【androp インタビュー】
“人を愛する”という
普遍的なところを
楽曲に落とし込みたかった
L→R 前田恭介(Ba)、内澤崇仁(Vo&Gu)、佐藤拓也(Gu&Key)、伊藤彬彦(Dr)
結成10周年イヤーを迎えたandropから届いた第一弾作「Koi」は、映画『九月の恋に出会うまで』の主題歌として書き下ろされたもの。誰も何も替えの利くものはない——純愛ストーリーに後押しされたという内澤崇仁(Vo&Gu)の哲学に裏打ちされた、andropらしい誠実さの滲む名バラードだ。
今まで数多くのラヴソングを発表してきたandropですが、この「Koi」はメロディーも歌詞も凄まじく普遍的で、そのぶんインパクトの強い本物の“名曲”ですね。
内澤
ありがとうございます。映画『九月の恋と出会うまで』の主題歌のお話をいただいた当初は、実は苦労すると思ったんですよ。ちょうどアルバム『daily』(2018年12月発表の5thミニアルバム)の制作を決めた直後で、ツアーも始まっている中、すぐにデモを提出しないといけなかったので。ところが原作の小説を読み、映画を観てエンドロールが流れた時、もうこの曲が頭の中に鳴っていたんです。
ええ! すごい!
内澤
1コーラス歌詞もそのままでできたので、映画が後押ししてくれたということですね。純粋に人を想う気持ちや大切さだったり、“愛する”“恋する”とは何か?というのを感じさせてくれる作品だったので、そういった人間の“人を愛する”だとか“大切な人を守りたい”という普遍的なところを楽曲に落とし込みたかったんです。自分たちも恋愛に限らず、誰かを想う気持ちというのはテーマにしてやってきているので、そこは重なる部分もあったんですよ。
佐藤
僕も完成試写で初めて映画を観た時、“このシーンが最後だな”って分かるくらい曲がはまっていて驚いたんですよ。本当にメロディーがいい上、メインにピアノが入ってる曲なので、ギターは歌の邪魔にならず、歌が抜けたところでザラついた感じの音が鳴ったらいいなってことだけを意識して弾きました。レコーディングもサポートのピアノも含めた2人5人で“せーの!”で合わせて録ったので、まとまり具合も入っているんじゃないかなと。
伊藤
僕は映画館で最後に流れた時、自分が“いい”と感じられる音を目指しました。家で音楽を聴く時は最初から音楽に向き合いますけど、映画はそこまでにストーリーがあって音楽は最後に来るものだから、過剰なくらいドラマチックでも感動できるだろうなと。実際、山下達郎さんの「僕らの夏の夢」(映画『サマーウォーズ』主題歌)を映画館で聴いた時、ドラムの音がめちゃめちゃカッコ良いと思ったので、そういった具体的なイメージもいくつかありましたね。
前田
僕は当時、フィーリングで弾くスタイルがブームだったので、レコーディング前日に聴いて譜面を書いた覚えがあります。あまり前々から準備をすると新鮮度が自分的に失われる気がして、最新の自分で弾きたかったんですよね。
それこそ“恋”も衝動的なものですからね。サビの《君じゃなければダメなんだ》というフレーズを筆頭に、相手への強い感情がとにかく印象的だったんですが、その根底にあるものって果たして何なんでしょう?
