱してしまうという意見を、共同で作詞したカワムラヒロシさんからいただいたんです。カワムラさんとは今までも一緒に楽曲制作をしてきたとはいえ、共作詞は今回が初めてだったんですよ。今までずっと自分の想いだけを書いてきたけど、『ミストレス〜女たちの秘密〜』は4人の女性がいるわけだから、その4人の価値観に自分の価値観、そしてそれを観る女性のみなさん、男性のみなさんのことを考えた時に、他の方々の意見とともに歌詞を組み立ててみたらどうなるんだろうと思ったんです。

自分だけでなく第三者の視点も取り入れたいというのは、アーティストとしてひとつの転換点に来ているのかも。

…来てるんですかね?(笑) 確かにアルバム以降、頑張るだけの女性像から少しずつ広げていけたのは、カワムラさんとかマネージャーさんから“頑張れ!”ばっかりじゃなく、“もっと頑張ってる自分を認めてあげてもいいんじゃないか”っていう言葉をもらえたからだったりしますね。あと、いろんな女性のお客さんからいただいたお手紙を読むと、みなさん“こんな経験してるの!?”と驚くようなハードな人生を送られていたりするんですよ。それを知った時に“あぁ、みんな一緒なんだな”と。きっとみんなも家に帰ったら、きれいなだけじゃない想いや生活があると気付かせてもらえたからなんです。

「ばけもの」の歌詞は、まさにそこを描写してますもんね。我慢だけが美徳じゃないし、時には煩わしさから解放されたっていい。結局“自分を幸せにできるのは自分”というラストの結論にはグッときました。

恋愛に限らず、全ての人間関係だったり…むしろ、相手が人じゃなくても“どうしてこんな嫌な目に遭うの?”って思うことは頻繁にあるじゃないですか。それに対して最初は怒っていたけど、例えば見知らぬ人に怒鳴られたとしたら、その人にそう言わせる何かが私にあったからなのかもしれないっていうふうに考えるうちに、ひとつ答えが出てきたんです。とはいえ、まだまだ私は人に恵まれているので、自分の悪いところや嫌なところだけが目立って…。まだ自分で自分を幸せにすることはできていないからこそ、自分を認めてあげたり、大事にするっていうことを、あのアルバムで自分に言い聞かせていたんですよね。

いや、周りの人に恵まれてるというのは、間違いなくご自身の徳のおかげですよ。

そうだったらいいんですけど…じゃあ、そういうことにしときます!(笑)。

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