内澤
恋愛に関して言うと、今までの人を忘れて次の恋をするとか、乗り換えるっていうのは嫌だなぁって、僕は思うタイプなんですね。その人がいたから辛い想いも楽しかった日々もあったわけで、それをなかったことにして次に行くのはちょっと違う。それはバンドも同じで、メンバーがひとりでも違えば今のandropは存在しないし。誰も替えが利かないものだというのは、今までの曲でも歌っているところなんです。
伊藤
想いが深ければ深いほど失った時に傷付くけど、それは自分の成長にもつながるので。そのへんは僕も共感できたので、制作もすんなりとやれました。
取りようによっては重い歌詞ですが、内澤さんが歌うと上手くはまるんですよね。そこがandropの不思議なところで。
前田
そこは内澤さんの誠実さが出てるんじゃないでしょうか(笑)。
佐藤
映画のストーリーも、時空を超えてひとりの人を愛するというものですからね。観てみて僕自身も“これが胸キュンというものか!”と思えたし、それでジャケットにも仕掛けをしたんですよ。パッと見はカセットだけれど、開けるとCDが入っていて、裏にはダウンロード用にQRコードがあるという。カセットテープの両端を赤ちゃんと大人の手を握っているアートワークも含め、時空を超えてのつながりというものを表現したかったんですよ。
なるほど! そんな真摯なラブバラードが表題なら、2曲目は打ち込みに振り切ったエレクトロチューン、初回限定盤のみ収録されている3曲目は内澤さんの弾き語りと、今回のシングルは中庸がないのも大きな特色かと。
内澤
それぞれが違う方向に振り切ってるんで、マスタリングが大変でした(笑)。ただ、狙ったわけではないんですよ。2曲目の「For you」は日本郵便『ゆうパック』のタイアップソングということで、MVで日本郵便のキャラクターのぽすくまと共演するという条件があった以外、音楽的にはフリーだったんですね。
あぁ。日本郵便のLINEでも登場する、くまのキャラクターですね。
内澤
なので、ぽすくまと一緒に何ができるか?ということを考えつつ、楽曲はシンセベースを土台に作ろうと。シンセベースだけの楽曲は今まで作ったことがなかったですし、たまたま去年の12月に前田くんがシンセベースを買ったんですよ。それを使いたかったので、極力バンドの部分は削ぎ落した結果、こうなりました。
前田
弦楽器だと構造上どうしても低音が凸凹してしまうところ、鍵盤だと波形が一定で発信されるんで、今までのandropでは聴いたことのないロー感が出せているはずです。例えば今、ここで結構な音量で流したらテーブルの上のモノが全部落ちますよ!
内澤
落ちるだろうね(笑)。
他のメンバーもバンドの部分を削ぎ落すという方向性には異存なく?
伊藤
むしろ、僕は削ぎ落してほしいという希望を出しました。実際、僕が好きで聴いている音楽も削ぎ落されたものが多くなってきているし、バンド的にも『daily』でやってきた横ノリに対する追求も進めていきたかったんです。なので、生ドラムはどうしても必要な箇所にだけサンプリングで使うのに留めて、基本的なビート感は打ち込みで作りました。
佐藤
だから、タイアップとはいえ、全てそこに寄せ切るのではなく、自分たちの表現したいことも併せてやれた印象です。
内澤
よくよく歌詞を見ると“ゆうパック”という言葉は隠されていますけどね(笑)。3曲目の「Image Word」は僕が青森から音楽をやるために上京する時の決意を込めた楽曲で、1枚目のCD(2019年12月発表の1stミニアルバム『anew』)に入っている非常に思い入れの強い曲なんですよ。“image world”というレーベル名のもとにもなっていますし、10周年イヤーの第一弾となる今作に改めて弾き語りのバージョンで入れることで、10周年というものを感じてもらいたかったんです。
佐藤
リズムがフリーで、歌、歌詞、メロディーと、内澤くんの間がしっかり収録されているのが素晴らしいですね。5月から『daily』と「Koi」を引っ提げて始まる全国ツアーでも、今、一番新しいandropを表現することで10周年を感じてもらえたらなと。その先には10周年にしかできないようなことも考えてますし。そもそも僕ら、まだやってないことだらけなんですよ! 例えば、日本以外でのライヴだとか制作だとか。一昨年に4人でライヴを観にシカゴに行った時、そんな話もしたのにまだ全然実現してないですからね。ライヴの形式にしてもライヴハウスやホールにとらわれずに…
内澤
美術館とか、教会とかでもやってみたいよね。やりたいことはたくさんあるので、未来に10周年を振り返った時に“まだまだだったなぁ〜”って言えるようなバンドになっていきたいです。
取材:清水素子
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